ブレイブレイド2 - 鉄鎖の泉 (C・NOVELSファンタジア)

【ブレイブレイド 2.鉄鎖の泉】 あやめゆう/しばの番茶 C・NOVELSファンタジア

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破壊的な力を持つ魔剣を腕に宿してしまったために、サーデイン聖央学院を追われ帝国へ身柄を移されたジンとマキナ。二人は魔剣と虚神の謎を探るため、女騎士・イルマ、科術士・テオボルトとともに結界で封じられた村へと派遣される。百年戦争の痕跡も英雄の記憶も色濃く残されたその村には、それゆえに人間を嫌う排他的な「神民」が暮らしていた。戦争の当事者でもないジンにまで当時の生々しい記憶のままに悪意をぶつけてくる族長にジンは苛立つ。そしてその夜、閉ざされているはずの村が何者かに襲撃されて!?シリーズ第二弾。
あああっ! なんと、そういう事だったんだ!! いやいやいや、これは迂闊でした。全然、そっち方面に頭が回っていなかった。何時出てくるか、何時出てくるのかとヤキモキし続け、遂には位相がズレていて、鉄鎖の泉が2つあるんじゃ、なんて想像まで巡らす始末。なんか、間違い探しを連想させる描写やジンが街の様子に変な違和感を感じている描写を、そんな風に取り違えて捉えちゃってたんですよね。お陰で、種明かしをされるまで全く気づかず、真相が明らかになってようやく「……ああっ!!」と理解する始末。
全部明らかになってみると、決してややこしかったり難しい作為が挟んでいるわけじゃなかったんですよね。えらく簡単な話だったんだ。ちょっと頭を巡らせばわかるようなこと。いやあ、でも全然気づかなかったなあ。自分が迂闊だった、というのも勿論なんですが、同時にそれだけ描写や構成が巧妙だったのは間違いありません。これはやられましたなあ。
というわけで、第一巻で何よりその主人公・ジンのとんでもない危険人物っぷりに度肝を抜かれた【ブレイブレイド】の第二巻。自分の父である英雄に立てつき国に居られなくなったジンは、マキナとともに帝国の間者の手引きで帝国へと渡し、そこで数ヶ月の逼塞を強いられたあと、鉄鎖の泉と呼ばれる遺跡へと派遣されることになる。
裏に様々な思惑や謀略がうごめいていたわけだけれど……戯けとしか言いようがない。馬鹿が、と頭を抱える他ない。

こいつら、ジンを怒らせやがった。

この主人公がどれだけ危ない人間なのか、どれほどヤバい男なのかについては第一巻の感想でこれでもかと書き倒しました。書いても書いても全然足りない気がしましたけれど、とにかくそのとんでもなさたるや、今まで見てきた中でも随一。これでも随分とたくさんのライトノベルを読んできたつもりですけれど、その上で言います。言い切ります。このジンが、一番やばいw
今まで見てきた主人公の中で、一番敵に回したらいけないやつだ。
こいつを敵に回してしまったら、相手がどんな怪物でも英雄でも天才でも関係ないです。世界を救ってしまうような人知を超えた力を有していようと、世界を手のひらで転がすような神算鬼謀の智を持っていようと関係ありません。
絶対に勝てない。
ジンという一人の人間のスペックだけみたら、平凡なものです。今回新たに登場したキャラクターだけ見ても、敵味方関わらず彼が勝てるような能力の持ち主なんて殆どいませんでした。力もなく、技能も伸びず、才能なんて欠片もなく、魔力だって凡庸なもの。聡明で頭の回転が早く狡猾ではありますけれど、決して智謀湧くが如し、というタイプでもありません。若造である以上、知識も経験も年長者には多分に見劣りします。
でも、絶対彼には勝てない。彼を敵に回せば、絶対に叩き潰されます。
だって、なぜなら、彼は「やる」と決めたら絶対にやるからです。絶対にやっちゃうのです。

