雪の翼のフリージア (電撃文庫)

【雪の翼のフリージア】 松山剛/ヒラサト 電撃文庫

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ここは翼をもつ人々が住まう世界。事故で翼を失った『飛翔士』の少女・フリージアは、再び大空を飛び、生き別れとなった妹と暮らすために“義翼”職人の男・ガレットのもとを訪れた。ガレットはあくまで代替品である“義翼”で過酷な飛行レースに臨もうとするフリージアに辟易するが、彼女との間に『ある因縁』があったことを知って、力を貸すことを決める。目指すは飛翔士たちの最高峰『天覧飛翔会』での優勝。果たして少女の信念は大空を制することができるのか―。不屈の意思を持つ少女と、それを見守る“義翼”職人の男の、努力と信念の物語。
義翼って、もっと無骨で作り物めいたものなのかと思ってたら、表紙のフリージアの右翼についているこれがそうなのか。殆ど宝飾品と呼んでも過言ではないくらいに美しいデザイン。作中の挿絵に出てきたときは思わず見惚れてしまったほど。これぐらい見栄えが良かったら、好んで翼に装着する人も居ておかしくないと思うけれどなあ。少なくとも、これだけデザインが美しいと義翼というものに対する翼持つ人達の見下すような感情も、ナンボか改善されるんじゃないかな、と思うくらい。
ともすれば、そのあたりの義翼というものに対する世間のイメージとか、もうちょっと掘り下げて欲しかったかなあ。ということを言い出すと、それ以外にもガレットの義翼への拘りとか……『天覧飛翔会』で義翼を使って優勝する、というフリージアの決意に、自分にはそんな発想はなかった、と悔しがっていたように、彼にも義翼職人となった相応の理由や矜持というものがあったはずなんですけれど、そういうのも深く触れられず仕舞いでしたしね。そんな感じで、もうちょっと突っ込んで書いてよ、と思ってしまうようなチビっとずつ摘んで摘んで深く見せてくれない、という要素が沢山ありすぎて、どうしても一冊に無理やり詰め込んでしまったな、という感覚が抜け切れませんでした。そこまで拘らんでも、せめて前後編くらいには分けても良かっただろうに。様々なエピソードに触れている、と言うことはそれぞれの話にちゃんと構想はあったようにも思えますし。
地べたを這いずりながら、砂をかぶり泥を舐め服をズタボロにしながらも前に進み続け、義翼屋へとやってくるというヒロイン・フリージアの壮絶なまでの登場シーンによってはじまる冒頭。貴族の血を引きながら、幼少の頃の家の没落によって幼い頃から苦労して育ってきたフリージアは、誇り高い信念と泥に塗れることを恐れない質実さを兼ね備えている努力家であり、非常に心の強いヒロインでありました。こう、彼女が高く飛ぼうとするのを、心から応援したくなるようなイイヒロインなんですよね。その意味では、世話好きでちょっとおっさん入った、そんでもって子供の頃のフリージアの今に至る選択のきっかけともなった人物が、サポート役としてヒロインの脇に付く、という展開はこの歳の差ありの師弟であり主人と従業員であり職人と顧客である、という人間関係の掘り下げ甲斐のある関係は非常に美味しい設定だったんですよね。そして何より、飛びたい、というフリージアの願いが二人の関係の基底にあり、その願いの発端がガレットとの夢の階の第一歩にある、という因果がその関係をさらに後押ししてくれる、という要素があったわけです。
ならば、そこに全力投入して、ひたすら「飛ぶ」という要素に焦点を合わせて突き詰めていけば、もっとスマートに昇華出来たんじゃないかなあ、と明らかにあれもこれもと欲張りすぎた形を見せられると残念に思わざるをえない。
フリージアのライバルとなるグロリアの存在も、ガレットとの関係も含めてちょいと中途半端で見切れてたんだよなあ。
生煮えである。
とまあ、どうしても感想を書くと詰め込みすぎてもったいない、というのが出てきてしまうのだけれど、逆にもったいないと思ってしまうほど面白そうな要素があり、語り口は滑らかで物語に引きこむ誘引力があったわけです。
これだけ残念な要素がたっぷりあったにも関わらず、こんなにも面白かったんだから、これらの引っかかった部分を整えてたらどれだけ面白くなったか、と思っちゃうんですよね。それだけ期待させてくれるものだったので、読んで損はありませんからっ。

松山剛作品感想