猫にはなれないご職業 2 (ガガガ文庫)

【猫にはなれないご職業 2】 竹林七草/藤ちょこ ガガガ文庫

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吾輩は猫又である。現在無職である。

かの有名な歌にもあるように、吾輩のような妖異にゃ学校も試験もなんにもないのは昔から知っていた。だが無職になって初めて職業紹介の場もないことに気がつき落胆しているのだ。
そんな吾輩の心中を知ってか知らずか「私、おばあちゃんと同じ、陰陽師になるよ!」と宣言した桜子は、自分の修行になりそうな怪異スポットを探しておる。
ある日、桜子がいわくつきの廃屋から帰ると国東茉莉という1人の少女を連れていた。

「お願いします! 祓って欲しい鬼がいるんです……鬼を、祓ってください!」

桜子との会話から察するに、この少女は廃屋に1人でおり何をしていたかは話してくれていないようである。そして鬼の姿、形ですら答えられないという。
茉莉自身も何か事情があって答えられないようにも思えるが、これっぽっちの情報では……と吾輩が困っていると、桜子は「困ってるなら力になるよ。大船に乗った気でいなよ」といった。

いやはや――桜子、困っているならどんな依頼人でも助けたいと思えるおまえはやっぱり藤里の人間だよ。現当主である桜子が受けた依頼だ。吾輩はその意思に沿う働きをしようではないか。
ちょいと、ガチで泣いちゃいましたよ、私!? 
一章の終わりにポツンと書かれた一文にハッとさせられたのも束の間、二章になって始まった新たな事件の内実が明らかになるに連れて弥増す緊張感。そこに、彼女の存在が関わっていると解ってからの切迫感の凄まじいこと凄まじいこと。読んでいるこっちまで、身を切られるような思いにさいなまれる。そして、該当シーンである命があるものを探して、とあるアパートの一室に侵入するシーンに至っては、息をすることもままならず、手に汗握り心臓をバクバク云わせながら事態を見守ることに。そして、恐れていたものが見つかってしまった時の、あの絶望感……、もうこっからの展開はこの一連の出来事の真相も含めてあまりにもショッキングで、同時に心揺さぶられるもので、情動をグッチャグッチャにかき回された挙句に、泣き、入ってしまいました。
参った。
読んでるだけで、物凄いエネルギーを消耗してしまいましたよ、このあたりは。思わず、グッタリとなるほどに。それほどの緊迫感だったと察して頂きたい。
一件軽い陰陽師モノに思われるけれど、一巻に引き続き人間の内面をこれでもかと掘り下げ、その醜い部分と美しい部分を浮彫にしてそれを妖異、怪異として現出させる怪異譚としての出来栄えは一品であり、演出面での迫真性や緊迫感、恐怖やおどろおどろしさを引き立たせる描き方は、ホラーとしても上質のもので、何よりエンターテイメントとして、物語として読んでいてグイグイと引きこまれていく牽引力に秀でている、実に素晴らしい作品に仕上がっている。一巻も手放しで絶賛するほど面白かったけれど、二巻になってさらに伸びたんじゃないですか? いやもう、本気で面白かったんですけど。

てっきり一巻の最後で家業の陰陽師を継ぐことを決意した桜子が、物語を牽引することになるのかと思ったら、未だにタマの正体すら知ることも出来ず、やる気ばかりが空回り。結果として、本質こそ見失わないものの本件からは蚊帳の外に置かれてしまうはめに。結局、タマの相棒は本来一般人であるはずの命が引き続き務めることになるのか。でも、彼女の見鬼の才能はタマや同業者が度肝を抜かれるほど優れていることから鑑みるに、今更一般人とは言えないのかもしれない。あれだけ、土壇場で肝が据わり、またここぞという時に男前の性格で、優しさを基盤にした退かない信念の持ち主だからなあ。滅茶苦茶いい女なんですよ、命ちゃん。これで、腐ってさえいなければ。腐乱してさえいなければ……w
もう女として、人間として踏み入ってはいけない領域にまで足を突っ込んでしまっている手遅れ腐女子。先の文房具を掛け算にして興奮していた姿にもドン引きだったけど、クラスメイトの男子が親密そうに話している姿をオカズに、白米をガバガバと掻き込み、スピスピと鼻息を鳴らしている姿は、百年の恋も冷めようという代物である。これ、普通の人間の男が相方じゃなくてよかったよ。オッサンの猫又が相棒でホント良かった。でなきゃさすがに色々な意味で危なすぎて、主人公とヒロインとしての関係が成り立たないもの。無理だモノ。
オマケに、新キャラクターの女性術者も、アラサーにも関わらず、いや年齢を経てしまったぶん最早後戻りできないところに踏み入ってしまった人外魔境の腐帷子を身につけてるようなキャラだもんなあ。結婚は諦めてください。あんたのそれじゃあ、絶対無理です。命がドン引きするってどんだけのレベルなんだか。まあ、命だって順調に歳を経ればああいう残念な大人になってしまうこと必至なのですが。あれを反面教師にしておかないと、えらいことになってしまうぞ。
でも、腐っている部分さえなければ、命も女性術師の方も実に大した連中なんですよね。いや、術師の方はまだあれこれ未熟者なのですが。
何だかんだとタマも今や命を信頼し切ってますし、今回の一件を打開して退けた立役者は命だとタマも手放しで認めるところ。正直、女子高生にあんな場所に踏み込ませて確認させようとしたタマは容赦なさすぎ、と思ったものでしたけれど、それも信頼の賜物だったんだろうなあ。それに、彼女は期待以上に答えたわけですし。
自分の立場が危うくなる事も厭わず、断固として黙して何も語らなかった命の心意気には、頭が下がる思いでした。本当に重ね重ね、腐ってさえいなければ……w

とまあ、命の見せ場たっぷりの今回でしたけれど、猫又のタマの方もちょい悪オヤジ風味がいい具合に炸裂。桜子に対しては相変わらずの過保護っぷりでしたけれど、妖怪としては貧弱もいいところな猫又であるタマが、本来の存在の格付けなら一蹴されて当然の格上の大妖相手に、猫又としてではなく「陰陽師」として技術と知恵で立ち向かうその姿は、ヤニ臭いオッサン猫だろうと文句なしに男前でございました。
今回のキーキャラクターとなる茉莉も、その幼さとは裏腹の聡明さと、子供が持つべきではない薄幸が健気さと相まって実に悲哀を帯びた感情移入させられる良いキャラで、それだけに彼女の顛末と母子の物語はインパクト強かったんですよねえ。

何にせよ、文句なしに面白く読み込ませてくれる一冊でした。絶賛オススメ。

1巻感想