子ひつじは迷わない  贈るひつじが6ぴき (角川スニーカー文庫)

【子ひつじは迷わない 贈るひつじが6ぴき】 玩具堂/

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クリスマス直前に「迷わない子ひつじの会」に持ち込まれた一つの依頼―それはある殺人事件の謎を解くことだった!?かくして吹雪に閉ざされた山荘を舞台に“なるたま”たちと怪しげな住人たちとの奇妙な推理劇が始まる!!…はずなんだけど、何故か佐々原と恋人を演じたり、会長と一緒に寝ることになったりと、毎度の如く大騒ぎになる「子ひつじの会」のメンバーたち。やがて仙波のサンタ姿を前にとうとう“なるたま”が―。
うむむむ、面白い。やっぱりこれ、抜群に面白い。ド派手で特徴的な展開はないんだけれど、毎回読み終えると十全大満足してるんだよなあ。キャラクターからストーリー、細やかな内面描写に、敢えて具体的に描かずに「見せる」ことで読者に「想像」させる演出。こういうのが、一切の隙なくパーフェクトに、そして躍動感を以て弾けてるものだから、客観的な評価と主観的な評価が諸手を挙げて絶賛する他無いんですよ。つまり、百点満点。これほどあらゆる方面に完成度高い作品はなかなかないですよ、うん。
という訳で、この六巻は再び一冊まるごとの長編に。舞台は雪に埋もれた山荘での、かつて起こったとされる殺人事件の謎解き。その為に、山荘を訪れたなるたま、岬姉、佐々原、仙波の四人は主催者である千代の依頼で、当時その山荘に居た人間の役を割り当てられ、当時の状況を再現することで誰が被害者を殺したのか、その真相を明らかにすることを望まれるのですが……、この事件自体は既に警察によって事故として処理されている上に、この再現劇は事件の翌年から毎年のように千代の親戚たちの集まり(あの文芸部の怪人東原史絵元部長もその一人であり、今回の旅行の依頼人でもある)によって、繰り返されてきているのだという。そして、不可解な千代の姉倉子さんの態度と、段々と浮き彫りになってくる千代の事件への執着が、遊びの範疇を超えて張り詰めたような微妙な緊張感を膨らませていくのである。
当時何があったのか!? という謎よりも、千代と倉子の姉妹の間に流れる微妙な空気も含めて、どうして現在がこんな雰囲気になってしまっているのか、という不可思議さの方が募ってくるんですよね。過去の真実を暴く、というよりも過去に本当は何があったのか、を探ることによって今何が起こっているのか、を見出す流れにいつの間にかすり変わっていた物語の流れが、そりゃあもう絶妙でした。
それ以上に面白かったのが、それぞれの登場人物を割り当てられたなるたまたち……いや、なるたまはいつも通りなので、会長とか佐々原とか、いつもと勝手が違った様子の仙波とかの内面の迷走っぷりが実に面白かった。役を割り振られる、と言ってもその人に成りきる、とまで演じることを拗らせるわけじゃないんだけれど、割り振られた以上はどうしてもその人の身になって色々と考えてしまうんですよね。会長は、被害者の姉として。佐々原は、かつて被害者と元恋人関係にあったという倉子のことを考えて。それは、同時に被害者である青年の役を割り振られたなるたまと自分自身との関係を客観的、とまでは行かなくても視点を変えて改めて捉え直す機会にもなってしまって……。
興味深いのは、会長にしても佐々原にしても仙波にしても、すごく丁寧に内面描写を手がけていて、彼女たちが何を考えどんな思いを巡らせているかを鮮やかに描き出しているくせに、本当に肝心な場面になると……ぱったりと描かなくなるんですよ、この作者。そして、その肝心な、その人の中で何か決定的な変遷が起こっているその時を、外から見せるのである。心の内側を覗けるはずのない第三者の視点から、会長や佐々原、仙波の様子を見せるんですよ。そうして、彼女たちがその時何を考えているのかを、彼女たちの行動や表情、所作から「想像」「推察」させるのである。このさじ加減が、ほんとに絶妙でねー♪ 微妙に、彼女たちを見ている人の「主観」が混じっているのも面白い。その人との関係性や親密さ、相手をどう思ってるか、という要素がノイズになって混じったり、逆に当事者よりも鋭く真相を突いているんじゃないか、という点に行き着いたり、となんていうんだろう……答えは常に一つ! というんじゃない、物事の答えの柔軟性、というものが人の心理や関係性にも掛かっているような描き方なんですよね。それって、この作品でなるたまが実際の事の真相を弄って、一つじゃない答えを見せてくれるのにも繋がっているようで、なんか巧いなあと思わせてくれるんですよねえ、うんうん。
仙波がなるたまを毛嫌いしているのも、彼女の中ではそれが真実であり疑いようのない事実なんでしょうけれど、その他の人から見える仙波の気持ちというのは本人が思っているのとは違って見えてたりしますし、きっとそのどちらもが間違いではなく確定していない真相なのでしょう。これは、佐々原や会長もおんなじで、うむむむ、その揺らぎこそが全力でラブコメしてるなあ、という実感を味わわせてくれてるんだろうなあ、これ。
それにしても、会長は完全になるたまのこと意識しはじめちゃいましたねえ。役に合わせてなるたまとの関係を見なおしてしまったことで、これまでぐらついていたものがある意味決定的になってしまった感すらあります。この二人の関係って、当初は本当に恋愛臭のない姉弟関係だったのを思うと、文字通りの親愛が恋愛感情へと移り変わっていく変遷を、ただの弟分としてしか見ていなかった年下の男の子を男性として意識し始める女性の気持ちの移り変わりを、つぶさに描きまくられているようなものでして、姉属性の幼馴染属性の身としてはこれ以上ない至高!! 至高!! 至高!!
仙波のデレ傾向の圧倒さに仰け反りながらも、まだまだ私は岬姉一択でございますよー。会長が温泉で仙波のほっぺたをふにふにと引っ張るシーンは最高でした。……最高でした。あのシーンの会長の気持ちを「想像」するとねえ……たまらんです。

肝心の事件の真相ですけれど……なんか今までで一番人の内面に、仙波たちが切り込み、踏み込んだ結末だったなあ、と感慨深かったです。千代と倉子、二人のこれまでの、そしてこれからの人生に大きく干渉する、相応の重さを背負う覚悟を持っての行動でしたしね。今までなるたまたちが関わった事件が軽かったとは言いませんけれど、それでも重たかったと思います。その重さに相応しい切なさと優しさが浮き彫りになった結末だったんじゃないでしょうか。特に、これまで表に立って結果をもたらすことをしなかった仙波が、全部引き受ける覚悟で前面に立って事件に立ち向かったのは、これまでの彼女のスタンスを思えば衝撃的であったとすら言えるかもしれません。彼女も、それだけなるたまの影響を受けつつあるのかしらねえ。

と、三人娘となるたまの関係もさらに複雑さを増して面白くなってきたところで……なんと!? 一旦、この【子ひつじは迷わない】は停止とな!? 打ち切りじゃなく、またいずれ再開するようなイントネーションですけれど、次巻の刊行予定は未定、というのはかなりショック!!
新作は勿論楽しみですけれど、それでもショック!! 長引かずの再開を望むばかりです、これだけ多くのキャラクターが魅力的に立ちまくってる作品をこのままフェードアウトしてしまうのは勿体なさすぎるですから。

シリーズ感想