彼女たちのメシがマズい100の理由 (角川スニーカー文庫)

【彼女たちのメシがマズい100の理由】 高野小鹿/たいしょう田中 角川スニーカー文庫

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愛内葉介の目下の悩み、それは毎日の食事!料理研究家の母親がイギリスに旅立ち、俺は隣に住む幼なじみの香神紅緒に生活全般を世話になっている。成績優秀・品行方正おまけに献身的な彼女の問題は―作るメシがマズいこと。だがどうしても俺に「おいしい!」と言わせたいらしく…この幼なじみの料理が美味くなる日は来るのだろうか、ってホットサンドに苦みが欲しいからバファリン入れるなっ!新感覚のリアル“メシマズ”ラブコメ。
ヒロインの作る飯が破滅的に不味い!! という要素はこれまであくまでラブコメを彩る様々な展開の中の定番ネタの一つ、というのが一般的な扱いでしたが、その要素を敢えて主題にして突き詰めてきたのが、本作【彼女たちのメシがマズい100の理由】である。
うん、この着目点は素直に素晴らしいと思いましたね。ありがち、定番、という観点に惑わされてありそうで無かったテーマである。いや、これ本当に普通に不味そうなんだわ(笑
作中に、調味料の塩と砂糖を間違えるより、ご飯を炊く時水が多すぎて半分おかゆみたいになったり、ルーの分量が少なすぎてカレーがシャバシャバになったりする方がイラッと来る、みたいな表現があるんだけれど、まさにそんな感じの、食べられないわけじゃないんだけれどむしろ食べれてしまえる範囲に留まってしまっているのが恨めしい不味さ、というのが実にいやらしく滲み出ているのである。
これ、私にとっては【ベン・トー】と同じく読後に飯が美味くなる本でした。あちらとは全くベクトルが反対でしたけどねw 【ベン・トー】は読むだけで空きっ腹が刺激されまくる実に美味そうな文章表現が食欲を増進させてくれたものですが、こちらのメシマズはというと、この生々しいまでの不味そうな料理の数々を目の当たりにした後で、現実で実際の飯を前にすると輝いて見えましたね(笑
別に特別美味しいというわけでもない普通の料理が、この本を読んだ後だともう絶品に見えてきます。
はい、美味しかったです、ごく普通の特に特徴のないナポリタンw

にしても興味深いのは不味い飯を作るヒロインたちよりも、むしろその不味い料理を食べ続ける主人公の方である。いや、面白いというと、ちゃんとヒロインたちが自分の作る料理が世間的に見て不味いものだと認識しているのも面白い話なんですよね。というか、葉介がちゃんとお前たちの作る飯は不味い! と嘘をつかずに伝えているんですが。やたらと嘘を貫き通して被害を拡大する主人公や、自分の料理の凶悪さに全く無自覚で反省も精進も全くないヒロイン、というのとは真逆の体制を敷いているところに、ちゃんと主人公もヒロインも「飯が不味い」という点に真っ向から取り組んでいる姿勢が見えるわけです。
もっとも、ちゃんと自分を省み、世間とのギャップを鑑みて、キチンと努力を重ねているにも関わらず、むしろ逆方向の不味い方へと果てしなく進化を続けていく紅緒は、もうある意味取り返しがつかない気がしますけど。
この点、元々料理スキルがなかったり味覚が偏っているだけのリリィやカロンは努力次第でなんとかなると思うんですよ。特にリリィはあれは普通に練習してこの国の味付けに馴染んでいけば、容易にまともになれる段階かと思われます。だがしかし、紅緒、オマエはダメだ。というか無理だw
この子の味覚に対する発言は、ちょっと威力強すぎて恐怖を感じるレベル。なんで葉介は幼馴染のくせに彼女の味覚異常に気が付かなかったか。いや、意外と気づかないか。これだけ何食べても美味しい美味しいとしか反応しなくても、日常生活でおかしいとは思わないもんなあ。にしても、それマジで言ってるの? という愕然とするような発言が散逸していて、思わず笑ってしまった。リリィとカロンの料理に対してもあの反応である、ちょっと他の二人とはレベルが違うどころか次元が違いすぎるw

と、そう言えば主人公が面白いという話ではじまったんだった。
これほど不味い料理を毎日食卓に出され続けながらである。この男ときたら、一度として、一瞬として、自分で自炊する、という考えが全くよぎらないんですよね。まるで発想すらないくらいに。
幼なじみたちが作ってくれる毎日のメシが不味い。いったいどうしたらいいんだ!? って、んなもん自分で作れよ、と思ったのは私だけだろうかw
普通は、ちょっと自分で作ってみようとか考えますよね。それに、葉介、別に紅緒たちがメシを作ってくれること自体には感謝してますけれど、どうしてもそれを食べ続けなければならない、という義務感や責任感に駆られてるというほど自分を追い込んでるわけじゃないんですよ。作ってくれたものはキチンと食べるけれど、美味しい料理を作ってくれる、という誘惑にホイホイと乗って行ったように、腰軽く浮気してますしね。
それなのにまるで、この男には料理とは食べるものであって作るものではない! という信念でもあるかのように、自分が厨房に立とうという発想は一瞬たりとも脳裏をよぎらないのです。ちょっと一昔前の亭主関白が微量に入ってるんじゃないだろうか、こいつ。一人暮らしを始めた当初の無計画性といい、生活面においては相当にダメ人間要素が多いような気がします(苦笑
ただ、恋愛面については他にリリィとカロンというメシマズヒロインは居るものの、雰囲気としては完全に紅緒一択。傍から見てると、どう穿っても「ごちそうさま」としか言えない半同棲生活。はい、完全にご夫婦です、おめでとうございましたw

と、メシがドンドンまずくなっていく事を除いては、紅緒の家事スキルの高さに性格の良さや明るさも相俟って、理想的な新婚生活だったのですが、そういう流れに茶々を入れるのは往々にして「姑」の類なのである。
まああれだ、なんかラストに偉そうに誰かさんが登場して上から目線で宣ってましたけれど……どう見ても「オマエもか」な展開ですよね。英国でリリィの料理を絶賛していた時点で、色々とボロが出ていますからw
次の巻、即座のこの人がorzとなっているのが目に浮かんできそうです、うはうは(笑