天帝学院の侵奪魔術師<ドメインテイカー> ~再臨の英雄~ (HJ文庫)

【天帝学院の侵奪魔術師<ドメインテイカー>  ~再臨の英雄~】 藤春都/refeia HJ文庫

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<英雄>と呼ばれる大魔術師アストは、ある時、全く魔術が使えなくなった。そんなアストに、国皇セドリックから、妹姫リトフィアの護衛のため魔術師学院に潜入してくれと頼まれる。食堂で下働きをしつつ、生徒として編入されるアスト。魔法が使えなくなった原因を探りつつ、刺客と戦うアストは、やがて魔術の根源にも関わる、重大な秘密に近付いていく。
おおっ、英雄は英雄でも即席培養の能力だけとってつけたようなニワカと違って、下から叩き上げで這い上がってきた実践派は自分の最大の武器が奪われても頑として揺るがないなあ、強い強い。
魔術そのものが使えなくなっても、それまで実践を通じて研鑽を続けてきたものだから魔術に関する知識は抱負だし、応用や対抗法なども柔軟に扱える。最前線で戦ってきた以上、接近戦にも長けていて、斬った張ったの殺し合いにも慣れている、と来た。さらに言えば、魔術を失ってしまったのは乱戦のさなかに敵兵によって瀕死の重傷を負ってしまったからで、ずっと無敵で傷ひとつ受けたことがない、というキャラでもない。
一応、途中で学生という立場になるアストだけれど、彼の経験やキャラクターを見てるとむしろ教師という立場に立った方が似合っていたんじゃないかと思うくらい、自分の知識や経験をリトフィアたちに教え導く姿は様になっていた。魔術を失ってしまった人間に対する偏見さえなければ、人格的にも能力的にもセドリックの側近、どころか軍や政治に中枢に重臣として収まってもまったく違和感ないタイプだもんなあ彼。実のところ<英雄>と呼ばれる存在にしては、あんまり浮世離れしていないんですよね。単体で陰働きしているときも、腕のいい隠密といった感じで、身分を隠して云々、という雰囲気じゃなかったし。低い身分からの叩き上げだからだろうか、やっぱり。
それでいて、人の前に立ってグイグイと主導して行ったり、逆に自分は後ろに回って皆が力を発揮できるように手回ししたり、という正反対の人の上に立つタイプを兼ね備えているような側面もあり……いや、こいつ本気で万能タイプだな。最終的に彼が担うであろう多くの王を束ねる帝という立場を考えると、彼のキャラクターはまさにその方向に磨き上げられてるように見える。
問題は、その彼を担ぎ上げるだろう王権保持者たるヒロインたちに、まだそれほど魅力的な人材がいないというところなのだけれど。
むしろ、生徒会長の方が面白そうなんだよなあ。あの怪しい生徒会長、あんまりにも言動が妖しすぎて一連の事件で陰謀を巡らしていた黒幕だとあからさまなくらい匂わされていたんですけれど……ついに最後まで尻尾を出さなかったんですよね。これには驚いた。展開的に完全に彼が黒幕だという流れだったにも関わらず、言葉の端からも行動からも、まったく疑わしいところを見せないまま終わってしまったのです。今の状況だと、単に元英雄のアストをライバル視しているだけの、腹に一物持ってそうな天才くん、というだけなんだよなあ。これで本気で今回の事件とは無関係で、敵ではなかったとしたら、その方が面白いですよ。性格的には、敵の組織と関係なくても、味方になるよりも第三極的な立ち位置になってしまいかねないけれど、それでも単純に実は黒幕でした、というよりものちのちの動き方にも自由度ができますし、主人公との関係もトリッキーかつ流動的に面白く動かせそうな余地が多大に出てきそうだもんなあ。
引いては、王様というものは相応の独自性を持っているわけで、そういう連中の上に立ってこそ帝なんだから、アストには是非従順なだけの王だけじゃなく、縄をつけても言うことを聞かない危ない連中もまた従えるほどのカリスマを見せてほしいな。