やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6 (ガガガ文庫)

【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6】 渡航/ぽんかん(8) ガガガ文庫

Amazon

慣れない役割、ぎこちない関係。

文化祭。面倒な仕事をスルーする方法は……呼ばれても返事をしない、なるべく面倒くさそうな気持ちを顔に出す!?
ぼっちのスキルをフル活用して文化祭の準備をサボる気満々の八幡。しかし、授業をサボっていたら、不在なのをいいことに文化祭の実行委員にさせられてしまう。
慣れない役割とぎこちない関係。
新学期が始まってからの八幡は、どこか調子がおかしい。クラスでも、部活でも。雪乃への疑問は消えないまま、そしてそれを問わないまま……学校中が祭の準備で浮かれた空気の中、取り残されているのが当たり前のはずの八幡なのに、居心地の悪さは消えない。
まちがえてしまった答えはきっとそのまま。
人生はいつだって取り返しがつかない。
前に進まず、後戻りも出来ない二人、雪ノ下雪乃と比企谷八幡。近づきも遠ざかりもしない不変の距離感に変化は訪れるのか。

アニメ化も決定、話題のシリーズ第6弾。
平塚先生の優しい言葉が骨の髄まで染みてくる。静ちゃんのこの時のセリフって、あんまり「先生」って感じはしないんですよね。教育的だったり上の立場から諭すように言うのとは、柔らかさが違っている。この人、前々から八幡との距離感に微妙に踏み込みすぎたような部分が見受けられたんだけれど、あの台詞は雪乃や結衣の事を語っているようでその実、静ちゃん自身の気持ちを語っているようにも見える。如何様にも取れるんだけれど、先生という立場を超えて踏み込んできた上で、こうやって真意を、自分がやったことの意味をちゃんと理解し、心配し、そして讃えてくれる人がいるというのは、幸せな事なのだろう。もっとも、八幡はそういう理解してくれる人たちの為だからこそ、自分を損なっても殉じてしまうメンタルの持ち主なんですよね。
今回の一件、彼がヒールに徹したのは決してみんなのため、ではありませんでした。ましてや、相模なんかのためではなかった。ただただ、雪ノ下雪乃の為に、彼女の頑張りに報いるために、彼女の孤高を、ボッチを肯定する為に、身を投げ打ったのです。
多くの人にとって、彼は不愉快な存在でしょう。理解不能で場の空気を悪くする存在でしょう。しかし、これほど、絶大な信頼を寄せられるニンゲンがいるだろうか。
とは言え、こういう社会から逸脱してしまう人間と親しく付き合うというのは、勇気が居ることなんですよね。どれだけ信頼出来る人間だろうと、周りから見ると排斥の対象となりはみ出し者として扱われる以上、それを付き合うということは同じようにはみ出し者として扱われてしまう危険がある。
由比ヶ浜結衣が本当に偉いのは、そのリスクを承知しながらも、そのリスクに怯えながらも、勇気を持って逃げずに八幡たちに関わろうとしているところでしょう。彼女の偉大さは、あの雪ノ下雪乃の凝り固まった心を解きほぐしたことでも明らかです。あの、雪乃が一番苦しかった時、雪乃が全部を拒絶せずついに結衣の差し伸べた手を握ったのは、これまでの彼女の努力があったからこそ。このシーンほど、胸打たれたシーンはありませんでした。この娘の善良さとひたむきさには、毎回毎回泣きそうなほど感動させられる。
一方で、結衣がマイノリティに追いやられてないのは、八幡のクラスのカースト最上位のメンツ、葉山や三浦、海老名という連中が何気に本気でイイ奴らであると同時に優秀な人間であるからなんですよね(三浦は多分に天然なところがあるようですが)。人間的な余裕、と言ってもいいのかもしれませんが、八幡たちの方にふらふらしている結衣を突き放さずに好きなようにさせつつ、抱擁している現状は彼らの人間性の現れなのでしょう。
ただ、今回の八幡の行為が生徒全体から悪印象を受けてしまった以上、葉山たちもこれまでみたいには容易に八幡には近づきがたくなるかもしれない。いや、葉山たち自体は露骨に態度に出さないかもしれませんが、八幡はその辺気にするだろうから、これまで以上に結衣と距離おこうとするんだろうなあ。結衣を大事に思っているからこそ、結衣が自分の為に自分と同類と観られることを嫌うはずですから。それを、結衣がどう思い、どう捉え、どう行動するか。彼女からさり気なく、自分から踏み込む宣言が折しも出ていた以上、もしかしたら次回以降は彼女の動向こそが物語の中心になっていくかもしれない。

