ファウストなう (このライトノベルがすごい! 文庫)

【ファウストなう】 飛山裕一/HRD このライトノベルがすごい! 文庫

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これは、デブが金網に挟まる物語だ。高校入学以来、すっかり無気力になった平原不破人の前に現れた美少女・かがり。自らを悪魔と称する彼女は、人生に満足してもらうため、不破人の望みを叶えようという。焚き火、力士、悪魔の革新、合コン、女体化、そして親友の命の危機。人と悪魔が化かし合う、そう、これは、デブが金網に挟まる物語――。あの歴史的名作を下敷きに贈る、第3回『このライトノベルがすごい!』大賞・優秀賞受賞作です
いや、そんなデブが金網に挟まるを強調されても。考えてみると、確かにそのシーンこそクライマックスであり主人公のブレイクスルーに当たる場面になるのかもしれないけれど、別にデブが金網に挟まることそれ自体は状況の流れの一環に過ぎないんだが……。
さても、最初読み始めた時にはなんだこのド素人丸出しの文章は、と思ったものである。ハッキリ言って、外国人のカタコトの日本語を聞いているようなもの。伝えたい意図がところどころ断線してブツ切れなのである。文脈がいきなり間を抜かして飛んでしまい、筆者は伝えたつもりになっているのかもしれないけれど、こっちは当然面食らうばかりで目を白黒、というところが点在どころじゃない、全体に散在している。まだ、人に読ませる文章として成り立ってない、とまで言ってしまうと言いすぎだろうか。
ただ、そんな文章力をして本作が受賞に至った理由は判らなくもない。中盤以降のお話それ自体の盛り上がりが非常に良好なのだ。やる気を失った主人公の魂に火が灯り出すと同時に、カタコトの文章も気にならなくなるくらい読み手のこっちも気分が乗ってくる。勢いがほとばしってくるのだ。無論、勢い任せのところも大きいのだけれど、盛り上がりというものを波に乗せるのは存外難しい。それを中盤以降、ロングスパンで成功させているのだから、物語を作るという観点においては秀でたものがあるのだろう。何気に、事態の真相が明らかになるに連れて、本作が非常に「熱い」物語だと発覚していくのもいい。そして何より、テンションの高さが変な方向に走り出しているのが、力士型悪魔の奇天烈な介入のさせ方などの変なセンスと相まって、奇妙な面白味となって良い味付けになってるんですね。
まだまだド素人丸出しであることは間違いないんですけれど、文章が下手くそなんて要素は書き続けりゃどうとでもなることですしね。面白い物語を書く上での重要な要素をちゃんと掴まえているのなら、先々期待できるんじゃないでしょうか。