ロゥド・オブ・デュラハン (このライトノベルがすごい! 文庫)

【ロゥド・オブ・デュラハン】 紫藤ケイ/雨沼 このライトノベルがすごい! 文庫

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死の運命を弄ぶ者たちを狩る、デュラハンの物語

領姫の不可解な死の真相を追う傭兵アルフォンスは、死体を操る死術師と対峙し窮地に陥ったところを、白銀の髪を持つ女に救われる。彼の者の名はリィゼロット。永き時を生き、死の運命を弄ぶ者たちを狩る、精霊デュラハンの一人。漆黒の鎧を身に纏い、純白の大剣を振るいながら、彼女は不自然に歪められた命を狩りつづける。茫洋としたまなざしに、深い悲しみをたたえながら――。第3回『このライトノベルがすごい!』大賞・大賞受賞作です。
凄いなあ、片っ端から血みどろだ。これでもか、これでもかとばかりに片っ端から人が死んでいく。それも惨たらしく見るに耐えない残酷な死に様を晒していく。人間の死を冒涜するような有様が、饗宴のように催される。
まさに、この世の悪夢だ。血まみれのパレードだ。
何よりも、これらの地獄が尽く、人の悪意からではなく、善意や愛情から生まれ出てしまったという事が救いがない。はからずも死術に手を出し、この世の理を超越して望むものを手に入れようとした人達は、これらの陰惨極まる事件を引き起こした犯人たちは、決して悪意や俗な欲望によって災禍をもたらしたわけではないのだ。ただ、ただ、愛する人を想いやり、自分の大切なものを護ろうとし、失ってしまったかけがえのないものを取り戻そうとしただけなのだ。しかし、強すぎる思いはボタンを掛け違い、錯誤となり、その在り様を歪めてしまった。否や、死術という可能性がそれらの歪みを手繰り寄せてしまったのだろう。
すべては、惨劇であると同時に加害者被害者を問わずの悲劇である。悲劇でしか無い。その、なんと無残で哀れなことだろう。

で、あるにも関わらず、本作には驚くほど鬱屈した、淀んだ空気は見当たらないのだ。それどころか、読後に感じたものは清涼ですらあったのだ。とても、綺麗なものを目の当たりにしたような気すらした。
何故だろう、と振り返ってみると……本作には、実のところ悪人や邪悪に値するような人間が一人も登場していなかったんですよね。すべての事件は善意や愛情が歪んだ結果だったのかもしれないけれど、言い換えればすべての事件は善意や愛情に根ざしたものではあったのです。すべてに、人を思いやる優しさが満ち溢れていた。それらは結果として歪み変質し、悪夢であり悲劇という形になってしまったけれど……それはとても哀しいことで、辛いことだけれど……でも、発端である人の善性を否定するものではないんですよね。本作は、それらを決して否定していないんです。むしろ、尊いものとしてとても大事に扱っている。
矛盾するようだけれど、悲劇の根底に人間の善性があったことにこそ救いのない無常があり、同時に根底に善意があるそれこそがこの悪夢に満ちた絶望の世界における救いの拠り所にもなっているのです。
その矛盾であり世の無常の救われなさと救いそのものを体現するのが、このリィゼロットという少女であり、そしてそんな彼女を全肯定して絶望を否定する者こそ、主人公のアルフォンスなのでしょう。

普通、ここまで繰り返し繰り返し救われない惨劇を目の当たりにしてしまうと、読み終えたあとまでやりきれなさに消沈してしまうのですけれど、本作では逆に欠けたピースをはめ込めたような、満ち足りた優しい安息感を得ることが叶ったんですよね。その意味では、不思議な作品でもあり、充足感を得られる良い意味での重厚感あるファンタジーでありました。こういうのが大賞に来ると、大きな納得感があるなあ。
作者紹介によると、この人TRPG畑の人なんだそうですね。やっぱりTRPGやってる人はお話を作る事が上手いんでしょうかねえ、なるほどなあと思ってしまった。
さらにこの人、来月以降も随時ファンタジー作品を出してくるそうなので、これは要注目ですよっと。