もう一つ興味深いのが、葉山の動向である。今回の一件で一番その反応が興味深かったのが、この葉山なんですよね。恐らく、雪ノ下雪乃と陽乃、由比ヶ浜結衣と平塚静を除けば、八幡の真意とその行動の意味を一番正確に理解していたのが彼、葉山隼人なのでしょう。その彼が見せた、八幡の行為に対する怒り……というよりも、あれは苛立ちか。葉山の心情に思いを巡らすと、なかなかソソるものがあるんですよね。彼の複雑な内面と雪乃への気持ち、そしてどうしてもブレることのない善良性。それらを鑑みて、この時の葉山の心情を思うと、八幡の行為を否定し避難するような言動を残してはいるものの、葉山くん、この時かなり悔しかったんじゃないかな。自分では決して出来ない方法で、自分ではどうしようもなかった状況を救ってくれた。自分が助けられなかった雪乃を、彼はまた助けてしまった。八幡は葉山を認めながら、同時に自分とは人種が違う、と割りきっているけれど、善玉である葉山にとってヒールになれる八幡という存在は劣等感すら抱いてしまう相手なんじゃないだろうか。恐らく、これまでどんな人間だろうと受容してきた大きな器の持ち主である彼にとって、初めて現れた受け入れがたい、しかし誰よりも認めざるをえない相手、認めるどころか自分には出来ないことを自分には絶対できないやり方で成し遂げてしまう、敵わないと思わされた相手。それが、八幡だったんじゃないだろうか。夏休みのボランティア・キャンプで味わった敗北感、それが再び、より大きな波となって葉山くんを苛んだのではないだろうか。
それでいて、あの「どうしてそんなやり方しかできないんだ」という叫びには、否定だけではなく彼が非難されることへのやりきれなさがうかがえるのだ。なんかねー、このセリフには葉山くんの八幡はもっと認められるべき人間なのに、という悔しさすらも感じるのです。自分が八幡にどういう役割を負わされたのかも理解した上で、ある種の信頼を寄せられていた事を悟った上で、どうして自分がこんな役割を果たさなきゃいけないのだという苛立ち。自分ではなく雪乃を救ったのが彼だという嫉妬。静ちゃんの言う八幡が傷つくことで同じように傷ついた人間の中に、彼葉山くんもまた入っていたはず。
結衣に負けず劣らず、私はこの葉山くんという人は根っからの善人で良い奴なんだと思えて仕方がない。
この時、彼の中で渦巻いていた様々な感情に思いを馳せると、非常に心くすぐられるのです。当初からは予想外に、葉山くんというキャラクターが重みを増してきた気がするなあ。

そして、雪ノ下雪乃。彼女が、比企谷八幡という少年をどう思っているか、どう思うようになったかを示すような具体的な台詞は見当たらず、その様子からもなかなか窺い知る事はできない。
それでも、今回のターンは、恐らく決定的な一歩を担ったのではないだろうか。これまで、本当に全くと言っていいほど前にも後ろにも進まなかった二人。否、若干距離感のとり方を見失っていた二人の間に生じたものは、見えざるも確かな繋がりだったんじゃないだろうか。
すべてを置き去りにして突っ走ろうとして、躓いて膝をつきかけた彼女が見つけたのは、大切な2つのもの。こうなった以上、彼女のプライドにかけて、もう観ないふりなんて出来ないに違いない。
何も変わらないように見えて、何かが確かに変わったのだ。
ターニングポイント。
おそらくは、ここがそうだったに違いない。その瞬間の、あの陽乃が立ち会い見届けていた事がどう作用するのか。彼女の思惑が未だに見えていない以上、予断は許されない。正直、八幡が思い描いた陽乃の考えは、甘すぎると思うから。

しかし、アニメ化って……ここまで凄まじい圧巻の青春ドラマを見せつけられると、ハードル爆上げしてますよね。生半な心情描写じゃとてもじゃないけど表現しきれんぞ、これ。どれだけ八幡の地の文を演出し、引き出し、その表も裏も描ききれるか、なんだろうなあ。

シリーズ感想