黒鎖姫のフローリカ (富士見ファンタジア文庫)

【黒鎖姫のフローリカ】 坂照鉄平/鍋島テツヒロ 富士見ファンタジア文庫

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「私はあなたを繋ぐ鎖の主。この聖堂で亡者を束ねる黒鉄の鎖。喜ばせたければ―フローリカ、と名を呼びなさい」不死の亡者―『落胤』に夜ごと脅かされる世界。“荊冠の背教者”の護法神官であるスタッグは、『落胤』討伐の任務に赴き、その命を落とした…はずだった。しかし、彼は不死の姫王フローリカの眷族として蘇らされる。聖職者でありながら、不死者となったスタッグは彼女を殺すことを決意するも、不死の姫を殺し得る唯一の方法は―彼女を愛する事で!?不死の呪縛に繋がれた時、少年は封緘聖堂に隠された世界の“真実”に辿り着く。
 前作【L 詐欺師フラットランドのおそらくは華麗なる伝説】の完結からおよそ三年間音沙汰なかった坂照鉄平さんの、久々の新シリーズ。前作がなんだかんだとかなりの良作で、しかもファンタジーながら純愛に帰着したストレートなラブ・ストーリーだったので、次のシリーズも当然のように期待していたのですが、まさかこれだけ待たされることになるとは。でも、再び復帰してくれてよかった。おかえりなさい。
さて、満を持してか引っさげてきた新シリーズは……読んでみるとこれがドンドンと作品の印象がめまぐるしく変わっていく不思議な作品でした。初めはいきなり主人公が志半ばで死んでしまうという衝撃的な展開で、そこから不死者として蘇らせられるという骨太な本格ダークファンタジーかと思いきや、フローリカの眷属たちに出会ってみるとこれが実にスチャラカな連中で不死者にとっての天敵であった神官だったスタッグがどう扱われるのかと思ってたら、思いの外友好的でフローリカに拾われたこの少年の存在をむしろ喜んで迎え入れる始末。そこで繰り広げられる大騒ぎは、そのままドタバタホームコメディでかなりの急展開に目を白黒させてしまった。
そもそも、このフローリカの眷属たち。不死の怪物としては定番ともいうべき種族が勢ぞろいしているのだけれど、その種族に相応しいイメージというものを尽く蹴っ飛ばしている凄い奴らである。すぐに成仏したがる元女兵士の騒霊(ポルターガイスト)はまだマシで、猫の姿をした道化師みたいなリッチーに、泣き女(バンシー)にも関わらず男でジェントルマンでハードパンチャーという謎の紳士。首と胴体が別人で、それどころか駆け落ちした恋人同士という首なし騎士(デュラハン)、そして圧倒的な存在感を示す吸血鬼のパンダ。パンダである、パンダ! おい、このパンダ、【怪物王女】で見たことがあるような気がするが気のせいか!?
こんなスットボケた連中を相手にして、緊張感など保てるはずがなく、しかしこの連中が人の心を持たない不死の怪物でありながら、主であるフローリカを慈しみ、眠れぬ存在である彼女に安らぎを与えようと心を砕くその様子はアットホームと言ってすらよく、この怪物一座が温かな絆で結ばれた家族のように見えてくるのだ。
ホームコメディ?
と、ぬるま湯に浸った気になっていると、さらに話はどんどん進み、フローリカの不死者としての心の倦怠と絶望という核心が移行していく。
与えられた役目を、終わる理由もないからと淡々と続けていくだけの、無機質で心の置き場のない少女の奈落のような絶望感。そんなとき、不死者である自分を助けて死んでしまった本来敵であるはずの神官の少年。彼を気まぐれに命を与えて蘇らせてみると、何故か彼の存在は停滞していた彼女の心を揺り動かし、死んだように生きていた、死んだように存在していた少女を、ある意味蘇らせてしまうことになる。
物語は永遠という檻に縛られた少女を救うは愛し愛される事、という純愛物語へと再び変化していくのだ。
作品の雰囲気がコロコロと変わっていくのは、目先が次々と変わっていって退屈しないですし、一つの世界観に様々な方向性が内包されているというのは、可能性を伸ばすという意味でも悪くはないと思います。ただ、現状だとまだまだ中途半端と云われてもしかたがないかな、という忙しなさを無視できないんですよね。フローリカとスタッグがそれぞれに想いを寄せる過程にやや唐突感があり、説得力が感じられないという理由も大きいかと。
ただ、どこ展開に関してもこのまま行ったら面白くなりそう! という足元がしっかりして踏ん張りがききそうな要素が散逸していて、話が続けば続くほど上積みが増えていきそうな気配を感じるんですよね。前作での実績もありますし、個人的には先々に期待したい新シリーズです。
特に、もう少し“荊冠の背教者”側の描写が、特にフローリカの対抗ヒロインであるはずのハルの描写が増えてきたら、さらに充実してくるとおもわれるのですが。

坂照鉄平作品感想