薬屋のひとりごと (Ray Books)

【薬屋のひとりごと】 日向夏 Ray Books

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中世のとある東洋の大国。皇帝の側室が住む後宮を舞台にしたミステリー。主人公は花街で薬師をやっている少女・猫猫(マオマオ)。妓女たちを相手に、風邪から性病まで面倒を見、薬の知識に長けていた。薬取りに森へ入ったときに人攫いにあい、後宮に売り飛ばされて下女として働くことに。元々冷めた性格の猫猫は、日々ため息をつきながら下働きを淡々とこなしていた。身を低くし、目立たないように奉公の期限が切れるのを待っていた猫猫。給料の一部が人攫いに搾取されることを嫌い、教養を隠して暮らしていた。そんなあるとき、猫猫は、持ち前の好奇心と知識欲に突き動かされ、後宮で生まれる赤ん坊の連続死をこっそり解決する。それを見抜いた美形の宦官・壬氏(ジンシ)は、下女にしておくには勿体無いほどの猫猫の教養を生かすべく、皇帝の寵妃の侍女に抜擢する……「毒見役」として。宮中で起こる難事件を、猫猫は薬学、毒物学の知識を駆使して解決していく。無愛想で人にも美形の壬氏にも関心を示さず、常に冷めているのに、毒を含んだ時の舌先の痺れに恍惚の表情を浮かべる猫猫。そんな少女の活躍ぶりが痛快!
元々はウェブ上で連載していた小説の書籍化作品である。最近増えてきたパターンなのだけれど、主流となっている異世界ファンタジーモノやネットゲームものと違い、本作は派手なバトルや冒険といった展開のない、後宮内での小さな事件とそれにまつわる人間模様を落ち着いた筆致で淡々と、それでいてコミカルに、または哀切を込めて描いた作品になっている。
個人的にも連載中、愛読していた作品で今でもたまに更新する後日譚の外伝や、新シリーズは忙しい時でも真っ先に読みふけっている。なので、本作も書籍化と聞いた時には今の流れからすると話が持ち上がるタイプの作品じゃないのになあ、と驚きながらもこの面白さなら、と納得し嬉しかったものです。
この表紙見たときは、ちょっと苦笑モノでしたけれど。
いやあ、確かに地味なタイプの作品だけれどさ、キャラクターは主人公の猫猫を筆頭にかなり個性的なんだから、ここまで一般書籍よりにしなくても、と思ってしまった。猫猫は、こう……ドMの人が喜びそうな蔑むような目をした無愛想なネコみたいな娘さんを想像していたので。
そう、この娘ってホントに無愛想で人を舐めきったような態度の、でもどこか愛嬌があってついつい構ってしまって邪険にされてしまうような、ネコみたいな子なんですよね。そして、本作最大の萌えキャラは壬氏さまである。
登場時は、性別問わず魅了される魔性のようなイケメンにして、他者を手玉に取りながら後宮を影で支配する実力者、という風情で猫猫のことも使える駒みたいな扱いで玉葉妃のもとに送り込んだくせに、猫猫には魔性の容貌が通じないどころか、虫とかナメクジを見るみたいな目で睨まれて本気で邪険にされているうちに段々とそのぞんざいな扱いにハマっていってしまうのです、この人。
人が恋する瞬間を見てしまった、という名台詞を産んだのはかの名作【はちみつとクローバー】ですが、本作では人がMに目覚めるまでの一部始終がお目にかかれます……いや、マジでマジでw
普通の人とは違う、見惚れるわけでもおもねるわけでもない自分への態度を面白く思ってるうちはまだ良かったんです。これで猫猫の方が壬氏さまを意識しだし、お互いに恋が芽生えたりしはじめたらそれこそ少女小説の甘酸っぱい流れに突入してしまうのですが……この猫猫、ガチで「このイケメン、鬱陶しいな」と思って表面上だけ慇懃に、しかしその態度の端々で冷たく袖にするような素振りで徹底するものですから、壬氏さまも段々とこう、いけない趣味に目覚めていくんですよ(笑
そうやって嫌がる猫に無理やり構うみたいに、事有るごとにちょっかい掛けているうちに猫猫のちょっと思っていたのと違うギャップみたいなものを目の当たりにしてしまい……コロっと行ってしまうのであります。
ハッキリ言って、壬氏さま、女性の趣味悪いですw
猫猫は性格もひねているというか冷めているというか、とかく温度が低いですし、クールというには考え方がひしゃげてて活気もなくダウナーですし、それでいて毒とかそっち方面の知識には人一倍興味を持っていて、その在り様は完全にマッドサイエンティスト。育ての親である医師からは、オマエは人の亡骸には触れるな、と戒められているほどである。なんでかって言うと、人間の死体も扱いによっては毒や薬の材料となり得るから。一旦、境界を超えてしまうと歯止めがきかなくなる、という自覚が彼女にもあるんでしょうね、わりとそういう文言は頑なに護ってたり。そういう、自他共に認める薬モノ狂い。一人、毒の味見をして悦に入っているところなど変人を通り越して変態入ってますし。倫理観にしても、娼館で育ったせいか一般のそれとはかなりズレてますし。
でも、そのおかしなキャラクターがホントに面白いんですよねえ。薬師としてだけではとどまらない知識と聡明かつ斜に構えた頭の良さで、後宮内で起こる大小様々な出来事に首を突っ込んだり、壬氏や玉葉妃の差配で突っ込まれたりして、それらを解決していくのですけれど、その解決への流れがまた変な流れだったりコミカルだったり、小気味よかったり、はたまた哀切混じりだったり、どこか掴みどころのない情緒を感じさせたり、と味わい深いのであります。
後宮内の人間模様も、実はかなりイイ性格してる玉葉妃を始めとして結構面白おかしい人が点在していて、冷めた猫猫の視点からの身も蓋もない語りもあってか、後宮特有の陰惨だったり暗澹とした話にも事欠かないわりに全体として面白味が絶えないんですよね。
なんでか、無愛想で態度もそっけない猫猫、いろんな人に可愛がられてたりしますし。ネコって、無愛想で素っ気なくても何でか構われますもんねえ、あの生き物……。
あんまり構い過ぎると嫌われますけれど……壬氏さま(苦笑
実際は、別に猫猫、壬氏さまのこと嫌ってるわけでもないんですけどね。鬱陶しいと思ってるだけでw
今はまだマシなくらいで、これ以降の壬氏さまの奮闘と空回りっぷりは、涙をさそうほどになっていきます。あかん、ハマってるハマってる。いろいろな意味でドツボにはまってます、壬氏さま。

なんか綺麗に終わっていますけれど、本当はもうちょっと続いてるんですよね。外伝を除いても、もう一冊は出せそうなくらい。壬氏さまの素性とかもまだ明らかになっていませんし、二巻まで出るんだろうか。出てほしいなあ。これ以降の壬氏さまの萌えキャラっぷりは必読に値しますし(笑