アリストテレスの幻想偽典  1.禁忌の八番目 (富士見ファンタジア文庫)

【アリストテレスの幻想偽典 1.禁忌の八番目】 永菜葉一/能都 くるみ 富士見ファンタジア文庫

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リセリア学園生徒会執行部の副会長にして、炎と不死を司る能力『ファウスト』を持つ少女・弓川織絵は、人々を目覚めない眠りへといざなう能力『死に至る病』の使い手であるキルケゴールの襲撃を受けていた。その戦いに偶然巻き込まれてしまった平凡な高校生・日比野直輝に、織絵が保持していた空白の幻想偽典が反応する。直輝が引き当てたのは、存在するはずのない八番目の『世界を規定する書』で、万物を斬る光の剣―二大賢者の一人・プラトンの『イデアの片翼』だった!!キルケゴールを倒すべく、織絵と共に特訓に励む直輝だったが―。物語と保持者が共鳴する学園ビブリオファンタジー。
ああ、このヒロインはツボ。こういう、興廃に先輩としてお姉さん風を吹かせて余裕振りながら、中身は一杯一杯でポンコツだったりする娘さんは大好きです。姉属性の一種ではあるんだけれど、身内じゃなくてあくまで先輩後輩という立場だからこそ甘酸っぱさが引き出される、というケースもあるということ。これは姉属性と言うよりもシンプルに先輩属性なんだろうな。包容力を感じさせながらおっちょこちょいで早合点しやすく意外と積極的、その一方で仄かな陰を感じさせ儚げな空気をまとい肝心なところで引いてしまうところあり、となかなか多才な魅力を併存させてもいるんですね。後輩として猫可愛がりされながら、同時に男として守ってあげたくなる庇護欲を感じさせる、という女性としては相当のやり手です、うんうん。
なんかこう、はちみつ♪ って感じw
勿体無いのは、その相手となる主人公に魅力がないことか。生真面目なのは別に悪くはないんだけれど、真面目さに愛嬌がないものだから、キャラクターにどうにも面白味が感じられない。ユーモアを持て、とまでは言わないけれど、熱いだけの奥行きも表裏も余裕も思慮もない男はツマラナイよ。
逆に言うと、引っかかるのはこの主人公のキャラくらいなもので、異能力の媒体として戯曲や哲学書といった古典の大著を持ってきたのは非常に面白い。書籍、それも普通に読めて内容も広く知られている名著を使うことで、能力の根拠とルールがわかりやすく、それでいて柔軟に運用できるんですよね。書の解釈が使用者によって改変されている場合もある、と定義したことで書の解釈についても変に囚われずに、物語の展開に必要なように動かせるようにしてあるのも、上手いなあと思いました。もっとも、この柔軟性はやりすぎると書の特質を失いかねないので、結構繊細なアプローチが必要になってくるとは思うところでもあるのですけれど。
ある程度でも、これらの著作がどういう方向性の作品なのかを知っていると、大雑把とはいえこの本の内容をこんな能力に変換するのか、という風に読めて面白いですよ。さらに解釈を深めたり傾注する部分を変更することで、能力にも変化が生まれる可能性がある、というのはいいなあ。バトルものとしても発展性があるし、対象となる本についても掘り下げてくれるのは嬉しい。
ニーチェは出てくるだろうなとは思ったけれど、直球の超人思想だったな(笑
ともあれ、学園異能モノとしても大きな発展性を見込めそうですし、最初からハッタリとして八冊の『世界を規定する書』を準備していて、色んな大著名著を引っ張りだしてくる気満々なのは、先々を鑑みてもなんかワクワクさせてくれるじゃないですか。
まあかなり楽しめただけに、もっと主人公が魅力的だったらなあ、と飢餓感が湧いてくるのですが。ホント、勿体無い。なんとか挽回してほしいものであります。あと、このイラストはもうちょっと……。