獅子は働かず 聖女は赤く 3 あいつはもう一人でも大丈夫じゃ (獅子は働かず 聖女は赤くシリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

【獅子は働かず 聖女は赤く 3.あいつはもう一人でも大丈夫じゃ】 八薙玉造/ぽんかん(8) スーパーダッシュ文庫

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「わしは誰かが傷つくところを見たくない。それだけなんじゃ」
《竜の魔女》サロメ。優しき魔女が最後にたどり着いた想いは…!

中央教会に追われる反逆者《裏切りの獅子》ユリウスと《竜の魔女》サロメ。
彼らと共に、アンナの旅は続く。
その途中で救った魔女の姉妹を匿うため、彼らは魔女の隠れ里《茨の城》を目指していた。
そこに中央教会の刺客《獅子の牙》が襲いかかる。
《大空の貴公子》フェルディナンドに翻弄されるユリウス。
さらにユリウスを想うコルネリアは、共に死のうとユリウスを抱きしめながら、谷底へと身を投げる。
散り散りになる一行。
そんな中、アンナに秘められた謎が明らかに…!?
竜と鋼と魔女のファンタジー、時々コメディ第三弾登場!!
こう言っちゃあ語弊があるかもしれないけれど、八薙玉造という人はあれだ……

キャラクターの殺し方が巧過ぎる!!

久々に、この人が【鉄球姫エミリー】を書いた人だというのを思い出した。思い知らされた。この巻で、かつてのユリウスの想い人であった【赤き聖女】マルレーネの処刑前夜と、実際に火刑に処せられるシーンが描かれているんだけど、この人が描く「死への直面」って、もうほんとエグいんですよ。生きたい人がそれでも死ななきゃいけない事の無残さ、無念さ、恐ろしさ、悲惨さ。もう、読んでいるこっちまで心をズタズタにされるんです。【鉄球姫エミリー】シリーズの時に、どれだけ心を八つ裂きにされたものか。それを久々に思い起こされました。泣けてくるとか哀しいとかそういうんじゃないんですよね、なんかもう立ち直れないんじゃないか、というショックと脱力感が襲ってくる。マルレーネの、処刑を前にして怯える姿。火をかけられ、ユリウスが見ている前で体中を焼かれながら苦痛に絶叫する姿。もう、耐え難いショックなんですよ。
人が死ぬシーンというのは、それこそ億千万と描かれるシーンです。そして、それぞれに心揺さぶる意味合いが篭められている。印象的な、衝撃的なシーンを効果的に書く人もたくさんいる。でも、この人のように直接読者の心を殺しにかかる「残酷な死」を描く人は滅多居ないと思います。
……ほんとにねえ、キツいんすよ、この人のは。でも、だからこそ真摯で誠実に、死ななきゃならなかった人と生き残った人の想いを描ききっていて、素晴らしいんだ。

とまあ、ここまでの感想を読むとそりゃもう重い話に見えるんですけれど、実際相当に重い話ではあるんですが……この作品の味はむしろキレキレに切れまくった個性的過ぎるキャタクターたちによるぶっ飛んだギャグの掛け合いにこそあり、この三巻もまた超残念ダメッ娘不憫師匠のサロメを中心に、心優しく親切だが親愛がなぜか殺傷力を帯びているメインヒロインのアンナ、もういい歳なのにツインテがそろそろ厳しいコルネリア、昔はイケメンだった善人のフェル兄さん、腰痛が持ちネタを通り越して代名詞になりつつ有るヴァルターなど、当人たちの真面目なのか不真面目なのかかなり判別のしにくいやり取りが、かたっぱしから大爆笑すぎて、色々な意味で息苦しいです、たすけてーww
アンナは、もう相変わらず世話好きでユリウスに構いまくるのですが、世話を焼こうとすると客観的に見て殺人未遂と拷問のオンパレードになってしまうという……何を言っているかわからないと思うが実際にこのとおり以外の何物でもない、ほんとになにやってんの? という有様で、このヒロインやばいよー!(爆笑
今回表紙にもなっているサロメ師匠もまた、表紙を飾って燃えたのかして、不憫さがいつもにもましてフル回転。もうヤメてあげてよ!! 誰とは言わないけれど、もうヤメてあげてよ、ほんとに(笑
なんでこの人、偉い魔女で師匠で凄い人なのに、こんなに不憫枠なんだろう。虐めてオーラ漂ってるんだろうw 色々駄目すぎて、助けてあげたくなる、というか慰めてあげたくなる。生きてるだけで、不憫!

とまあ、お笑い成分も多分に含みつつも、ストーリーの根幹は常にハード路線。此処に居たり、ついに赤の聖女マルレーネと、アンナの関係も明らかとなり、なぜアンナが各勢力から追われるのかというユリウスも知らなかった真実が暴かれていく。そして、なぜユリウスがアンナの元に現れたのかという理由も。
ユリウスも彼の抱えていた過去を見れば悲惨極まりないんだけれど、それ以上にコルネリアがもう一杯一杯で見ていられない。人を好きになる事がこれほど一人の少女を追い詰め、苦しませる事があるんだなあ。てっきり彼女については、もっと女の情念ドロドロで、マルレーネへの対抗心からユリウスと心中を図ろうとしていたのかと思ってたんだけれど……まさかマルレーネから直接あんな呪いを掛けられていたとは。ただ憎めていれば、ただ呪えていれば、ただ嫉妬にまみれていられればむしろ楽だっただろうに。あんなふうに託されてしまったら、耐え切れずに狂ってもおかしくなかろうに。
この子も、かわいそうな境遇すぎる。

そして、アンナに隠されていた真実が、世界を激震へと導いていく。
これは、ちょっと予想していなかった。これ、作品が長期に続くなら、これを期に物語全体が大きく飛躍するターニングポイントになるんじゃないだろうか。それくらいに、この展開はこれまでこの作品に抱いていたイメージからすると予想外。
ある意味、彼もまたマルレーネの呪いによって流されていたユリウス。その彼が、無気力に約束に縛られていた彼が、ついに自分の為すべきを自覚した時、自分のやりたいことに気づいた時、彼がもう一度本当の意味で立ち上がり、<炎鎧王>マルテと完全に繋がったこのタイミングで、ユリウスが秘していた秘密がアンナとユリウスに逃れがたい錯誤を生み、そしてアンナの真実がすべてを覆す。
まさに、これからどうなるの!? という大盛り上がりのところで引きですか、引っ張るなあ、引っ張りやがりまするなあ!!
このシリーズはもっと話題になってもおかしくないと思うくらいに面白いんだけど、なぜか微妙に知名度が低いのが勿体無くて仕方ない。
面白いですよーー! これ、ホントに面白いんですよーー! と、場末で叫んでおきましょう。
面白いんですよーー!!

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