八丈島と、魔女の夏 (一迅社文庫)

【八丈島と、魔女の夏】 小椋正雪/水月悠 一迅社文庫

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両親の長期出張で俺が預けられた先は八丈島?!しかも、俺を預かってくれることになった親父の親友は本物の魔女?!島に住む少女、真奈との出逢い。そして八丈島の穏やかな生活と魔女エーファのまわりでおこる不思議な事件。俺のわりと波瀾万丈な八丈島生活がここに始まる!第一回キネティックノベル大賞佳作。
おおっ、これはいい、凄くイイ! 作中に流れ続けている空気感、雰囲気が素晴らしい。なんか、いつまでもこの空気の中に浸っていたくなるほど、登場人物たちの交流が醸し出す雰囲気とその舞台となる島の空気が心地いいんですよ。時々、思わずページを閉じて余韻に浸ってしまうほどに。
それに、舞台となる八丈島の宣伝というか解説というか紀行文がまた素敵なんですよ。まるで、目の前に実際にその光景が広がっているかのような感動が沸き上がってくる。風の肌触りとか、潮騒の音とか、海や山や川の匂いなんかがそのまま伝わってくるかのよう。出不精で旅行なんか殆ど行かない自分ですら、ああ此処実際に行ってみたいなあ、なんて思ってしまうほどだから、フットワークの軽い人ならたまらず現地まで行ってしまうんじゃないでしょうか。それほどに、誘引力を迸らせている。八丈島という場所の魅力を、如何なく伝えている紀行小説なんじゃないだろうか。
それ以上に私が気に入ってしまったのが、メインヒロインの真奈と学の距離感ですよ。幼馴染でも何でもない、転校生同士でまだ出会ったばかりだというのに、なんだかピースが嵌ったみたいにこの二人ってお似合いなんですよね。他の友だちに対しては、よっぽど親しくなっているにも関わらず敬語で話してしまう真奈が、何故か学に対してだけは殆ど初対面の時から気の置けない喋り方をするのである。性格的にも温厚で口喧しくもなく物静かな少女なので、敬語で喋るのにも嫌味なく自然ですし、島で出来た仲間たちと接するときもホントに仲良くて距離を置いている訳でもないんですよね。でも、フラットな喋り方をするのは学だけ、という。それも、本人も学も指摘されるまで気づかなかったという自然さで。これが、真奈が学に心を許している、という空気感を醸し出す要因になってるんじゃないかな。真奈も学も歳の割に落ち着いていて、一緒に居ても騒がしさとは縁もないのだけれど……うん、そう、学と真奈が他に誰もおらず二人きりで居て、お互いに何も喋らず黙ったまま一緒にいても何も苦にならず、むしろ沈黙もまた心地良い、と言ったような雰囲気なんですよ、この二人。それでいて、二人きりの世界に閉じこもるという風でもなく、賑やかな島の友達たちの中に混ざっていてもお似合いですし、ちょっと離れて傍からぼんやり眺めていてもなんだかいい気分になれる、絵になる二人、って感じなんですよねー。
二人の保護者として、エーファさんという不思議で浮世離れしているけれど、キチンと大人として二人を見守っている魔女さんが居てくれるのも、いい意味で重石になってて、この作品がフワフワとしているのに地に足がついた感じにさせてくれているんじゃないだろうか。
非日常の存在とも思える魔女さんが、日常の楔として機能しているというのも面白い話だけれど。
勿論、本物の魔女だけあって、エーファさんは摩訶不思議な出来事を学たちの元にもたらしてくれる。彼らはそれを日常の中で過ごしながら、驚き楽しみ笑って体験していき、ずっと先まで携えていく思い出として胸の中に大切に仕舞って行くのである。
それって、とても素敵な事なんじゃないでしょうか。

もし続編があれば、今度は小笠原諸島が舞台となりそう。このまま、日本各地の島を旅して回るシリーズ化も、これだけ素敵な作品を目の当たりにしてしまうと、期待してしまうなあ。
心洗われるような、清々しい良作でした。