黒鋼の魔紋修復士4 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 4】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

Amazon

その牙は幼く、汚れなく。彼女こそ--“いつわりの神巫"

隠されていたディーの紋章魔法により辛くも危機を脱したヴァレリアたち一行は、ユールローグの手の者を追いハイデロータの都・オーリヤックへ向かう。一方、国王の命を受けたイサークも今回の内紛に乗り出していくことに。ハイデロータとの関係を優位に進めるため、イサークとともに仲裁役としてユールローグへ向かったヴァレリアたち一行だが、そこにはディ-と死闘を繰り広げたあの少女の姿が……! “神巫"の誇りを懸けた戦いが、いま幕を開ける!
えええ!? クロチルドってそうだったの!? 無能な王子に振り回されて、要らない苦労を強いてられている可哀想な子、と思っていたら、どうも自ら好んで苦労を買っていた模様。なんだ、ダメ男属性だったのか。なまじ出来る女だと、出来ない男の子を可愛く思ってしまうものなのか。
いやでも、シジュベールくん、イサーク王子と比べると頭の回転も遅いしプライドばかり高くて空回りしているし鈍くさいし、といいところ無しの無能王子に見えるんだけれど、実はヴァレリアたちが思っているほど無能じゃないんじゃないかな。少なくとも、クロチルドのサポートをキチンと受け入れて機能させているというだけでも完全な無能とは言いがたい。本当の無能は周りがどう頑張っても全部台無しにしてしまいますからね。その点、シジュベールは足りない所だらけだけれど、その足りない部分をクロチルドによって補えているし、目に見える形でクロチルドの足を引っ張るようなマネはしていない。結構頑張り屋な側面も見受けられるし、その頑張りが無能な働き者という無残な方向に向かっていないだけでも評価に値する。ハイデロータの王族貴族のレベルが総体的に低いことから見ても、シジュベールはそこそこイケてる方なんじゃないかな。そう考えると、クロチルドの男を見る目も趣味もそれほど悪くはない気がする。
だいたい、結果としてみると今回イサーク王子の方がやらかしちゃってるんですよね。彼がわざわざ独断でハイデロータとユールローグの内紛に首をツッコんだ理由を鑑みれば、むしろ彼がでしゃばったお陰でやぶ蛇になってしまってるんですよ。その口八丁手八丁に遠大な戦略眼や捻くれた謀才によってハイデロータとユールローグを引っ掻き回し、いいように振り回していいとこ取りをしたように見えるイサーク王子だけれど、最後に油揚げを掻っ攫ったのはとんだ間抜けを晒し続けていたシジュベールだった、というのが何とも面白い。
クロチルドの助言があったのかもしれないけれど、意外と抜け目なかったじゃないですか、シジュベール。正直、かなり見直した。

とまあ、国同士の影に日向にの激しい駆け引きが続く中、巫女であるヴァレリアやカリンたちは否応なくその渦中に取り込まれていく。巫女それ自体が政治的な象徴を担っている以上、戦力として以上に象徴として相応しい行動を取らなければならない、というものなんだけれど、大変なお仕事だなあと感心してしまう。その政治的な象徴に徹してもいいはずの巫女さんを、積極的に活用しまくるイサーク王子も王様もまあ強かな人たちである。まあ他の国の巫女たちも、見る限りは使えるだけ使い倒されているので、有能なものはそれだけ酷使される運命なのだろう。逆に言うと、これだけ良いように使い倒されているということは、ヴァレリアもそれだけ使える人材と認められているとも言えるんですよね。術だけはよく使えるけれど、実践力も見識も何もないだけの巫女さんだったらば、それこそお飾りにしか出来ない、というかお飾りにして安置しておかないと下手に失われてしまったら困ったことになりますからね。幾ら補佐につくディミタールが有能とはいえ、限界もあるでしょうから。
そのディミタールの嫌味と皮肉と罵倒と嘲りが入り混じったお小言も、ここ最近はめっきりなくなってしまいました。いくらディミタールの口が悪くても、無理やり粗をほじくりだして罵ってくるような人間ではないので、ちゃんとしてさえいれば何も言われないのです。実際、傍から見ててもヴァレリアは先立っての世間知らずなお嬢様が嘘みたいに、キチンとしだしていますし。まあ冒頭からこの子、向上心はたっぷりありましたし、ディーの悪口にもめげずナニクソと努力を欠かさない子でありましたから、この成長は当然といえば当然なのでしょうけれど、それでも大したものです。反発が少なくなりお互いを認める機会が増えてくるに連れて、ヴァレリアとディーの間にも段々ともにょもにょっとした空気が流れるようになってきましたし、これは進展も期待できる状況になってきたのかしら?
きな臭い国際情勢と合わせて、二人の関係にも要注目。

嬉野秋彦作品感想