戦国妖狐 10 (BLADE COMICS)

【戦国妖狐 10】 水上悟志 ブレイドコミックス

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旅の終わり、冒頭から凄まじい描写をくれる。吹雪の中を歩む青年の姿をした千夜。彼が夢の間に見た光景が今の少年時代の千夜なのか、それともこの未来の千夜が傷つき眠る少年千夜の見る夢なのか。
時間の流れを度外視した発想に、自分を過去が見る夢かと思い描いた青年は微笑み、幼き自分に語りかける。この姿を見よ、自分は今、様々な人に与えられた温かなものを自覚し、どんな時にも笑わせてくれる。
だから、キミは今は泣け、と。いつか、自分の中に積み重なった温かなものに気づくまで。
いつか、再び笑える日まで。

正直、もうこのシーンだけで泣きそうになったんですけど。
正直、もうこのシーンだけで傑作と呼んでいいんじゃないかと。

先の巻の、将軍・義輝公の時空の先を超えてしまった剣の境地にも度肝を抜かれたけれど、凄いな、時間の積み重ねというものを蔑ろにせずむしろ重要視しながらも、過去から未来に流れるはずの時間の流れを超越したような領域を花吹雪のように散りばめている。
水上先生って、もう1シリーズ、人間の前世をテーマにしたお話を今立ち上げているけれど、先の【惑星のさみだれ】からこっち、漫画のテーマにおいてどんどん深遠に踏み込んでってるよな。最近、もういっそ「凄味」と言っていいくらいの切れ味と深みを感じて、慄くこともしばしば。

そして、現れる神を狂わす者ども。フードをかぶった謎のあやふやな存在たち。過去より来たりて祖国を救うとのたまう「無の民」を名乗る者ども。
それに立ち向かう千夜には、千の怪と将軍様の魂を宿した刀が。
将軍様は死んでも将軍様だったなあ。千夜とちゃんと別れをせず逝ってしまったことが何となく心残りだったのだけれど、泣けなかった千夜をちゃんと泣かせてくれたこの人は、本当の意味で千夜を人間にしてくれた大恩人なのだろう。真介が兄だとすれば、もう一人の父親と言っていいくらいの包容力と慈愛を持って千夜を導いてくれた人だった。

斯くして、無の民を一旦退けて8年後。
8年経てば、千夜も月湖もそれ相応の歳になるわけで……表紙はおっきくなった千夜でした。初見、あまりにこう、イイ表情をしていたので、一瞬千夜なのかわからなった。
そして当然のように千夜が成長すれば、月湖も成長するわけで……どわぁぁぁっ、なんちゅう美人に育ってもうたんやーー!!
幼女の時点ですでに水上作品屈指のヒロインだったのに、こんなに育ってしまって、たわわに育ってしまって。
超巨乳でござる!
しかも、衣装がチューブトップとか、健康的にエロすぎます!
おのれ、こんな娘にまだ手を出してないなんて、千夜のへたれ! へたれ!!
もともと天禀を見せていた剣の腕前は、完全に達人の領域へ。でも、それは否応なく人の領域での話に留まってしまう。月湖の願いは、千夜を守ること。その為に強くなったはずが、強くなればなるほど非力さを痛感し、彼女は苦しむことになる。そんな彼女に力を授ける誘惑を持ちかけてきたのが、あの黒月斎の亡霊だったというのは面白い因果だなあ。神を押し倒すために強くなろうとした、ある意味剣豪将軍よりも遥かにバカバカしく力を求め、手に入れた男の左道を受け継ぐことで、果たして月湖はどうなってしまうのか。
彼の弟子だった迅火ときたら、今や完全に暴走したバケモノとかして、タマさんを悲しませっぱなしだもんなあ。まあ別に黒月斎が悪いんじゃなくて、完全に迅火の自業自得と未熟さの賜物なんだけれど。
その点、千夜と月湖は常に自分の中に生じた矛盾と現実との齟齬、様々な障害や苦悩と向き合い、真正面から一つ一つ乗り越えてきた子たちだから、大丈夫だとは思うんだけれど。でも、月湖は常に力を求めてきた子でもあるからなあ……大丈夫だとは思うんだけれど。

にしても、今や千夜の中の千の闇たちは、完全に千夜の頼もしい友になってますよね。今となっては迷う千夜を叱咤激励するような関係になっていることが、なんとも嬉しい。月湖となうとこの千闇が居れば、千夜が道を誤ったり挫けたりしない、健全に強くなり続けられると信じられる。
まったく、いい主人公ですよ、千夜は。

水上悟志作品感想