絶対にです。

怖ぇぇぇ! あかんて、やばいって、背筋震える、怖い怖い怖い、これはホントあきません。
それがもう嫌というほど目の当たりにして理解しきってしまっているだけに、ジンに余計なちょっかいをかけようとしている連中に、もう何やってるんだあほかーーっ、と叫びたくなる。悲鳴です、いいからやめとけっ、と必死に呼び止めたくなる感覚です。そっちは地雷原だーー! とか、あんたが拾ったその箱にはもう爆発しそうな時限爆弾が入ってるんだ、すぐに放り投げろーーっ!! と言いたくなるような感覚です。
いい気味だとか哀れみを感じるとか、そういう気分じゃないんですよね。もう、こっちまでガタガタ震えて見ていられない、という感覚。
これが雑魚っぽい格下だったり、見るからにヤラレ役の足りない奴らだったら、ここまでこっちもガタガタ震えることはないんでしょう。でも、彼に手を出してしまう輩というのは、普通に見たらとてもじゃないけど若輩の若者たちが太刀打ちできるとは思えない、歴戦にして辣腕たる大物ばかり。威厳も威風もたっぷりで、どんな小賢しい手を打たれようが、想像の埒外の攻撃を受けようが、眉一つ動かさずにいなされ返されいつの間にかひっくり返され、ぐうの音も出ないほど息の根を止められそうな、そんな本物の大物ばかりなんですよね。「英雄」にしても、今回の「真の黒幕」にしても。まともにやって、とても敵いそうもない、崩せそうもない、そんな途方も無い相手なのです。

にも関わらず、やっぱり思うわけです。
その少年だけは、敵に回しちゃダメなんだよっ!! と。

元来、非常に我慢強く賢明で冷静沈着な性格だけに、前半はジンも大人しくしていて、こちらも落ち着いて見ていられたのですが、中盤以降事件が起こり渦中に放り込まれて以降、ジンが段々とイライラっとしてきて、その上で淡々と自分の中のリミットラインを見極めだした日には、もうあとは「ひぇぇぇぇぇぇ!!」とビビりっぱなしです。
怒ってる、怒ってる、怒ってるぅぅww

彼のロジックというのは余計なものを取り除いていくと極々シンプルなんですよね。そして、それは決して他者を排斥するものではありません。恐ろしく自立し切って、独立しきって、極まり過ぎているので、愛だの憎しみだの欲だの過去だの世間体だの権力だのしがらみだの、余計なものを背負ってしまっている人には中々追随も理解も出来ずしてもらえないものなのかもしれませんけれど、何もかも放り出して自分というものをシンプルに立脚してしまうと、彼の行動原理というのはスッと浸透するものなのかもしれません。そうでなくても、そんなあまりにも単純で厳しい生き様を真似できなくても、憧れてしまうものなのかもしれません。
ともあれ、彼が彼らしくあり、それを貫いて周囲の有象無象を振り払った時、多かれ少なかれ周りの人間達もその影響を受けざるを得ないのでしょう。いい意味でも悪い意味でも。それは、ジンの妹のローズたちもそうですし、今回のイルマたちもそう。何より、一番側にいるマキナもまた、変化を続けています。
でも、なんやかんやと普通の物語と違って、キャラクターに甘くないというか、最初から最後まで突き放してるのが特徴と言えば特徴なんだよなあ、このシリーズ。イルマの在り様なんか、非常に面白いですよ。そして、神民と人間の関係についても、非常に面白い。
何が大人で、何が子供か。あとがきの冒頭に書いてらっしゃる「大人と子供の違いというのは『子供の前で大人として振る舞えるか否か』というだけの話」という一文が、結構作品全体の根底を担っているような気もする。その大人として振る舞うべき相手の子供が、年齢的な子供だけを意味していない、というあたりが難しい話ですけれど。大人になれない子供に対して此方は大人として振る舞うのって、だいぶん難しいですよ?
まあ相手が恥ずかしく思ってくれるだけのモノを持っていてくれればいいのですが。

しかし、終わってみると、やっぱりジンって随分とシスコンだよなあ。だだ甘お兄ちゃんじゃないか。まあ、ローズもローズで同じくらいブラコンなわけだけれど。
愉快なことに、ローズがブラコンであればあるほど、ジンの在り様って認めがたいんですよね。大好きでたまらないからこそ、我慢出来ない。
可愛い妹です。うん、君だけは怒っていいよ。

1巻感想