月花の歌姫と魔技の王II (HJ文庫)

【月花の歌姫と魔技の王 2】 翅田大介/大場陽炎 HJ文庫

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秘書であるルーナリアに部屋を用意するために、新しく仕事を探していたライル。マリーアの仲介で家庭教師のアルバイトを始めたが、教え子のイルザは明らかに普通の少女では無かった。そんな中、マリーアは2人の王子と面会を果たし、ルーナリアは死んだはずの肉親に出会う。人と『幻想種』、王位を巡る陰謀、ライルは新たな争いに巻き込まれる。
うあああっ、面白いっ、面白いなあもう!! なんかもう隅から隅まで私の好みの琴線に触れまくってる。なにこれ、すっごい好き!! 大好き!!
このシリーズのみならず、前作、前前作シリーズからこれだけスマッシュヒットばっかりを食らうと、この作者さんの作風そのものが私のドストライクを突いている、と捉えてもう間違いないみたいだ。

さて本作は第一巻の表紙だったルーナリアと、今回表紙を飾るマリーアのダブルヒロイン制なんだけれど……これ、ルーナリアってマリーアに絶対頭あがんないですよ。元々、ライルたちに出会った段階では生きる屍のようなもので、彼女が自分を助けてくれたライルへの思慕を自覚したのはマリーアの導きによって、と言っても過言ではありません。その段階で既にスタートラインで差がかなりついているのですけれど、マリーアときたらこの娘、恋というものについてまるで解っておらず右往左往して迷走するばかりの彼女に対して、わざわざ手をとって自分の立っている場所まで引き上げた上に、シャンとしなさいとばかりに喝を入れるような真似さえしているのです。それは、当事者であるルーナリアすら呆然としてしまうほどの手厚い援助。恋敵として未熟過ぎるルーナリアを、自ら対等なライバルとして立たせようとするその所業は、まさに敵に塩を送るようなもののはずなんですが……このイイ女は自分がライバルの弱みを突いて蹴落として満足するような卑小な女である事に我慢がならなかったのでしょう。それよりも、ライバルと正々堂々張り合って愛する人を勝ち取る事を選んだわけです。同時に、自分の愛するライルを同じように愛する見る目のある女性が、無様を晒す事が我慢ならなかったのかもしれませんが。自分がライルに相応しい女であるように常に努力しているのと同じく、その恋敵にも相応の水準を求めずには居られない、という一種のライル至上主義(笑
まあ、ただ純粋にマリーアという女性がお人好しもいいところ、という理由が大半なのでしょうけれど、もし彼女が深慮遠謀神算鬼謀の策士だというのなら、こうやってルーナリアを厚遇することで彼女に引け目を負わせて自分を出し抜くことのないように楔を打った、と考えることもできるのですが、さすがにそこまでは考えすぎでしょう。繰り返しになりますが、何だかんだとこの娘はとてもイイ娘で、食わせ物の才女のくせに変な所で間の抜けた所のあるお人好しですから。
ともあれ、ルーナリアは大変です。恋のライバルは一から十までお世話になって頭が上がらず、恋の相手である主人はときたら、そんな完璧なイイ女がさらに努力を重ねてなお完璧さを高めないと釣り合わないと思い込んでいるほどのイイ男で、実際文句のつけようのない完璧超人ときた。しばらく迷走気味にツンデレをこじらせてウジウジしてしまったのも無理ない環境です。ルーナリアという娘は無表情系ではありますけれど、自他共に求める感情過多の負けず嫌い。意地を張ろうにも周りの高さは足がかりになるものもないほどで、寄って立つもののなかった彼女が困ってしまったのも仕方ないでしょう。それでも、自分なりのやり方で自信を得る方法を見つけて努力を重ねることを選び見つけ出したのだから、この子も大したものです。そこは、マリーアが対等の相手と見込んだだけの事はあるかもしれません。
それでも、なかなか厳しい道程ではあるのですけれど。
マリーアはまだ自分の恋愛は恋を射止める狩猟の段階で、同じ舞台に立たせてでの戦争には至っていないと考えていますけれど、実際はというとライルは完全にマリーアを特別扱いしていますからね。ここに本当の意味で割って入るには、マリーアの壁は生半じゃなく高い。幼少の頃から純粋にライルのためだけに自分を磨き続けた女に、途中から割って入るというのは本当に難しい。面白いことに、それが出来ると誰よりも見込んで、期待してすら居るように見えるのがマリーアというのがなんともはや。
