スワロウテイル序章/人工処女受胎 (ハヤカワ文庫JA)

【スワロウテイル序章/人工処女受胎】 籘真千歳/竹岡美穂 ハヤカワ文庫JA

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男女別の自治区で性別の違う人間と共に暮らす人工妖精たち。その一体である揚羽は、全寮制の看護学園で同室の連理や義妹の雪柳らと学園生活を謳歌していた。人間に害をなす人工妖精を密かに殺処分する“青色機関”の一員という裏の顔を持つ揚羽は、学園内の連続事件に死んだはずの科学者・不言志津江の陰謀を見出す。それは揚羽の人生に今後降りかかる過酷な運命の予兆でもあった。人気シリーズの前日譚たる連作中篇集。
既に二巻出ているスワロウテイルシリーズの第三弾にして、序章の文字の通りに前二作の時系列的には前に当たる前日譚。なんと、揚羽がまだ学生時代の頃のお話である。揚羽、学生だった頃があったんか!! って、そう言えばそんな事を言及してましたし、真白も看護師になっていましたっけ。ただ、あの揚羽が学生だった。それも、由緒正しき【乙女はお姉さまに恋してる】の聖應女学院みたいなお嬢様学園に通っていたというのは、なんとも不思議な感覚。そもそも、人口妖精が学校に通っている、というイメージがまだ固着していなかったようだ。この人工島においては人口妖精はほぼ人と同じ扱いを受けている、という事実は認識していても、生み出されてから自立するまでにこんな風に学校で教育されている、なんて風に頭が行かなかったので、実際に人口妖精たちが普通の年頃の女の子たちのように活き活きと青春時代を送っている姿は、なんとも感慨深い。
そうか、あの揚羽にもこんな青春時代があったのか……はっちゃけてたんだなあw
この頃から青色機関の末梢抗体として活動しながらも、普通の学生として学業試験に追われ、後輩に振り回され、将来は看護師として働こうとしていたのか、この娘は。色々と外れていたとは言え、こんなお嬢様学校に通っていた娘さんが、一巻ではゴミゴミとした裏路地みたいな界隈であんなうらぶれた刑事のおっさんの相棒みたいな、生活圏に半歩踏み込んで奥さんの真似事をしてみたり、なんてしてたんだなあ、と思うと妙な背徳感がこうゾクゾクっと、ねえ(笑

しかし、これまでの二冊と比べてもこの短篇集はライトノベル寄りなんじゃないだろうか。表紙だけではなく、本巻には竹岡美穂さんの挿絵がところどころに入っていて、揚羽や周りの妖精たちの御姿が拝めます。こうして挿絵で見ると揚羽って完全に美人系なんですよね。これまでの表紙から受けていたイメージからちょっと違っていたのですけれど、むしろしっくり来ましたね。あの苦労性の性格は幼いカワイイ系よりも美人系の方がよく似合うw
逆に、そういう美人系だからこそ、あの黒猫の衣装が最高です! 最高です! 雪柳、あんた最高だよ!! もうあの猫耳尻尾姿をイラスト化するために、挿絵があったといって過言ナシ。
また、あのアクアノートとして活動するときの口上がやたらめったら格好良いんですよ。あの決め台詞は、中二病なハートを絶妙に擽ってくれます。
生体型自律機械の民間自浄駆逐免疫機構(Bio-figures self-Rating of unlimited automatic civil-Expelleres)――青色機関はあなたを悪性変異と断定し、人類、人工妖精間の相互不和はこれを防ぐため、今より切除を開始します。執刀は末梢抗体(アクアノート)襲名、詩藤之峨東晒井ヶ揚羽。お気構えは待てません。目下、お看取りを致しますゆえ、自ずから然らすば結びて果てられよ!
この口上が放たれるシチュエーションがまたしびれる場面なのです。特に、第三話における【蝶と夕桜とラウダーテのセミラミス】におけるラストシーンは、なまじその辺のバトル系のライトノベルでもなかなか拝めないレベルの「決闘」でした。
しかし、この口上、実に良い感じに見栄が切られて尖っているのですけれど、こういうタイプって殆ど巷では見たことないなあ。あんまり流行るタイプじゃないんだろうか。めがっさ格好良いのに、格好良いのに(笑
このタイプで記憶にあるのと言ったら、あれですよ、秋山瑞人さん。【鉄コミュニケーション】や【猫の地球儀】での前口上。SF的な未来機構と古色蒼然とした漢の字と話法のコラボレーションが実にソソるスタイルなのですけれど、使い手らしい使い手にはとんとお目にかかった事がなかっただけに、此処での揚羽にはキましたねえ。
前二巻までもそういう口上やシチュエーションはあったのですが、どちらかというと全体の大きな流れの中での一場面といった感じのシーンでの事だったので、そこまで印象に残らなかったのです。それに比べて、この短編連作集では、各話に事件の犯人がいて、揚羽がその正体を暴いてラストに対峙するというパターンを採っているので、決め台詞がきっちりクライマックスシーンの盛り上がりに懸かってくるので余計に引き立ったのでしょうね。

