空ろの箱と零のマリア〈5〉 (電撃文庫)

【空ろの箱と零のマリア 5】 御影瑛路/鉄雄 電撃文庫

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敵同士となった醍哉と一輝。二人の“箱”
使い、その勝者は──。

 醍哉が手にした箱は“罪と罰と罪の影”。
 人々の罪を可視化、それを取り込むことによって対象を傀儡化するその“箱”を使い、彼は人間を『選別』していく。自身の信念に基づいて。
 醍哉を“敵”とみなす一輝は、彼を止めるため、箱“願い潰しの銀幕”を使い、醍哉を封じ込める。
 “箱”VS“箱”。そして衝突する二人。果たして勝者は──?
おおよそ二年ぶりの新刊。この二年間、なんか作品が変な方向に向かってしまって、あの研ぎ澄まされた刃のような切れ味は鈍ってしまったのかと脱力しっぱなしだったのだけれど、二年ぶりに帰ってきた【空ろの箱と零のマリア】は、凄かった。もう凄かった。切れ味鈍ったどころか、触れらば斬る、寄らば斬る、皆まで言うな撫で斬りじゃ! とばかりにギラギラに砥ぎまくられておりました。もう妖刀と言っていいくらい。その剣域に踏み入ってしまえば、血飛沫をあげてナマス切りにされそうな、このゾワゾワとした薄ら寒さを、思う存分堪能させてもらいましたよ。
登場人物みんなが主人公、というパターンは多くはないにしても決して珍しいと言うまでのものではありませんけど、この【空ろの箱と零のマリア】はちょっとそういうのとは違う感覚なんですよね。今回の話なんか読んでいると一輝よりもむしろ醍哉の方が主人公のような書かれ方をしているんですけれど、勿論彼は主人公ではありません。逆に本来の主人公である一輝はどうなんだというと、今回見てれば判るように……もうドエライことになってます。思いを一筋に絞り、目的を見定め、覚悟を完了してしまった一輝は、この話がはじまった段階でもう主人公という枠組みを逸脱しつつありました。そして、ラストに迎えた破綻と【空ろの箱と零のマリア】というタイトルの真実を前にした時、彼は完全に覚醒、或いは奈落に至ってしまいます。その様は、ラスボスと呼ぶに相応しい静謐な狂乱ぶり。でも、彼だけに目を奪われず、ふと周りを見渡してみると愕然とするのです。
この状況、登場人物がほぼ全員「ラスボス化」してないか?
すべてを切り捨て破滅する覚悟を決めてしまった醍哉に、マリアのためにマリア自身を壊しきろうとする一輝。この二人だけじゃなく、すべてに絶望してかつてのように人間としての在り様をかなぐり捨ててしまったマリアに、ついにその正体を現した「O」。既に戻れぬところまで「折れて」しまった桐野心音。話の主軸に居る誰も彼もが、まるでラスボスのように蠢動しているのです。
主人公、居ないじゃん!! この状況を打破し、打開し、大団円に向かわせようと動いている人が誰もいないじゃないか! 皆が皆、事態を致命的なところに追い落とそうと全力で狂気の渦を巻き起こそうとしている。誰が勝っても、誰が目的を達しても、これバッドエンドしか残っていないんじゃないのか?
特に、本来の主人公である一輝が、Oとの対峙によってついにOと自分とマリアの関係、そして箱の真実にたどり着いたあとの、全てのピースがハマりきったような完全無欠の壊れっぷりには絶句、絶句。もうこれ、どうやったってダメじゃん……。まだこれ、目も耳も塞いで暴走している醍哉の方がまだ修正できる余地があると思えるくらいに、破綻が完成してしまってる。唯一立場的に一輝を何とか出来るだろう立ち位置にいるはずのマリアはマリアで、こちらも全部かなぐり捨ててしまって、ヒロインとしてのラスボス化にひた走ってるし。
現実の方を振り替えてみたら、こちらはこちらで心音さんがある意味終わってしまっていて、そこから何をしでかしてくるか分からない空恐ろしさを醸し出してて、もう誰に救いを求めていいやら。
色葉さんがあんなことになってしまった以上、わらにもすがる思いで悠里にすら頼りたくなってくる。なんかこの娘のあからさまに腹に一物も二物も持ってる小悪魔悪女っぷりが、事ここに至るとむしろ安心に繋がってくる不思議。でも、この子はこの子で醍哉に誑かされたのかそのふりをしているのかわからないけれど、ダブルスパイならぬ二重爆弾の様相を呈してきてるしなあ。
大体、箱の使用者が誰なのか、を明かさないまま続刊になってしまいましたよ? ここ、今後の展開を踏まえても誰が使用者なのかってかなり重要なテイクのはず。
ああもう、本当に凄いことになってきた挙句にここで引っ張りますか。さすがに、次もまた二年後、なんてことにはならなさそうですし、あとがきを読む限り作者もエネルギー充填されてガリガリ書ける状況にあるようなので、それほど待たされずにまたぞろエッジの聞きまくったトドメを期待できそうです。
やっぱり、御影瑛路はこの路線でこそギラギラに輝くんだというのを実感した、空ろの箱と零のマリア復活篇でした。いやあ、凄かった。

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