憂鬱なヴィランズ 2 (ガガガ文庫)

【憂鬱なヴィランズ 2】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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次々と現れる敵の読み手たち。激戦始まる。

所有した人間に悪役(ヴィランズ)の能力を貸し与える絵本“ワーストエンド・シリーズ”。
親友の失踪事件をきっかけに『赤ずきん』の読み手となった兼亮は、蒼い目の少女・月夜たちと共に町に散らばった絵本の回収にあたることに――。ある日のテスト中、クラスメイトの緘獅子きいろが卵を産む姿を目撃した兼亮は、彼女をワーストエンドの読み手と判断し追い詰める。しかしそれは仕組まれた罠だった。次々と現れる悪役の力を持った読み手たちの猛攻に、最大の戦力である一郎は負傷、月夜を敵にさらわれてしまう。最悪の事態に為す術のない兼亮と千鳥は、もう一人の仲間『かちかち山』の読み手と接触を試みるが……。
……か、かっけーーー!! 千鳥さん、かっけーー! やばい、ボロボロになりながら立ち上がり吼える姿に胸打たれた。感動してしまった。すげえ女だ、すげえ人だ。
ワーストエンド・シリーズという絵本は、その童話の悪役の在り様に惹かれてしまった人に悪役の能力を与える魔本。白雪姫の絵本の読み手である千鳥は、当然その白雪姫の悪役である王妃のあり方に惹かれてしまった少女である。幼い頃に刻まれた母親から受けた歪んだ愛情によって、大きな心の傷を負った彼女はある意味白雪姫その人でした。白雪姫たる弱い自分を憎み、孤高の強さを持つ王妃に憧れ、でも同時にその寂しさに苦しみ、かつて愛しい我が子の誕生をのぞみ喜んだ王妃のように、自分の家族を求めた彼女が得たのは小さなスノーホワイト。
彼女が多くの葛藤と悶えるような苦悩の末にトラウマを振り払い、嫉妬や憎悪を飲み下して本当の愛情を、孤独ではない強さを手に入れた時、そこに現れた光景は自らの身を挺して我が子白雪を守る王妃の姿。
千鳥が憧れた悪役の王妃ではなく、悪役となってしまった王妃こそが憧れるであろう母親の姿。
これ、童話の悪役の能力を得ると同時に、自分の中から悪役と同じ業を、悪意を、怪物を掘り起こしてしまうという宿命を負ったこの物語において、千鳥のたどり掴みとった勝利は、一つの理想なんですよね。物語の悪役が、その役を、自らの罪を乗り越えて、悪役でなくなる瞬間を、ズタボロになり自分の命を賭してまでスノーホワイトを、自分にとっての白雪姫を助けようとした王妃の、千鳥の在り様が見事に証明したのですから。
すごかった。圧巻だった。何より、目尻が熱くなるような感動でした。
たまんない、やっぱりこの作者すごいわー。ほんと、ダイレクトに感情に訴えてくる豪速球を放り投げてくる。それなのに、球筋が恐ろしく繊細なんですよ。力任せじゃなく、人間の内面を織物でも編むような丁寧な手際で見せてくれる。剛柔が凄まじく合一した手練手管なんですよね。
なるほど、思春期の若者たちの脆くも強靭な、冷めていながら泣きたくなるほど熱くて仕方のない心の在り様を描き出すにこれほど相応しい筆もないでしょう。
前回は状況も状況だけにかなりシリアス度が高くふざけたシーンは少なかったのだけれど、今回はまだ事件が発覚する前の落ち着いた日常状態からはじまったせいか、意外とコミカルで惚けたシーンも多かったのですが、これがまた妙にノリがよくて面白かった。いかん、手筋が本当に多い。どっからでも攻撃が飛んでくるオールレンジだな。
バトルの方も、実のところここで出てくる悪役の能力というのは殆どが攻撃向きではないんですよね。結果として、或いは発想の転換として相手に害を与えられる、というだけで実際は攻撃力なんて無いに等しいものばかり。なので、必然的に衝突の勝敗はどれだけ自分の能力、カードを伏せられるか。そして相手の予期していない手を打てるか。自分の能力に対してどれだけ自由な発想を生み出せるか、になってくるのです。そのおかげで、敵味方ともに能力の概要が明らかになっても、いったいどんな手で来るのかがまるで読めずに、びっくり箱の応酬みたいになっていて、見応えたっぷりだった。それぞれの能力が基本原則さえ守っていれば、かなり自由度が高いというのもあるんだろうけれど。青髭の能力なんか、普通に使ってたら大して何の役にも立たないものですしね。
しかし、数々の悪役の能力の中でも他の追随を許さない奇妙さを誇っているのが、やはり金の卵を生むガチョウでしょう……あれ、どこから生んでるんだ!? ってか、パンツ履いてないんですか!?
冒頭のカラー口絵の漫画から、正直あっけにとられてしまいましたがなw
あと、真性のロリコンにロリを献上するなんて、本気で危ないんですけど。それでいいのか千鳥さん!!
いやあ、二巻目に入ってどうなるかと想いましたけれど、想像以上に面白く手応えを感じさせてくれる内容でした。面白かった。ホントに面白かった。主人公含めて敵も味方も食わせ者、くせ者、変人、危険人物ばかり。そりゃ、悪役に惹かれてしまうような人ばかりなのだから当然なのですが、それでもその歪みや危なっかしさが魅力的で恐ろしくて、ココロ惹き寄せられてしまいます。
オススメ。

1巻感想