氷結鏡界のエデン10  黄昏讃歌‐オラトリオ・イヴ‐ (富士見ファンタジア文庫)

【氷結鏡界のエデン 10.黄昏讃歌‐オラトリオ・イヴ‐】 細音啓/カスカベアキラ 富士見ファンタジア文庫

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虚空に穿たれた小さな亀裂。それは幽幻種を穢歌の庭へと還すために開かれた扉だった。その身に宿す魔笛が呼応し引き寄せられるシェルティスと、彼を救うべく手をさしのべた天結宮の巫女ユミィは穢歌の庭へと堕ちてゆく。彼の地にみちる濃密なる魔笛と夢数の幽幻種たち。その先にあるものは―「あなた次第です。このままでは二人が浮遊大陸に戻ってくる可能性はゼロなのだから」異篇卿イグニドがモニカたちに語る、穢歌の庭に堕ちたシェルティスとユミィを待ち受ける運命とは―強き決意が奇跡へと昇華する、重層世界ファンタジー。
これまで、それとなく共通の単語を用いて関連性を示唆するだけだった、作者の前シリーズ【黄昏色の詠使い】。そして千年前の過去編という扱いだった【不完全神性機関イリス】。この両作品がこの十巻で【氷結鏡界のエデン】とガチンコで繋がったぁ!!
それはもう、分離していたマシンが合体して巨大ロボットにでもなったような勢いで。まさか、ここまでダイレクトに直結してくるとは、大胆過ぎるくらいですよ。アマデウスなんか、自ら「アーマ」と名乗ったくらいだもんなあ。実際にネイトやカインツの名前が出てくるし、アマリリスやシャオが出てきた以上、世界そのものは違っていても世界観そのものは共通していると考えてもいいのでしょう。何しろ、黄昏色の詠使いという作品からして別の世界の扉を開けて繋ぐような話でしたしね。セラの楽園というキーワードを通じて、あまたある世界を繋ぐ。その中に黄昏色の詠使いの世界やこの氷結鏡界のエデンの世界を当てはめて、ひとつの大きなグランドデザインの存在を見せつけてきた感じだ。実際、一気に広がった感のある世界観に、ややも圧倒感を感じている。
さらに、横の広がりのみならず、縦の深さとも言うべき過去との繋がりを一緒に持ってきたのは贅沢というか戦力の集中というべきか。
まさか、穢歌の庭の底にこんな世界が広がっていたとは。ある意味、千年前のイリスや紗砂、そして凪たちはきっちり役割を果たしていたんですね。なまじ、今のこの浮遊大陸を取り巻く状況という現在を知っているだけに、千年前の過去において彼らは為す術なく殆どを滅ぼされ、絶望的な撤退戦の末にようやくこれだけの生存権を確保して、細々と命を繋いできたのか、という想像を消しきれなかったのだけれど、凪たちは敗北したのではなく、ちゃんと勝利を残してここまでたどり着いてきたんだな。
私は過去の【不完全神性機関イリス】とこの【氷結鏡界のエデン】は、一種の断絶を経ているのだと思っていた。このイリスの物語は、一度終りを迎えてしまっていたのだと思っていました。でも、違ったようです。彼らはこの千年、何も終わらせずに見事にここまで世界も物語も生かしたまま繋いできたんだ、というのがシェルティスが穢歌の庭の底で出会った人物を目の当たりにした時に実感したんですよね。何も終わってなんかいなかった。今もなお、続いていたんだ。なんか、感動してしまったと同時に、千年という悠久の時間の流れをようやく実感したような感覚。
その未来への希望のバトンを受け取るべき、シェルティスとユフィは、だけれどまたこれ……きっつい話やで。世界の行く末への絶望を、個々の想いを昇華しての希望によって覆そうとしていた物語が、この瞬間まったく反転してしまったのですから。終わる世界の救世は、個々の絶望によってのみ成し遂げられる、と。

事此処に至ってしまうと、シェルティスとユフィの二人ではどうにも二進も三進も行かない状況になってしまったと言えるので、その意味ではこっから周りの助けがどれだけ食い込めるか、って所になるのかなあ。その意味では、彼女の復活フラグは非常に大きいものかもしれない。なんかいろいろな意味で最強無敵だったエリエが、本格的に重要なキーキャラになってきたなあ。
あと、紗砂さん。本編初登場でしたが、イリスで見せていた本性というか凶暴性は今のところ伏せられているようで、何よりですw 巫女さんたちの発言から、三十ぐらいまで成長してたのかと思ってたけれど、少女体のままだったのか。熟女紗砂も悪くはなかったんだが。

色々と切羽詰まって暗い雰囲気になってきたなかで、独りだけマハさんが春真っ盛りです(笑

細音啓作品感想