魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉5 (MF文庫J)

【魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉5】 川口士/よし☆ヲ MF文庫J

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ムオジネル軍との戦いから十日。“銀の流星軍”はぺルシュ城砦に駐屯し、きたる決戦の準備を進めていた。一方、五頭の竜を従えたテナルディエ軍は北上し、ガヌロンの本拠地アルテシウムへ向かう。三つ巴の戦いが勃発しようとするそのとき、ジスタート王宮にもひとつの出会いがあった。「ヴァレンティナ……」「おひさしぶりですね、ソフィーヤ」巨大な鎌の竜具“虚影エザンディス”を持ち、儚げに微笑む戦姫、ヴァレンティナ。ソフィーも警戒する彼女の目的とは……? そして遂に切り開かれる戦端のなか、ティグルは大切なものを失い、なお前に進むことを求められる。そのとき、背中に吹くのは力強き銀色の風――。最強戦姫ファンタジー、第1部堂々完結!
やっぱり、ティグルの戦場での弓働きの描写が凄すぎます! 戦線が瓦解しかけた時に最前線に踊りでたティグルが見せた神業には、思わず読んでるこっちまで息を呑みましたもの。戦場だって静まり返るわ。威力や派手さなら、エレンやミラの竜具の方が遥かに上ですよ? 実際、竜をも薙ぎ払った二人の強さ、活躍は今回の合戦の中でも際立っていましたけれど……それでも、ティグルの弓術の方にこそ心を鷲掴みにされてしまうのです。見せ方が抜群に上手いんだよなあ。あれは、味方の士気もあがりまくるよ。あんなの魅せられて、興奮せずに居られるなんてとても無理。人間のなせる限界を突破した神業であると同時に、あくまで人間がなし得る領域の範疇である事こそが、逆に凄みを帯びる形になってるんでしょうね。
今回のティグルについては、瀬戸際の判断の凄みもまた効いている。あの場面、ティグルは総大将であるにも関わらず躊躇なく最前線に飛び出したのですけれど、決して勇み足や自分が何とかしなければならないという独り善がり、自己満足などが全く介在してないんですよね、あれ。あの場面、あそこはティグルがあの行動に打って出ていなければ、間違いなく戦線は崩壊し、戦いは負け戦に転がり落ちていた。まさに分水嶺であり、決断を有する瞬間であったわけです。その瞬間を彼は見逃すことなく把握し、その上で一毛の迷いもなく選択という概念すら想起せず、成すべき行動に打って出たわけです。
あれは、震えたなあ。その後の弓の神業に魅入ったのも、この下ごしらえがあったからというのも大きいと思う。ここまで圧倒的に傾きかけた戦いの流れを叩きなおしたシーンって、そうそうお目にかかれないですよ。弓の実力以上に、ここで彼が示したのは大軍を率いる将器であり、名将の器でありました。しびれたなあ。
面白いのが、戦場でのティグルの雄姿に興奮し喝采をあげる兵士に、ジスタート、ブリューヌの国の区別がないところ。両国の兵士が共に自分たちの英雄として、ティグルを見てるんですよね。この状況は注目しておいていい部分かも。

一方で、終始戦場の華であり主役出会ったのは、当然この二人、エレンとミラの戦姫。この二人も変わりましたよね。キャラが、じゃなくて犬猿の仲だった二人の関係が。以前は本当に「仲の悪い仲の悪さ」でありましたけれど、ティグル率いる銀の流星軍にて共闘と相成った二人は相変わらずツノを付きあわせて喧嘩三昧なのですが、本気の険をはらんでいた以前と違ってなんか今は「仲の良い仲の悪さ」という感じがしたんですよね。嫌い合い殺しあう関係だったのが、ツンツンとじゃれ合う関係になったみたいな?
相変わらずティグルはとばっちりを食う係なのですけれど、まあこれは悪くないとばっちり?

敵役の方も、此処に来て映えてきましたね。テナルディエにしてもガヌロンにしても、当初勝手に抱いていた権力を壟断する腐敗貴族の親玉、という印象を覆す大物っぷりにはかなりびっくりさせられました。テナルディエなんか、まさかここまで武断派の人だとは思わなかったもんなあ。それ以上に、ガヌロンの黒幕っぷりには驚きを通り越して唖然ですよ、唖然。なに、この怪物?
ロランを気まぐれで殺した時には、頭のおかしいトリックスターの類とも思ったものですが……、こいつ相当にヤバいんじゃないか? 少なくとも、これほどの人物が地位からも自由というのは全くの脅威ですよ。相応に地位につくというのは権力を暴力的に振り回せるという恐ろしさはあるものの、地位に縛られ選択や行動が限定されるという欠点もあるものです。ところが、このガヌロンときたら、保守性がまったく無い、皆無であり、尋常じゃなく自由でフットワークが軽いという……黒幕としても敵役としてもこれは脅威ですよ、脅威。
敵がこれほど大物だと、話も引き締まるというものです。
そして、これほど底知れない敵と通じている新登場の戦姫ヴァレンティナもまた、不気味極まる。これまで登場した戦姫は何だかんだありつつも最終的にティグルの味方になりそうな雰囲気だったんですけれど、このヴァレンティナだけはわからんかもなあ。

今回の戦いで一気にブリューヌ国の内戦は終結。ティグルはその後どうなるんだろう、とそのあまりに複雑な立ち位置から不安混じりに首を傾げていたんだが……にょはははははw
当初のあの契約って、そのまま生きてたんだ。正直、ティグルは捕まった当初の辺境の小さな一領主に過ぎなかった頃と立場が違いすぎてるんで、そのあたりけっこう考慮せざるを得ないと思ってたんだが……エレンにしてもティグルにしても当事者二人とも結構身も蓋もないよなあ、これw
レギン様が頭抱えるのもわかるわー。救国の英雄が、こうもあっさりと持ち去られてしまったら、頭抱えるよ。それが、内戦直後の政治的にも有効だったとしてもw

さて、これである意味ブリューヌという一国のくびきから逃れる事が出来た、とも言えるティグル。ブリューヌで張り巡らされていた陰謀は、潰えるどころかむしろ他国にまで拡大しつつ有るようで、第二部はそれこそ多国間に跨るでっかい騒乱になりそうな予感。そして、その中心になってしまうのは勿論……♪
第二部、実に楽しみです。

しかし、リムは最近、エレンにティグルと結婚しろとからかわれても、拒否や否定をしなくなってきたな、おい。満更じゃないを通り越して、そろそろ本気でこの流れに乗ろうとしてないか?(笑

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