話は戻ってライルのマリーアに対する感情ですけれど、これが発覚してみると何気に思いの外明確だったんですよね。マリーア本人には一切素振りを見せないくせに、彼女のいない所では彼女が他の男に粉かけられたと知って余人に隠せないくらいに感情を乱していたり、特に感心させられたのはマリーアの従者にして同じくライルとは幼馴染の関係にあるミラとのやり取りで見せた、「本当のただの幼馴染」との接し方、でしょうか。ここは死角を突かれた感がありましたね。幼馴染であるミラに対して、ライルは胸襟を開けて本音や愚痴を吐露しているのですが、それは気心の知れた幼馴染だからこそ、であると同時に幼馴染でしか無いからこそ、でもあったんですね。実は、ちゃんとマリーアとは明確に接し方を異にしていたわけです。ライルの事を巷にあふれる鈍感主人公とは一線を画しているとは思っていましたけれど、これほどはっきりしていたとは、マリーアは報われているのか居ないのか(苦笑
ただ、はっきりしているからこそわりと思想は頑固というか凝り固まった所があったこともわかってきたわけで……でも、家庭教師となった先の教え子である女の子イルザから、そんなちょっと独り善がりの入った思想に対してダメ出しを受けたことで、自分が意固地になっていた部分があると自覚したようですから、もしかしたら次あたりからその態度に違った面が出てくるかもしれませんね。そうなった時のマリーアのメロメロっぷりがどれおほどのものになるか……既に現段階でかなり骨抜きで目も当てられないことになっているので、えらいことになるかもしれませんが。にやにや。
なんて言うんだろう、このあたりの微妙かつ巧妙な男女関係の機微は、さすがは上質にして繊細な心理描写で鳴らした青春恋愛劇である【カッティング】シリーズを描いた翅田大介その人、と言ったところでしょうか。
それでいて、活劇らしい激しく感情をぶつけあい、盛り上がるシーンも多いわけで。ライルを泥沼の政治闘争の渦中に巻き込ませないために、これまでのライルと過ごした時間そのものを賭けて彼を引きとめようとしたマリーアとライルの対峙は、もう鳥肌が出るほどしびれました、うん。しびれた。
あとでマリーアが殆ど融解といって良いくらいにデレッデレに蕩けてたのも宜なるかな。女として男にそこまで言ってもらったら本懐でしょう。まあ、あそこまで崩れるとみっともないですが。この娘、この段階でそこまでデロデロになってたら、まともに付き合いだしたら体裁保てるのか?(苦笑
とまあ、語る話はついつい恋話ばかりになってしまいましたが、裏で進行する権力闘争や古き時代と新しい時代の相克から発生する軋轢など、時代の裏側の闇の部分にまつわる話もいい具合に盛り上がってきているんですよね。黒幕となる人が、どうも思っていた以上に大物、身分的にじゃなくてメンタル的に大物で、敵役に相応しい貫禄の片鱗を垣間見せてくれたことは、先々どんどんおもしろくなっていきそうな要素でもあるので嬉しい限り。何気に本作は敵も味方も小物、と呼んでしまえるような人物が居ないので非常に歯応えがあります。新しく登場した幼いイルザも、まだ十を幾つか超えただけの子供としては、その境遇や経験によってかなり鍛えられていますし、味方側となるであろう第一王子もまたちょっとやそっとでは微動だにしないであろう大物感あふれる人物ですし、そんな大物揃い相手にして一歩も引けをとらないのが、ライル、マリーア、ルーナリアの主人公サイド。誰も弱みや弱点になるような所がなく、三人とも頼もしい限りなので、焦れったさなどで歯噛みすることもなく、痛快で手応えばっちりのストーリーを安心して期待できます。出来れば、でっかい規模の長編シリーズになってくれればいいんですけれど、それに相応しい面白さであるだけに。少なくとも既に三巻は執筆中のようですので、非常に楽しみ。
オススメ、一押しです。よしなに。

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