彼と人喰いの日常 4 (GA文庫)

【彼と人喰いの日常 4】 火海坂猫/春日歩 GA文庫

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「主よ、わしを信じ、愛してくれ」

「お父さんも葵ちゃんも私のために殺してくれたんだよね、十夜君?」
「っ! ?」

立夏のため……という名目で、人喰いの黒衣と共に幾多の罪を犯し続けた十夜。
しかしその一番知られたくない事実を、最愛の幼馴染、立夏は知っていた。
さらに追い打ちをかけるかのように、殺したはずの葵までもが再びその姿を現す。
だが――

「主よ、これは現実じゃ」
混乱する十夜のそれを砕くように、黒衣の声が響き渡る。
全ては自分が選択した結果。
ならば今回も選ぶしかない。
この美しき人喰いと共に。

これは、彼と人喰いが紡いだ"終わる日常"の物語。
くわーー、最初から最後まで黒衣に持っていかれたなあ。さすがは人喰い。物理的にも比喩的にも、まさに人を喰ったような女でございました。
物語の大前提が大前提だっただけに、どう考えても終わりはバッドエンドかそれに準じるダークエンド以外には収まらないと思い込んでいたので、この結末には仰天と言っていいくらい驚かされました。
血迷ったか、黒衣!? と、唖然とした次第。なにしろこの化物には情はあっても情に絆されるという事だけはないだろうと思っていましたからね。悪魔のように契約者を惑わすようなことはしないものの、さりとて契約者の為になるようなこともしない。たまに親切に助言してくれたりするけれど、それもどちらかというと主人公に現実を突きつけるような、逃げることを許さないような優しくない助言ばかりだったんですよね。恐ろしいくらいフラットな立場で、主人公の苦悩や決断を見守る存在。それが黒衣という化物の印象でした。彼女なりに、この頑固で意固地な主人公の頑なさを愛おしんでいるというのは伝わってきていたんですけどね。だからと言って、自分から彼女が状況に介入してくるとは思いもよらなかったのです。翻ってみれば、最後の最後までよく雌伏し続けたというべきか。それとも、そこに至るまでずっと十夜という存在を吟味し続けてきていたのか。
彼が自分の罪に拘り、自分が最低の存在であるように立ち回り、自己暗示し続けるさまは私には一種の現実逃避であり、罪悪感の彼なりの受け止め方だと捉えていました。それは、傍から見ていてもあんまり気持ちのよいものではなく、黒衣もこんなん見ていて楽しいかなあ、と疑問を覚えたりもしたのですが……たとえ現実逃避の手段ではあったとしても、彼はどんなに追い詰められても、逃げ道を提示されても、救済を促されても、一顧だにせず、自分の罪を見つめ、受け止め続けたのは否定出来ない事実でした。十夜は、最後まで愛する立夏ではなく、自分の罪の象徴である黒衣を選び続けたのです。それは、正直えらいと思う。ただの意固地だったとしても、人間あそこまで切羽詰まった状況で楽に逃げられる道を見出しながら、それに背を向けて痛みを追い続ける決断なんて出来るもんじゃありませんよ。それをしてしまった十夜は、筋金入りの頑固者でありある種の適格者だったのでしょうなあ。
それは、黒衣にとって合格であり、同時に我慢出来ない不満でもあったわけだ。
いきなりの黒衣の介入には唖然としたものですけれど、あとで彼女がその理由を語った時にはもう苦笑いするほかなかったです。決して情に負けたわけでもほだされたわけでもなく、この化物は実に化物らしい我儘自儘な理由で件のことを起こしたことが嫌というほどわかりましたし。まったく、このオンナはブレることなく人を喰った女怪でありましたよ。そんな彼女の傍若無人の結果が、まさかのハッピーエンドへの筋道だったとは。予想外にも程がある。でも、思いの外すっきりとした終わり方でした。それだけ、黒衣の放埒な自由さが嫌味なく、また十夜の罪が許されてもいいんじゃないか、と思えるほど彼が悩み苦しみ、そして最後まで逃げなかった事が、ハッピーエンドを許容出来るところに持ってきてくれたんだと思います。

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