おやすみブラックバード (幻狼ファンタジアノベルス)

【おやすみブラックバード】 小竹清彦/加藤たいら 幻狼ファンタジアノベルス

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朽ち果てた廃墟の中でさまよっていた三枝千春は、髪も肌も真っ白な少女を発見した直後、異形の存在に襲われる。女性たちに救われ、扉に押し込まれた千春が目覚めたのは、引っ越した古い雑居ビルの自分の部屋だった―。リアルすぎる奇妙な夢を疑問に思いながら、隣人に挨拶にいったそこで、夢に出てきた女性に遭遇した千春は…。『死』と『謎』と『戦闘』が渦巻く廃墟ワールド登場。
この人の作品のイメージって、歯切れのよいスタッカートなジャズだったんで、タイトルの「ブラックバード」がビートルズの曲だと判った時には意外だったんですよね。あの曲って、アコースティックギターでこう……しっとりとした曲なんですよ。ただ、もの寂しい感じのような気がして、聞いていると段々と浮き立っていくものがある。上へ上へと飛び立っていくような。うーん、そう考えると最初のイメージとは違ったのだけれど、なるほどこの曲をイメージして作られたお話だったのかな、と思えてくる。純粋に、傷ついて地面に降り立った鳥がもう一度羽ばたいて空に飛び立っていくような。
そして、そこには孤独感はないんですよね。
古い雑居ビルの三階。そこに自然と集まってしまった若い男女は、皆が皆、飛ぶことに疲れてしまった鳥だったのだとしても、そこで同じ時間と空間を共有する大切な仲間と出会いました。
一緒に過ごす時間は、とても穏やかで心安らぎ日々でした。たとえ、夢のなかで果てのないように見える彷徨と、謎の敵との戦いがあったとしても、現実に戻った時そこにあるのは、笑いに満ちた会話と美味しい手作りの料理と痛みのない静けさ、そんな和やかな空気。それは、自然と傷が癒えていくような柔らかい優しい世界。
相変わらず、というべきか、小竹清彦という人の紡ぎだす人と人が一緒に過ごす時間の穏やかでいて洒脱でぬくもりに満ちた空気感は、なかなか他に見ることのない独特の空気が醸しだされていて、この人の作品を読む度に思わず目を閉じて浸ってしまう。完全にファンですね、これ。ハマってますね。
【アップルジャック】【カルテット】【Wizard】、これまでの作品と共通しているのは、まさに人と人との繋がり。一人ひとりが自立しながら尊重しあえる、優しく起立した人間関係。生涯に渡って潰えない友情、というと全く大仰なんだけれど、ほんとに自然なんですよね。ストレス無く一緒の空間に居る事のできる関係、それでいてベタベタせずに一人で居ることも大事にできる関係。きっちりパーソナルスペースが確立されているにも関わらず、それが干渉し合わないんですよね、この人達の仲間関係って。
不思議な事に、そうした「絆」で結ばれた感覚は、面識も何もないはずの前の同じ部屋の住人たちにも広がっていくのです。彼らの残した記憶の残滓は、同じ立場に立ってしまったもの、という共通性もあるのだけれど、出会ったこともない人達に自然と仲間意識を抱いていくこの感覚は、ホント素敵なんですよ。多分、この二つのチームは出会った瞬間にかけがえのない仲間同士になれると、疑いもなく信じられるくらいに。エピローグのその後の光景が、同じ部屋に集まって十年来の仲間のようにワイワイと肩を寄せあって笑いあえるのが目に浮かぶようです。
何の因果もなく、ただこの雑居ビルの同じ階の部屋に暮らすことを選んだ、というだけで出会ってしまった、偶然の産物の一会。それを運命というのも、きっと野暮な話なんでしょう。ただ、良き出会いに感謝をすればいいだけで。
個人的には理子がいい娘すぎて、ちょっと黒ちゃんシメてやりたくなりましたw 基本的に、出てくる人みんなすこぶる良い人ばっかりなんですけどね、これ。

不思議と、これまでの作品よりも夢の世界に迷い込む、という不可思議な要素が加わっているにも関わらず、地に足がついたような感じがある作品でもありました。具体的に言うと、スタイリッシュさとか荒唐無稽なスピード感、という点を一旦脇において、じっくりと腰を据えて話を展開していた感覚ですね。ただ、個人的には前々でのはっちゃけていた無茶苦茶さが好みでもありましたので、こういうしっとりと落ち着いたのは嫌いじゃないにしても次の作品はまたノリノリにドライブきいたのが希望かなあ。

小竹清彦作品感想