つきたま ※ぷにぷにしています (ガガガ文庫)

【つきたま ※ぷにぷにしています】 森田季節/osa ガガガ文庫

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ご安心ください。ぷにぷにしているだけです

――<特徴>半透明でぷにぷにしています。

<ご安心ください>「つきたま」が、ごくたまに見えてしまう方もいらっしゃいますが、基本ぷにぷにしているだけで、人間に危害を加えることはありません。
ただし、気になる、どうしても邪魔に感じてしまう、という方は県の窓口までご相談を。専門の技術者による駆除も可能です。――

お気楽公務員を目指して県の「つきたま」処理窓口に務めた俺……だったが、やっぱり公務員になんかなるべきじゃなかったのかもしれない。

――※ただし、以下に当てはまる方は、その限りではありませんのでご注意を…。「●ご自分を魔法少女、または吸血鬼と認識していらっしゃる方」――

『エトランゼのすべて』『落涙戦争』『お前のご奉仕はその程度か?』などで一般文芸作品、ライトノベルと幅広く活躍する森田季節、異色の新シリーズ。
毎度ながら、タイトルや表紙絵からはまるで中身が想像できない。今回、あらすじも何も読まずにページを開いたので、いきなり公務員小説がはじまったときには一体何事か、と。しかも地方公務員。しかも、基本窓口業務。
……なんか、妙に仕事の描写がリアルなんですが。リアルというか、生々しいというか、実感がこもっているというか。追求したらなんかまずそうなニュアンスが漂っているのであんまり突っ込ま無いほうがいいんでしょうけれどw
つきたま、と呼ばれる一部の人にしか見えない謎の存在が巷に溢れるようになってから数年。ぷにぷにするだけで、特に害もなく逆に言うと資源にもなんにもならず、その辺に転がっているだけの存在、ぷにたま……じゃなかったつきたま。何の害も無いとはいえ、町のそこらじゅうでぷにぷにしていたり、必要以上に一箇所に集まったりすると周辺住民も不安も抱いて、あれなんとかしてよ、と役場に駆け込むケースが増えてきたために、苦情・相談処理係として都道府県単位で設置されることになった「つきたま」処理係。そこに配属された仕事を真面目にやる程度のヤル気は持っている定時で帰るのが大好きなごく一般的な公務員のお兄さんが主人公です。ちなみに私も定時に帰るのは大好きです。サービス残業なんて嫌ですよーだ。
まー、公務員と言っても上級中級はともかく、下っ端の端末の一般職員は給料だって安いんですよねー……手当がいろいろつくぶん羨ましいけどさ。でも、ほんとに安いところは安いし、公務員給与削減とか声高に叫ばれてるけど、もっともなんだけれど、あれはある程度下限ライン引いてもいいよなと思うんだ。
まあ規定上の仕事しか絶対しない、などというお役所仕事に凝り固まっているわけでもなく、あんまり余計な仕事はしたくないし、偉くなって面倒抱えるのも嫌だけれど、多少手間を負っても、時間外に足を使う事になってもまあしゃあないか、と頑張る主人公は、まあまあ善良な公務員。割合としてこのあたりの感じの人が一番多いんだろうなあ、という意味においては普通の公務員、というべきか。
そんな彼の元には普通の相談者の他に、稀におかしな相談者も駆け込んでくる。たとえば魔法少女とか吸血鬼とか。もちろん自称である。つきたまが存在するだから魔法少女も吸血鬼も存在するんだよ! というわけではもちろん無い。そんな存在は存在しない。しないのだけれど、そこまでアレな存在は存在しないんだけれど、つきたまのようなちょっと不思議で謎な存在が存在している以上、魔法少女や吸血鬼ほど突拍子もないものではないけれど、ちょっと不思議で謎で説明できないこと、というのはあったりなかったりする。どっちなんだと問われても、まあまあそういうのはいちいち白黒つけても仕方なくて、曖昧にごっくんと飲み込んでしまうくらいがちょうどいい。否定もせず、しかし全面的に受け入れもせず。あるがままに、そういうものだと受け止めるのは……受け止めてあげるのは、自分を見失っている人にはきっと嬉しいことなのだ。それは、大事な優しさなのだろう。
決してあれこれ決め込んで行動したり決断したりするヤル気がないわけじゃないのだ。
中庸は大事だよ?

いや、しかしこれ、面白い話だなあ。振り返ってみても、いったい何の話だかよくわからないんだけれど、特にでっかいイベントも事件も起こらないし、出来の悪い後輩にため息を付いたり、信者のバンドのボーカルが相談者としてやってきてなんかウハウハしたり、デキる美人女上司に構われて嬉しいような面倒なような気持ちになったり、そして魔法少女を自称して突っ走って息切れしてヒーヒー言ってる女子高生に折々に遭遇してしまいなんだか懐かれてしまったり。振り返ってみても、特に派手なこともなく、ただルーチンワークな日々からはちょいとアクセントが付いた平和で代わり映えのしない穏やかな日常。公務員ワークス。なんだかそんな益体もないお話、なのだけれどこれが妙に面白い。うん、面白い。
個人的には、中二病な妄想を全開に拗らせたまま突っ走って人生変えちゃったくせに、妙に現実主義的で世慣れした渡りのうまさで音楽業界の寵児として成功してしまったマノさんのキャラクターが大好きです。なんで自分を吸血鬼と呼んで憚らない中二病な行動原理なのに、あんなに世渡り上手いんだよ(笑
マノさんのトップシンガーへと至るサクセスストーリーは、様々な身も蓋もない話も相まって笑った笑った。
逆に、あの臨時職員の酷さは読んでるだけで魘されそうだった。真面目な無能もホントに困るけど、ヤル気皆無のバカもたまらん、ほんとにたまらん。よくまあ、あんなぬるい対応で済ますもんだ。あれは自分だと多分キレる。
結果として、視野狭窄気味で強引だけれど素直でイイ子な女子高生に懐かれて、暇さえあれば構ってくれと窓口まで遊びに来るような関係になり、何とも羨ましいようなのほほんとしたエンディングだ、とほやほやしていたら、デキる上司に見込まれてしまい、君君ちょっと自分の極秘の仕事も手伝いなさいよ、とばかりに引っ張りこまれた主人公。仕事も責任も給与も程々で十分な公務員としては、悪夢な状況。しかし、上司には逆らえない。しかし、辞めても再就職の先はない。まさに八方塞がり。どうする、公務員!? ってなところで次回……次回って、これ続くの!?

森田季節作品感想