お願いだから、あと五分! (MF文庫J)

【お願いだから、あと五分!】 境京亮/きみしま青 MF文庫J

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「……やっと、見つけたんだからさ」「見つけた……?」「うん。私の――枕」って、『枕』?俺・内藤優一が図書室で出会った謎の美少女・木枕コトハ。彼女は眠っている間だけ予知能力が使える超能力者だった。コトハは暗号名・〈全知全能の姫君〉と呼ばれ、大企業・羽島グループでアルバイトをしているらしい。「私は眠れる超能力者! 君はその相棒。だから私が眠っている間、君は私のそばにいなくちゃいけないの! 」俺はコトハの相棒として仕事を手伝うことになって――!? 第8回新人賞佳作受賞。枕系主人公×お眠り美少女が織りなす、ハイテンション安眠系ラブコメ登場!
働いたぶんの正当な報酬をもらうのに、恥ずかしいことなんて何もないですよっと。いや、なんかどうでもいい所が気になってしまったわけだけれど、優一くんが働いた分の報酬をそのまま受け取る事に忌避感を抱いたってことは、彼は自分のやっていることは仕事だとは思っていないわけだ。一方で、彼らが行なっていることは社会秩序のためでも正義のためでもなく、純然たる一企業の利益を導くための営利活動なんですよね。もっとも、羽島グループはブラック企業ではなく、ちゃんと福利厚生や社内規則がしっかりした会社のようなので、変に給与を誤魔化されたり人権侵害を受けたり、ということはなさそうなんだけれど、バイトだろうとなんだろうと事前にちゃんと契約内容は確かめておいた方がいいですよ。まあそもそも未成年を働かせる就労時間を鑑みたら、夜中に学生を連れ回している時点でアウト……いや、ホントにどうでもいい所なんですけどね。
国家機関ではなく、各企業がオカルト部署を設けて、会社の利益のために超能力者を抱え込み利用している、という設定は他との区別化ではあるんだろうけれど、その民間企業の描写が甘々なところがあるのは否めない。世間でもう何年も様々な事業や施設が国の運営から民間運営に移譲される事が奨励されているのは、端的に言うなら利益を考えなくてもなんとかなるからという国のルーズな運営よりも、民間企業の方が純然と利益を追求することに最適化しているしているからです。
何が言いたいかというと、仮にも大企業なんてところが、子供同士の喧嘩に何十億、何百億、あるいは何千億円に及ぶであろう大規模事業の利益配分の選り分けを任せちゃうなんてあり得ないだろう、とw
あくまで企業内の一部門としてゴーストを捉えるなら、非常に有用かつ有効に機能しているように見えるんですけれど、どうも使い方がおかしいというか、本来職分ではないところまでやらせているというか、他の部署が仕事してないだろそれ、と言いたくなるというか。
まあ突っ込みどころが多い、というよりも設定周りが子供っぽい価値観で出来上がっている、というべきでしょうか。MF文庫の全体的な傾向からして、そっち方面にツッコんでも仕方ないんですけどね。
MF文庫として注視すべきは、キャラクターがどれだけ立っているか。人間関係がどれだけ盛り上がるか。ラブコメがどれだけ弾けるか、なのでしょう。その点に鑑みれば……本作は秀逸の一言。いや、このヒロイン・コトハは素晴らしいです。その背景にホンノリと暗い影を持ちながらも、それに負けない明るさで元気爆発頑張る子。それでいて押しの強いだけの鬱陶しい子では全然なく、非常に愛嬌があって可愛らしい、と来た。主人公の無表情くんこと「死体の顔(デスマスク)」と情緒の出にくいキャラクターと、感情豊かなコトハのキャラがうまく反応して、二人が一緒にいるシーンはすごくいい雰囲気になってるんですよね。いい意味で二人の世界を作っている。
優一が盗み見てしまったコトハのメモ帳の記載、優一について書いてあるメモがまた、胸がきゅんきゅんしてしまうほど可愛らしいもので、ありゃあノックアウトされてしまいましたよ。コトハの寝顔を見ながら、というシチュエーションもまた素晴らしい。横目でコトハの可愛い寝顔を見ながら、そんなメモを見ちゃった日には、完落ちです、完落ち。女の子やべえ、ってなもんです、うんうん。
タイトルである【お願いだから、あと五分!】も、台詞として実に良い使い方をしてますし、キャラ周りの情景描写、心理描写を浮かび上がらせる魅せ方はホント絶妙に上手いんじゃないでしょうか。
その分、余計に設定周りの甘さ拙さが目立ってしまうのがもったいないような、もうそっちはどうしようもないような。もうむしろ変に凝った設定を取り付けずに、純然たるラブコメとか恋愛モノを書いた方がいいんじゃないかしら、と思ってしまうくらい。とにかく、もうひとりのお姫様を含めたキャラクターものとして、かなりの良作でした。いや、コトハすごい好き、ほんと可愛いです、ええ。