封殺鬼 クダンノ如シ 下 (ルルル文庫)

【封殺鬼 クダンノ如シ(下)】 霜島ケイ/也 ルルル文庫

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闇の陰陽師・桐子編完結! 志郎との恋は?

聖や弓生とともに怪異の根源である穂積関係の周辺事情を探る桐子。やがて彼女は穂積妙子に「寄生」しているものの正体が祟り神であり、このままでは妙子の生命力が喰らい尽くされるということを知る。桐子は祟り神を祓い落とすため、穂積逸人によって閉じ込められている塔から彼女を連れ出すことにした! ついにクライマックスを迎える神島桐子編。桐子と 志郎の恋にもようやく決着が!?
ルルル文庫に場所を移して描かれてきた神島桐子を主人公とするお話はこれが最後、なんて言われて納得できるカー! と思ってたんですよ、最初は。またまた〜、そうは言いつつまだ続きは出るんでしょ? と思ってた。少なくとも、神島桐子と武見志郎の物語がほんとうの意味で決着する、あの封殺鬼シリーズ本編にてわずかに触れられていた二人の話の顛末、そこまでは描かれるものだと思っていたのでした。
描いて欲しいと思っていた。
でも、それを願っていた私の気持ちとは、決して単純にそのシーンを目の当たりにしたかった訳じゃなかったんだ、というのを今回の話を読んで気付かされたのでした。
私はただ、桐子と志郎の、二人の気持ちを知りたかったのでした。どんな想いで志郎があんな選択をして、桐子がどうしてあんな態度を取る事を選んだのかを、ただただ知りたかったのだという事に気付かされたのです。その想いは、ルルル文庫にて神島桐子という少女の成長を目の当たりにするにつれて募ってきたものなのでしょう。桐子がこんなにも純粋に恋をして、そこらへんの年頃の乙女のように胸を高鳴らせ、芳醇な感性を育んでいくのを見るにつれて、疑問が募っていたのでしょう。このシリーズでの変遷を見るまで、私は神島桐子という人物はもっと冷徹なほど理性的で、情は厚くてもそれを表に出すことをしない色々な意味で徹底した人物なのだろうと思い込んでいましたから。齢十歳の時に、お家騒動の渦中で非情な決断し、自分は二度と泣かないと誓った少女。その頑ななまでに強くあろうとする姿は荼吉尼と呼ばれるに相応しく、後の封殺鬼シリーズの本編で畏怖しか抱けないような凄まじい存在感で若者たちを圧倒した、神島の元当主として姿を現した桐子婆さんと直結して見えたものでした。あの頑なな幼女は、そのまま強大にして伝説の、神島家に隆盛をもたらした稀代の当主へと変わらずに成っていったんだろうな、と思っていたのです。そんな神島桐子のイメージと、あの連れ添いとなった男との顛末で見せた態度は、決して違和感なく、ああ彼女ならそうして不思議はないなあ、と受け止めていたのでした。
でも……神島桐子は思っているような恐ろしい人物でもゆるぎもブレもしないひたすらに冷徹な女でもありませんでした。ルルル文庫に移ってからの、桐子を主人公にしたシリーズが始まった当初の私の混乱と悶絶っぷりを御覧ください。そりゃもう、ガラガラと桐子のイメージは崩れていきましたとも。そして、武見志郎との出会いと交流、そして育まれていく温かな恋心、真っ白な乙女の心情。まるで普通の女の子と変わりない、しかし神島の当主として誇り高く強く在り続ける桐子の姿を見るにつけて、建前に隠れない、ちゃんと男と女として心通わせる恋を育む二人を見て……疑問は募っていたのでしょうね。
以前のイメージなら違和感のなかった、二人の結末に対する桐子の態度。でも、本当の桐子は昔のイメージとは全然違っていて、だったらこの桐子は、桐子を想う青年・志郎は、あの事件の時、本当はどんな想いを抱いていたのだろう。どんな思いで、その時を迎えたのだろうと。
多分それを……二人の本当の気持ちを、知りたかったのだと思います。
そして、実際にその顛末は描かれることはなくても、二人の心情はここで描かれました。

「どうすれば、俺は君の役に立てる?」
「何かあった時のために、私のそばにいて私を守れ」
「わかった」
 わずかの躊躇もなく、志郎は応じた。
(中略)
「俺は、君を守ろう」


「泣かないからな。絶対に、おまえのためになんか泣かない」
 強い声で、きっぱりと。
「万が一だか何だか知らないが、そんなことがあったら思い切り罵倒してやる。けして許さない」
もう二度と泣かないと誓った少女が泣いた夜。彼女がその決意を綻ばせたのは多分、この一度だけ。この優しい青年の胸の中でだけ、少女は当主である事を止められたのだ。
けして許さない、その一言に篭められた桐子の気持ちを思いめぐらすたびに、涙が出てくる。
……武見志郎には言いたいことが山ほどできた。多分、聖も弓生も同じ気持だろう。貴方は約束を守り誓いを果たしたつもりなのかもしれないけれど、この子が貴方にして欲しかったのはそういう事じゃなかったはずなのだ。この子は情が厚い分、一途である分、根に持ち続けるぞ。多分、平成の今の世に至ってもまだ許していないに違いない。神島桐子は、決して前言を翻さないのだから。それができたのは、貴方の前でだけだったのだから。そんな意地っ張りさが哀しくて微笑ましくて、余計に有言を実行させてしまった志郎に憤りともどかしさと、男としての羨みを抱いてしまう。

答えは得た。疑問は晴れ、万感だけがここにある。ならば、一番幸せだったこの時期を最後にして、過去を閉じるがよろしかろう。
孤高で孤独だった幼い少女は、親代わりの人を得て、損得抜きの親友を得て、信頼出来る部下を得て、本当の恋を知り、愛に包まれ、幸せを得ていたのだと、その事実を得た時点で十分です。
神島桐子は幸せだった。幸せになった。それで、十分です。その事実があれば、十分です。
それでも、だからこそ……思いを馳せるたびに泣いてしまうんだろうなあ……。

重ね重ね、聖と弓生が封殺鬼シリーズ本編にて、あれほどまでに神島にこだわり続けた理由が身に沁みた。彼らにとっても、この時代は本当に幸せな時代だったんだろうなあ。
納戸にこもってしまった桐子さま、ほんに可愛いものでした。清香は、最後までいい友達になってくれたなあ。この子は、長い人生の先の先まで桐子の味方で、親友で居てくれたに違いない。宇和島のミカさんは、色々な意味で無敵でした。神島でこの人に勝てる人いないんじゃないだろうか。

……語りたいことは尽きず、万感交到るばかりではありますが、一先ずはここに頁を閉じたいと思います。
本当に、素晴らしい過去編でした。
願うならば、再びこの【封殺鬼】のシリーズを何らかの形で続けていただけたら、と想うばかりです。
出来たら、短くてもいいので現代編。秋川佐穂子や御景三吾にもう一度出会いたいなあ。也さん絵の佐穂子とか、めっちゃ見たいですよ〜。

霜島ケイ作品感想