蒼柩のラピスラズリ (MF文庫J)

【蒼柩のラピスラズリ】 あさのハジメ/菊池政治 MF文庫J

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俺・辻峰冬夜は突然、従姉妹たちと一緒に住むことになってしまった。美少女姉妹との同居というと聞こえはいいが、実際はクソ親父が作った借金のカタの犬みたいなもんである。そして、彼女たちにはとある秘密があった。なんでも、俺たちのご先祖様には魔女がいて、その血を分け与えられた九十九のアンティーク――《魔女の遺産(ウィッチクラフト)》を蒐集しているらしい。だが、俺はふとしたことから、彼女たちが所有していたウィッチクラフト《蒼柩》を目覚めさせてしまう。なぜか金髪の少女の姿をしたそいつは、「あんたは今日からわたしの所有者。そして――わたしの下僕よ」と言い出し……!? 学園執事ラブコメ『まよチキ!』でおなじみのコンビが贈る学園バトルアクション!
ぬうう、これが長編シリーズを見事に完結させた作家のお点前か。【まよチキ!】は、実は一巻読んでそのまま読むの止めちゃってたんだけれど、これは認識を改めるべきだったかもしれない。王道路線というのは、筆に力がある人が書いてこそ映えるもので、腕が無い人がそのまま書くと中身の無い丸写しの教科書みたいにぺらっぺらで、重さも厚みもない粗雑な量産品に成り果ててしまうものである。こう言っちゃなんだけれど、MF文庫は長く続いているシリーズでもそういうの結構多い。一巻読んで、【まよチキ!】もその手の別に読んでも読まなくても記憶に残らなさそうな特徴なさそうなのか、と思って切ったんだけれど、傍から見てても後半に入ってからの評価が何気に高くて、あれ、これは違うのかな、なんて思ったりもしたんですけれど、さすがに巻数二桁入ってから改めて追いかけるというのも躊躇いがあって、完結するのを外から見ていたのですけれど、関心は生まれてたんですよね。んでもって、新しいシリーズが始まるのを機会に、もう一度挑戦してみようかな、と思った次第。
結果としては、まず当たりでした。
いやあ、確かにベタな設定なんだけれど、キャラもベタなはずなんだけれど、これがなかなかに堅実なんだわ。テンプレに甘えずに、キャラクターの心情を丁寧に構築しているために、一から十まで作者が思うとおりに動かすのではなく、ちゃんと自律できてるんですよね。だからこそ、シチュに対する言動や思いの移ろいに不自然さや作り物めいた不出来さが見えず、自然にぬるぬると動いている。同時に、キャラクター同士の交流や心の接触も、決められた形に終始せず、流れによって細やかに様々な色を垣間見せるのを上手く摘み上げてるんですよね。その上で、主人公を始めとしてそれぞれに信念というか、一本芯の通った基準となる考え方が備わっているので、ブレがなく、人間関係の衝突と和解に至る流れを明晰に描写できているわけです。
何というか、そうした作品の基本構造自体が凄くしっかりしているものだから、いい意味で作品全体が安定してるんですよ。このどっしりした構えは、何気になかなか作れるもんじゃないんですよね。設定ばっかりガチガチ固めて枠組みを作った気になっているモノともわけが違う。最初の段階でこうした堅実かつ余裕のある作りが出来る人の作品が、早々安っぽくなるこたぁねえですよ。
今のところ、どちらかというと派手な出だしではなく、オーソドックスにまず主人公周りの環境を整え、目的を定める形に終始していましたけれど、足場固めとしては充分以上に面白かったんじゃないでしょうか。少なくとも自分は、これは続き読みたいな、と思わせていただきましたし。
何より、ラブコメでありつつも、家族モノとしての面を前面に押し出してきたのは、その手のが好きな身としましては期待せざるを得ませんな。家族の形も千差万別、展開によって様々な形に姿を変えていくのもまた妙なるもの。ヒロインとなるラピスも真由香も、変に距離をとってツンケンしたり、逆にベタベタに甘えすぎる形にもならず、良い距離感をこの一巻で掌握してくれたのはより好みの形でしたし。ラピスはもっと面倒くさい性格してると思ったんだけれど、思っていた以上に賢明でしたしね。自分の立場も現状も視野に入れる事の出来ないお馬鹿さんは好きじゃありませんから。
何はともあれ、これは次からも期待。いい意味で、キャラの内面にグチャグチャと踏み込んでいってくれそうな雰囲気ですし。