飛べない蝶と空の鯱 2 (ガガガ文庫)

【飛べない蝶と空の鯱 〜たゆたう島の郵便箱〜 2】 手島史詞/鵜飼沙樹 ガガガ文庫

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受取人はトランクに詰まった少女の死体!?

霧の上を島が浮遊し、空を飛ぶことでしか島を移動できない世界。
空に憧れ、まだ誰も見たことのない霧の底、「空の最果て」を目指す少年と少女の物語。

風を読むことが下手で、翼舟の操縦が下手な少年・ウィルと、過去に負った傷から空を飛ぶことが怖くなってしまった少女・ジェシカは、二人乗りの翼舟に跨り、空飛ぶ郵便屋「蝶と鯱」を経営していた。
彼らが運ぶのは、人々の記憶を封じた「封書」。

誰よりも早く、誰からも秘密を守り、命をかけてでも運ぶ――課せられた重責と引き替えにもたらされるのは、自由に空を飛ぶ権利。
お互いの欠点を補いながらでないと飛べない二人だったが、霧妖という魔物が棲み、霧に囲まれた空を命がけで疾走する。
そんな「蝶と鯱」に、謎の男からの依頼で封書が持ち込まれる。意気揚々と届け先に向かった二人着いたのは誰もいない廃墟。唯一残されたトランクの中には、膝を抱えたまま目を閉じた裸の少女が――。
今回の依頼には、この世界の創世記の伝承で大きな力を持つ「七つの鍵」の秘密と、それを狙う組織が関わっていて――

空の上を駆ける爽快冒険ファンタジー、待望の第二弾。
この物語はウィルとジェシカ、広い空に二人きりがよく似合う、と前巻で言ってた端から二人きりじゃなくなったよ! それどころか、二機のバディ制を規定とする渡り鳥協会からの通達によって、武装郵便屋<渡り鳥>の資格を満たすために二人が別々の翼舟に乗って飛ぶはめに。いやさ、ジェシカはPTSDで空飛べなくなったんじゃないのかよ。ウィルの背中にしがみついてようやく耐えていたような子を、ちょっと慣れてきたからって一人で飛ばすなんて……それは仕方のない事だったのかもしれないけれど、ウィルとジェシカが約束した二人で飛ぶ、という意味から完全に逸脱してしまっている。現実は見なければならないけれど、そうしなければ渡り鳥を続けられなかったのかもしれないけれど、だからと言って自分たちの夢を置き去りにするような真似だったんですよね、これは。
そもそも、協会からの通達をジェシカに伝えず、ひたすら現実逃避して何の対策もせずに傍観してしまったウィルは幾らなんでも情けなすぎるぞ。その現実逃避はガチに現実逃避そのもので、それは幾らなんでもイケマセン。無視してたらどうにかなるなんて問題じゃなかろうにw
まあそれだけ鬱憤を貯められたからこそ、ジェシカとウィルが二人乗りに戻って空の怪物と渡り合う空戦シーンは素直に滾りましたが。戻る、どころか以前よりも進化しての形でしたしね。思えば、ウィルが操縦してジェシカがナビと銃撃を担当するって、見るからにちぐはぐだったんですよね。そうやって、足りない部分を補い合って飛ぶのは素晴らしいのですけれど、決して最良ではなかった。それって、結局出来ないところを補っているだけで、やっと並になったかという所に留まってただけですもんね。最良とは、お互いの得意分野を十全に発揮して相乗効果を引き出すこと。元々、操縦センスに人外のモノと持っているのがジェシカであり、鯱と呼ばれるほど凄まじい攻撃能力を持つのがウィルなのですから、二人がその得意な方に専念したらどれほどの高みに達せるのか。それを、ここでようやく見せてくれました。空の果てに辿り着きたいという願いが戯言などではなく、確かな実力に裏打ちされた目標なのだということを、これでもかというくらいに見せつけてくれた、そんな映えある空戦でした。
しかし、この段階でウィルとジェシカのコンビにもう一人加わることになるとは思わなかったなあ。ウィルはともかく、ジェシカの方が人見知りという以上に人間恐怖症の側面が強かったので、ジェシカが他の誰かが加わることを許さないだろうし、心を開くまいと思ってたんですよね。それが、まさかジェシカの方から心を許す事になるとは。まあ終わってみると、新しいメンバーが加わったと言ってもヒロインが増えたというよりもあれですね、ご夫婦がペットを飼い始めました、みたいな?(失礼
そんなマスコット候補のレンですが、彼女にまつわるお話の真相には完全に虚を突かれました。冒頭のプロローグに思いっきり引っ張られたことに最後まで気が付かなかった。なるほどなあ、微妙にフェイのレンに対する線引と、レンのフェイに対する感情に冒頭のシーンと比べて変な違和感があるなあ、とちらっと頭の片隅によぎったのはそういう訳だったのか。レンの記憶が無いというところに誤魔化されて、お互いへのかすかな遠慮の意味を捉えきれていなかったみたいだ。そうだよなあ、恋人や奥さんなら無いだろう遠慮でも、そうした関係だとどれだけ宝物みたいに大切にしていても、過保護であればなおさらに、逆に気遣いが生まれてしまうものなのかもしれない。
同時に、そういう関係だからこそ、身を投げ打てるのだろう。誰かに託す事ができるのだろう。今回もまた、その意見では前回とまた同じく、人生を繋ぐ物語だったのでしょう。そこに愛はあったのだ、という証を示して。

あと、ヒルダ姉さんが相変わらず絶好調で良かったです。別に隠居してしまうなんて謙虚な事になるとは思ってませんでしたけれど、いろんな意味で身も蓋もなく最強だなあ、この人は。

1巻感想