憂鬱なヴィランズ (ガガガ文庫)

【憂鬱なヴィランズ】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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この物語を読んだ者は悪に染まる。 「それは憂鬱な結末が描かれた、決して読んではいけない残酷な絵本なんだよ」『赤ずきん』の嘘つきオオカミ、『白雪姫』のいじわる王妃、『青髭』の殺人男爵、彼ら悪役たちは“絵本”を所有した人間に取り憑き、その醜い欲望を剥きだしにする――。消えた親友、女子中学生の連続失踪と、高校生・笠木兼亮の周囲で相次ぐ異変。そして、登校中に発生したバスジャックの最中、彼は“絵本”を回収しているという蒼い目の少女・帯刀月夜と出会う……。悪役に借り受けた異能力を使い罪を犯す者と、それを阻止する者たちとの壮絶な戦いの幕が上がる。
やっばい、やばいわー、この人やっぱり何かぶっ飛んでるよ。デビュー作【こうして彼は屋上を燃やすことにした】で目の当たりにした戦慄はフロックでもなんでもなかったと確信させられた。カミツキレイニーという作家は、思わずバッターが何も出来ずに見送ってしまうほどの素晴らしいコース、外角低めのストライクゾーンぎりぎりに、ストレートを唸りを上げて放りこむピッチャーなのだ。
題材こそ、童話のダークサイドをそのまま人間のダークサイドに当てはめ、人間の持つ根源の悪と向き合わせるホラー仕立ての異能モノ、という感じであり、よく見る…とまでは言わないものの、決して珍しいとまでは言わないタイプなんだけれど……もうね、微妙な心理の機微の描き方が鬼気迫ってる。鬼気迫ってるのに、前のめりにならず描いてる作者まで迫真に酔っ払ってしまわず素面で冷徹に徹してるんですよね。登場人物に作者がハマらずに、恐ろしく突き放している部分が見受けられる。それでいて、それでいて、そこで描かれる人間心理には触れたらドロリとどこまでも沈んでいきそうなほどぬめりが帯びてるんですよ。人が人を思う気持ちって、ここまで濃厚にねっとりとなれるものなのかと思うくらいに。でも、それこそが美しい。見ていて、綺麗だと思ってしまう。
作中でひたすらに想像され語られるのは兄の気持ちや覚悟の方なんですけれど、むしろ壮絶なのは妹の方。わずかにかいま見えた真実や、幾つかの仕草や行為からしか、彼女の内面は慮ることは出来ないのだけれど、だからこそ凄まじい密度の情念が、端々から迸っているのである。それに気づいた時、クライマックスシーンからはもう立ちすくむしかなかった。

主人公の笠木兼亮も、ヒロインであろう帯刀月夜も、登場人物のほとんどが一筋縄ではいかないやるべき事を見定めているキャラクターなだけに、単純に流されていく部分がまるでないので、歯ごたえがあるどころじゃない。戦々恐々ですよ、これは。寒気がする、ワクワクするゾクゾクする、何か見てはいけない深みを覗いているような、怖さと喜びがある。
そして、登場人物の皆がそっと差し出してくれる哀しいほどの優しさに、泣きたくなる。
人が見せる一生懸命の優しさって、優しさがその人を必死にさせる理由であるのって、なんでこんなに泣けてくるんでしょうね。

うわーー、やっぱり私、この人、カミツキレイニーという人の作品、めちゃくちゃ好きですわ。好きというか、ハマる。底なし沼みたいに、ハマる。
絶品でした。期待に違わぬ絶品でした。この鋭利さを失わずに、願わくばどんどんと、新たな作品を世に送り出して欲しいです。

カミツキレイニー作品感想