ドラフィル!〈2〉竜ケ坂商店街オーケストラの革命 (メディアワークス文庫)

【ドラフィル! 2.竜ケ坂商店街オーケストラの革命】 美奈川護 メディアワークス文庫

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 『お前にこれ以上、ヴァイオリンを続ける価値はない』
 相も変わらず、公民館の職員をしつつ竜ヶ坂商店街フィルハーモニー、通称『ドラフィル』でコンマス(兼、団員のトラブル解決係)を続けていた響介。しかし急にかかってきた父・藤間統からの電話と唐突なその物言いに、響介のヴァイオリンの音色は大きくかき乱される。
 そんな彼に発破をかける七緒だったが、彼女の元に送られてきた『ある物』により事態はより混迷を極め――!?
 商店街の個性的なメンバーで贈る「音楽とそれを愛する人々の物語」待望のシリーズ第2弾が登場!
ぐおおおお、凄い、なんだろうこれもう凄すぎる。最後のオーケストラ【ラ・カンパネラ】の演奏シーンなんか、圧巻もいいところである。
どおおおおん、ぐおおおおん、ぐわっしゃああん、ぶわあああっ、どがああああああん、てな感じなんですよ。って、何一生懸命擬音を書き連ねてしまっているんだろう、自分は。
豪壮な音の洪水、という音楽の表現だけではここまで圧倒的な圧力に押し流されるような感覚は味わえないだろう。その音の波の中には一人の男の人生があり、ひとつの親子の相克があり、その男たちを今此処に立たせている家族の、一族の歴史が存在し、奏でられている曲が生み出された時代そのものが刻まれていて、曲を生み出した作曲家の、この曲を今まで奏でてきた音楽家たちの妄念が渦巻き、音をはじき出す楽器たちの魂が飛び交い、今ここで音を奏でている者達の、その曲を聞いている観客たちの息吹が、それらすべてが渾然一体となって荒れ狂い、吹き荒んでいるのだ。これがオーケストラ。これがフィルハーモニー!!
まさしく、これが「魔」である。ここで目撃するものは、舞台上の「魔物」であり、その魔物を食いちぎり雄叫びをあげるドラゴンの咆哮であり、無機物であるはずのヴァイオリンたちの歓喜の祝福なのである。
コンマスである響介と、その父との幼い頃からの冷たいすれ違い。父親の突き放した態度に秘められた真相は、縁か運命か、不思議と指揮者である七緒へとつながっていき、やがて驚くべき真実が明らかになっていく。
人生とはドラマそのものである、なんて使い古された言葉かもしれないけれど、これほど真贋を貫いている文句もないのかもしれない、とここで目にすることになる一人の男の人生を前にして、しみじみと思わざるを得なかった。彼が取り戻そうとして手を尽くし、何もかも上手く行かなかった果てに、息子にも音楽にも楽器にも、すべてに背を向けようとしたその先に、こんな結末が待っているなんて。
運命とは、斯くも絡まり合うものなのか。人間の人生とは、こうも交錯しあうものなのか。光も闇も、いつどこから差し込むかわからない。なんて、ドラマティックなんだろう。そして、そんなドラマティックな人間の生き様は、それこそ生き続ける限り終わらないのだ。いや、たとえこの世から消えさっても、何らかの形で残り、残された人々に何かを残し続ける。それは名声だったり、楽器だったり、曲だったり。そんな明確な形のものではなくても、子供に引き継がれていくもの。歴史に刻み残されていくもの。何も残らなかったように見えて、その人生にすれ違った人の心の片隅に焼き付いて引き継がれていくもの。そうしたものが一杯あるはずなのです。
そんな渾然とした想いが、この物語においてはオーケストラの演奏会にて、一気に渦巻き吹き出すのです。幾多の想いも運命も、魔も奇跡もすべてを内包したまま、この世に現出する。
そりゃあ、圧巻ですよ。魂消るのも当然だ。それだけの、凄まじい密度が詰まっているのだから。
そして、恐るべきことにそんな圧縮され解放されるのを待っている人生のドラマは、演奏者一人ひとりの中にもあるわけです。前奏となる、それぞれのオケのメンバーのお話は、そうしたドラマに触れて実感するための機会の一つ。オケのメンバーの一人ひとりに人生と言う名の歴史がある。老若男女関係なく、モブなんて誰一人もいないというのを、肌で感じるためのひとときなのです。
音楽って、すげえなあ。そして音楽を歴史として、伝説として、物語として、語り表現できる小説って、凄いよなあ。
今回、かなり頼りない響介が主体の話でありながら、そして父親からのプレッシャーに響介の内面がかなり不安定になる展開でありながら、前回よりもむしろ不動の安心感が一番底の部分で失われなかったのは、七緒からの響介への信頼感が最後までブレなかったからかもしれません。いつの間にか、ずっと絆が深まってるんですよね、この二人。色っぽい雰囲気は皆無なのですが、そういう男女の機微を抜きにしての揺るぎない信託がお互いに行き交ってました。だから、響介も不安定になっているようで、芯の部分で負けを意識させない強さがにじみ出ていたような気がします。七緒が、ああやって自分の体を運ばせるって、何気によっぽどの事だと思うんだがなあ。

響介と父親との対決がこれで片が付いた以上、残るは七緒の方の問題でしょう。彼女と、その本当の母親。音楽に魅入られてしまった本物の魔物との対決が済まないと、やはり片手落ちの感は否めません。作中でも、七緒が母親についてまだ自分の中で持て余している描写が、いくつか見受けられましたしね。
この人達のドラマを最後まで見届けたいと思い願うばかりです。

1巻感想