そんな青色機関としての働きとはまた別に、学生として過ごす学園生活もまた、これって学園コメディだったっけ!? と思うほどに日常シーンでのドタバタがはっちゃけていて楽しいのなんの。主に、その原因は揚羽の後輩にして「妹」である風気質の(マカライト)の雪柳の暴走に寄るのですけれど……いやもうホントに面白いのなんの。この揚羽の通う学校、まんま【マリア様がみてる】や【乙女はお姉さまに恋してる】みたいな、先輩と後輩で姉妹の絆を結ぶエルダー制を採用している上に、おとボクばりのエルダー選挙まである始末。そこで、なんと落ちこぼれの四等級予定の揚羽が、雪柳の暴走で候補にあがってしまい……という展開もあり、このあたりの雪柳関連のスチャラカネタにはもう笑った笑った。なんか、「ごきげんよう」が合言葉のお嬢様学校はどこへいった、と言わんばかりの60年代の学園紛争みたいな大騒ぎになってるし。
「よくぞ集まってくれた諸君! 君たちは一人ひとりが五稜郭全学生徒から選び抜かれた最強・最精鋭の一兵卒であると同時に、五稜郭の運命を背負った誇り高き勇士だ!」
「「「おおー!!」」」
「敵はこの学園に創立当初から巣くい、生徒(たみくさ)を飢えしめ苦しめながら既得権益の甘い蜜を貪り肥え太り続ける悪鬼亡者の壁蝨・虱蠅、他ならぬ鬼畜生徒会である! 奴らは間もなく思い知るだろう! 我らの軍靴が連中の血に濡れた放埒腐敗の生徒会室を踏み荒らし、子々孫々に至るまで我ら憂学志士の勝利の行進曲に恐怖し怯えることになるのだと!」
「「「おおー!!」」」
「ここで我らが盟主たる、詩藤之揚羽様より激励のお言葉を賜る! 総員踵を揃え刮目して静聴せよ! ……さ、お姉様(エルダー)、マイクをどうぞ」
「……ああ、えっと、コホン。皆さんまだ遅くはありません。一刻も早くこんな馬鹿な真似はやめて元の教室にお戻――」
「総員火の玉となりて玉砕突撃を敢行せよとのお心強いお言葉であった!」
「「「おおー!!」」」
「これより我々は二十四時間の臨戦態勢に入る! 襲撃に備えよ! 立ち塞がる者はたとえ上級生といえども一人残らず駆逐せよ! 我らの進軍を妨げるあらゆる障害はそのすべてが敵か雑草である! 区別なく公平に焼き払え! 学園全土を二度と緑湛えぬ焦土と化せ!」
「「「おおー!!」」」
「では、盟主・揚羽様よりの作戦号令に耳を傾けよ! ……ささ、お姉様(エルダー)、どうぞ」
「……えぇっと、その……い、『いのちをだいじに』」
「作戦名は『ガンガンいこうぜ』に決した!」
「「「おおー!!」」」
「怯むな! 臆するな! 後ろを振り向くな! 正義は我らにあり! 弾丸(チラシ)を手に取れ! 拡声器の撃鉄(でんげん)を上げよ! 戦旗(プラカード)を翻せ! 五稜郭の興廃はこの一戦にあり! 諸君勇者たちの凱歌を学園中に轟かせよ! 総員戦闘開始! これにて本日の決起集会は解散とし、順次作戦行動へ移行する! 各個に突撃せよ! 突貫!」
「「「おおー! 突貫!」」」
「……ゆ、雪柳、あの、あのですね、ちょっと私とあなたたちとの間に横たわる、目に見えない絶望的な溝を埋めるための大事なお話があるのですが……」
揚羽が何度も何度も繰り返し力説することになる風気質の人工妖精のぶっ飛んだ性格を聞いていると、どうやっても風気質って性格が破綻した享楽主義者で社会不適合者に思えてくるのだけれど、外の社会に出た風気質は、ちゃんとやってけてるんだろうか。これまでは、どちらかというと繊細で心か弱く優しい水気質の人工妖精に、より焦点が当てられて語られる事が多かっただけに、この風気質の娘さんたちの面白ければ何でもあり、という性質は傍から見てると楽しすぎです。そばにいると、揚羽みたいにひどい目に合いそうですが。
「まかせて。文句のつけようがないくらい完璧に、五稜郭史上最高の土下座を決めてくる」
のちに、自治区総督にして唯一の一等級人工妖精である椛子閣下に次ぐ、二番目の一等級候補であり、椛子閣下の後継者として指名されるはずだった人工妖精の残した名台詞である。
うん、まあ頑張れ。超頑張れw

とまあ、電撃文庫に戻ってきても全然イイんじゃないかというノリだった本作ですけれど、最終編における自我と意識の境界などにまつわる論談の長さと掘り下げを見ると、やっぱり本作は純然たるSF寄りの作品なんですよね。ここまでしっかりと思想や概念について語り尽くせるのは、ハヤカワ文庫ならではでしょうしね。ほかだと絶対に削らされるパートでしょう。此処こそが肝であるにも関わらず。と言うことは、やはりこの作者さんはこのハヤカワ文庫で書いているのが一番いいんだろうなあ。
個人的には、二巻目よりもこの短編連作形式の三巻の方がストーリーラインがブレずにしっかりと組まれていた印象がありますし、純粋に面白かった気がします。わりと、短く区切って一つ一つのポイントを積み重ねていって大きなデザインに仕上げていくほうが、一気にでっかいキャンバスに一枚絵を描くよりも合っているのかな、この人は。まだ、そう判断してしまえるほど作品も出ていませんから、なんとも言えないのですけれど……うん、だからつまりはもっとどんどんたくさん読みたいです、はい♪

追記:結局、鏡子さんというものぐさは、椛子についても揚羽についても、筆舌しがたいほど親バカなのね。ホント、面倒くさい人だなあw

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