ひきこもりの彼女は神なのです。7 (HJ文庫)

【ひきこもりの彼女は神なのです。7】 すえばしけん/みえはる HJ文庫

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「天秤の会」崩壊の危機! 天人と亜夜花の選択は!?

亜夜花の父であり、「天秤の会」に敵対する神・氷室結から三本勝負の賭けを持ちかけられた天人。最初の賭けは「近いうちに羽村梨玖は寮を去る」という結の予言が当たるか否か。
梨玖との絆を信じる天人は、結が亜夜花たちから手を引くことを条件に勝負に応じるが、事態は彼の予想を大きく裏切って推移していく。
神に狙われた男、天人の運命は!?
戦いは、始まる前にすでに勝敗は決している。やってみなけりゃわからない、なんてのは人事をつくしていない言い訳に過ぎない。少なくとも、相手の用意した舞台に乗っかった時点で、勝つという結果は皆無だったわけだ。それだけ、氷室結が敷いていた状況設定は完璧だった。恐るべきことに、この巻において結は本当に何もしていません。ただ、状況が推移していくのを眺めていただけ。介入や手出しは一切していません。もはやゲームの舞台を整えた時点で、やるべき仕込みや心理操作は全部終えていて、あとは勝手に天人たちが自滅していって終わり。むしろ、結が果たしていた役割は敵対者というよりも、ゲーム攻略のためのアドバイザーと言っていいくらい。天人たちに残されていた可能性は、もはや自分たちにとって一番最良の結末を引き寄せられるか、に掛かっていました。それすらも、実は敗北であり最良と見せかけて実は等分以上のマイナスがあったのですが。
これ、無理ゲーですよ。ぶっちゃけ、役者が違いすぎる。神と人との違い、なんて区分での差じゃありません。どれだけ戦闘力が高かろうがそれは戦術によって封じられ、戦術なんてものは戦略によって意味を失わしめられる。プレイヤーとして立っている位置が違いすぎる。まともな戦いになってませんよ、これ。正直、これほど差があるとは思っていなかった。
考えてみれば、おそらくニュートラルハウスで最も知性派だったと思しき一二三さんが、為す術なく謀られて現身を失ってしまった、という時点で太刀打ちできる人材は存在しないんですよね。そう考えると、千那さんの問答無用で武力討伐、という選択はあながち間違いでもないんです。それすらも、結の想定内かもしれませんけれど、少なくとも結を討ち取れさえすれば、時限式の謀略はともかくとしてハカリゴトを仕掛けてくる結がいなくなれば、あとは何とでもなる。戦うことで失ったニュートラルハウスの信頼はあとで取り戻せても、天人を失ったら取り返しがつかない、という失っても取り戻せるものと取り戻せないものを秤にかけて、損害覚悟で片方を選択するという考え方は、おそらく正しい。正しいんだけれど、損害を思えば踏み切れない。結が巧妙だったのは、常に天人側に勝ち目がある、と思わせていた事でもあります。勝ち目があると思っていれば、尚更最悪の選択肢は選べない。その上、勝ったと思わせて、相手が意識していた失ってはいけないものとはまた違う、もう一種の失われてはいけないものを奪取していたのだから、真実の勝敗がどちらに掲げられていたかは自明でしょう。
ここまで縦横無尽に蜘蛛の糸が張り巡らされてたんじゃ、どこまで行っても相手の手のひらの上なんじゃないか、という疑惑から逃れられないじゃないですか。これ、勝利条件なんて存在するのか? 
辛うじて、この結と対等に立ち回れるであろう人は、おそらくてとらさんのみ。強いられたとはいえ、てとらさんもこの結末は想定内だったはずなんですよね。なればこそ、無策であるはずもなし。むしろこの人に起こった出来事は、彼女のくびきを解き放った、と言えなくもない。結はてとらさんを同じ舞台に引きずりおろして手出しの出来なかった彼女の首に手を掛ける事が叶ったわけですけれど、逆に言えばてとらさんもまた敵の首に手が届くところまで降りてきた、とも言えるわけで。ここからのてとらさんの手練手管に期待したい。でないと、ハッキリ言って勝負なんかにならないから。

そもそも、天人は結と勝負するという事について終始理解が及んでいなかった。いや、もうちょっと考えろよ! 警戒しろよ! と読んでいるこっちまで頭を抱える無警戒ぶり。本人はビンビンに警戒しているつもりでも、それは自信満々に紙の盾を構えて戦艦の主砲の前に立っているようなもの。いや、それどころか紙の盾を掲げて毒ガスの中に突っ込んでいっている、とでも表現するべきか。あまりに甘い認識に、或いは無知っぷりに、思わず誰か何とかしろよ、と呻いてしまった。いやでも仕方ないんですよ、元々天人はそういう智を尖らせるタイプじゃないんだから。
だから、良いように翻弄されてしまったのはもう仕方がない。褒めるべきは、あれだけ好き勝手に弄ばれてなお、心折れなかったところでしょう。半ば折れてた気もしますけど、自分で開き直れたのは素直に偉いとおもいます。今回はもう本気で綱渡りもいいところでしたけれど、最後の最後で選択を誤りませんでしたし……いやね、勝負を受けた時点でもう挽回のしようのないくらい選択誤ってたんで、本当に最悪の中の良を拾い上げる形にしかなっていなかったんですが……知らぬが仏、だなあ、これ。

とは言え、結との勝負という事を度外視すると、ここで行われた事というのは神と人との繋がりにおいて一つの革新ではあるんですよね。神が人の中に混じって生きていかなくなった時代において、ここで天人を中心に行われた事というのは、古き神話を一新する最新にして最高の神話の始まりでもあったわけだ。人が神を信仰するように、神が人を信じる時代に。……その結果として、新しい神が誕生するというのは前進なのか回帰なのかはまだ微妙に判断つかないけれど。
唯一の可能性は、最新であることが弱さではないということ。所詮古き神である結にとって、想定外があり得るとすればそこであり、神々が人の子を神とするまでに信じた、という意味をどれだけ履き違えていたか、という点にあるんだろうなあ。なるほど、梨玖の動きはそこに繋がってくるのか。どうやったって勝ち目ないだろうと思ったけれど、なるほどしっかりと下拵えは進んでいるのね。

しかし、まああれだ。今回の見所はやっぱりあれなんだろうな。怪物に捧げられた供物の女神は英雄神に救われて……奪われて、母体となる神話から、新たなに組み込まれ組み伏せられる、というお話。或いは、亜夜花はあれで神様だから未成年ではないので、親の同意を振り切って結婚できるという云々。親の同意より先に配偶者の同意を取り付けましょう、と思わないでもないですがw わかってないよ、こいつ亜夜花が何を言って何を誓って何を捧げて何をしたのか、絶対わかってないよ?
さて、それはつまり誰にとってのご愁傷様なのか(笑

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