マグダラで眠れII (電撃文庫)

【マグダラで眠れ 2】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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『狼と香辛料』の支倉凍砂が贈る、眠らない錬金術師の物語。
伝説の金属を巡る、第2弾登場!


 異教徒最大の鉱山の町カザンに、近々入植があると気づいた錬金術師のクースラとウェランド。二人はなんとかカザン入植の波に乗るべく、手柄を立てようと画策する。そんな二人のもとに、“伝説の金属”の噂が舞い込んでくる。どうやら鍛冶屋組合の若き長である少女イリーネが、その金属の秘密を知っているというのだが──。
 眠らない錬金術師クースラと白い修道女フェネシスが贈る、その「先」の世界を目指すファンタジー第2弾!!
なんというスパルタな過保護。
フェネシスを招き入れたクースラが、はたして彼女をどんなふうに扱うかについては前巻の終わりから気になっていた所だったのですが、厳しくも優しいクースラの振る舞いに思わず「プリンセスメーカー」という単語が脳裏を踊ってしまいました。いや、件のゲームはプレイしたこともないんですけれど……。
いつか自分の手で生み出したいと願っている伝説の武器。その武器を以て守るべきお姫様となるに相応しい素養を持つフェネシスと出会ったクースラなのですが、この男、伝説の武器を作るための金属を追い求めるのみならず、既に手に入れたフェネシスについてすら全然満足していなかったんですな。満足していない、と書くと不満に思っているようにも捉えられるかもしれませんが、多分フェネシスを不満には思っていないはずです、クースラは。ただ、より輝くように、より理想の姫君に近づくように彼女を磨き上げることに余念がない、というべきか。その方向性が、フェネシスを自立した女性に育て上げる、という方に向いていた事にはちょっと驚かされたけれど。もっと蝶よ花よ、とまではいかないけれど宝物のように大事に扱うか、もしくはもっと容赦なく厳しく接していくか、と思ってたんですよね。
それがどうしてどうして。この男、フェネシスをきちんと一個の人間として扱っているんですよ。勿論、彼の教育はなかなか厳しく、甘えを許さない鋭さに終始しているし、また融通の効きにくいフェネシスをからかってばかりいる。でも、彼の指摘は常に的確であると同時に突き放すことなくいちいち親身で、フェネシスが理解し納得しやすいように言葉を尽くしてるんですね。それでいて、押し付けるのではなく彼女が自分の頭で考え判断できるように配慮している。常に彼女に自立を促し、しかし傍でじっと寄り添いながら見守り続けているのです。
その眼差しは、驚くほどに慈愛に満ちているのです。惜しみない愛情を感じさせるのです。もし、クースラにフェネシスへの独占欲などがなかったら、それが師弟愛や親子愛かと錯覚してしまいそうなほどに。
元々、何かに依存しなければ生きてこれなかったフェネシスは、容易に心を絡めとる事の出来る娘です。人間心理に長けたクースラなら、本当に簡単にフェネシスの心を虜にしてしまえるでしょうし、実際何だかんだとフェネシスの心が自分から離れないようにあれこれと手管を使ってもいます。でも、それでもなお、この男はフェネシスが自分で歩ける自立した女性に仕立てようとしてるんですよね……それが、自分が守るに足る姫であると信仰しているように。まったく、難儀なほど女の好みが贅沢な男じゃないですか。
自分が人を愛せる人間なのだと自覚できた途端に、これだけ潤沢に愛情を注げるようになってしまうのだから、全く大した男です。
フェネシスもフェネシスで、意地悪されからかわれる度に美味しすぎる反応ばかりで、ああもう可愛らしいったらありゃしない。なんだ、このホロとロレンスとはまったくベクトルが違うものの、質量的にはまったく劣っていないイチャイチャっぷりは(笑
何だかんだとお互いに愛し合っていることを認めるまでが長くてモドカシイ部分もあった【狼と香辛料】と違って、こっちはクースラがまだ明確な異性への愛情とはまとめきれていないものの「こいつは俺のもの」とハッキリと所有権を主張しているので、その点ではスッキリしていますし、フェネシスも依存ではない信頼から徐々に情感の篭った仕草をクースラに向けつつあるので、多分空気は濃密になる一方なんだろうなあ、とこれ辟易するべきなのかニヤニヤするべきなのか困りますねw

フェネシスに一方的に導きを与えているようなクースラですけれど、彼女を得た事による変化は彼にも訪れているようです。単に自分が人並みの情を持った人間だと自覚した以上に、フェネシスの存在は彼に精神的な余裕を与えているようなんですよね。切羽詰まった場面でも、彼が一旦立ち止まって周りを見回す気持ちの余裕があるのも、今までの彼にはなかった視点で物事が考えられるようになったのも、フェネシスという拠り所が彼の中に生まれているからのような気がします。少なくとも、彼女が傍にいなければ今回の一件ではここまで上手く立ち回れなかったんじゃないかなあ、と。その意味では、彼もフェネシスと一緒に成長していっているのかもしれません。実際、一巻の時よりも一回り魅力的なイイ男になった気がしますし。
これはもう、利子という意味の名前も返上ですなあ。

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