斉藤アリスは有害です。 ~世界の行方を握る少女~ (電撃文庫)

【斉藤アリスは有害です。 ~世界の行方を握る少女~】 中維/GAN 電撃文庫

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“第一条──国民に極端な物質的、または精神的損害を与える人物を国は有害者と定める”
世界一「不運」な美少女と僕の、不幸でハッピーなボーイ・ミーツ・ガール!


「有害者」……それは周囲に不条理な災いをもたらす慮外の人類である。不幸なら失恋から事故まで何でもあり、挙句の果てにはテレビ局まで倒産させてしまう、まさに不運のハリケーン。
──しかし、ここにオカルトを信じない少年がいた。
山之上秀明。いかなるオカルトをも信じない彼は、もちろん「有害者」なんていう「まやかし」も信じない。それどころか、その秘密を明らかにしようと画策している。
だから彼は彼女を観察する。
斉藤アリス。美しいその外見とは裏腹に、人類唯一の「有害者」と定められた、周囲に破滅をもたらす少女。
「有害者」に隠された秘密を暴こうとアリスに近づく秀明。しかし、観察と称して彼女と触れあううちに、秀明は意外にも可愛く純粋な、本当のアリスを知ってゆき──。
瓦礫の山の中に佇む、危険を象徴するドクロマークが描かれた傘をさして佇む少女、ストライプのオーバーニーに長靴付き。
まずこの表紙のインパクトで掴みはOK。思わず表紙買いしてしまった人も少なからずいるのではないでしょうか。背景があるだけでも印象はだいぶ違うんですけどねえ。
さて、いくら掴みはOKだとしても、中身が伴わなければ何の意味もないのですが、本作はこの掴みに相応しく中身もガガッとドライブ効いてます。作者のデビュー作である【探偵失格】もこれがなかなか尖って突っ走ってる作品なのですが、あれよりまだマイルド調にはされてるか。あれは端から端まで変人しかいなかったし。
とはいえ、本作の主人公である秀明も十分変人の領域、天才と紙一重の方に足を突っ込んでしまっている研究馬鹿。自分が納得しなければ人の話に聞く耳持たないという意味では、結構迷惑な人でもあります。
しかし、このもはや超然としすぎたマイペースっぷりは、作者の前作の存在自体が萌えキャラでギャグキャラな超人・神薙を想起させられて、おおっ蛮刀さんみたいなのが主人公だ! とちょっとテンション上がってしまったのはホントですw まあ、秀明くんは途中からちゃんとまともなメンタルの持ち主に移行していってしまうのですが。そりゃ、あんな人が主人公だと話が全く進行しないから当然といえば当然なのですが、ちょびっと寂しかったり。
さて、本人の意図とは関係なく災厄を振りまいてしまうたぐいの孤立している人間に近づくには、意外とこの秀明くんのような相手の事情を深く考慮しない馬鹿の方が上手く行くケースが多いようです。無神経にズカズカと踏み込んでいくなんて、と顔をしかめてしまいそうになりますが、この手の場合は近づいてきた相手が傷ついてしまうことが障害であり、対象者が周囲に壁を作る要因になっているために、障害をもろともせずに近づいてしまうと案外容易にコロッと落ちちゃうんですよね。
このアリスも典型的なそのパターンで、初見では非常にとっつきにくく難しそうでやっかいな性格をしていると思われたのが、その誰も知らなかった素の顔は、想像以上に幼くて……なにこの可愛い小動物!!
その境遇たるや凄まじく劣悪だったにも関わらず、よくもまあここまでピュアに、無垢に、純心に育ったな、と感嘆を覚えるほどにその押し殺し眠らせていた感情の発露は、可愛らしかった。この可憐さはあれだな、庇護欲を掻き立てられるようなそれ。放っておくと死んでしまいそうな、プルプル震えている小動物を見つけてしまったような感覚。もう、何をやってても微笑ましく、何を喋っても思わず頭を撫でてしまいそうになってしまう可愛らしさ。
最近、おっさんを抉らせてきてしまったのか、こういう父性を擽るようなキャラにてきめんに弱くなった気がする。
勿論、その可愛らしさはおっさんのみに通じるものではなく、研究対象としてしかアリスを見ていなかった秀明もまた、一途に懐いてくるアリスに戸惑い困惑し……心掴まれていくのである。
そして、彼女に心を寄せるほどに直面するのは、国に有害と指定されるほどの際限のないアリスのもたらす不運。そこで彼女の能力について一心不乱に考察を深めていくあたりは、根っからの研究者であるんだけれど、その原動力は当初の好奇心から、純粋に彼女を今の酷い境遇から、彼女を囚えたまま放さない災厄から解き放ちたい、というものへと変わっていく。正しく、ボーイ・ミーツ・ガールへと届いていくのである。
そして、孤独と思われた彼女に向けたれた幾つもの愛情を発見し、少年と少女の出会いから友情の絆もまた広がっていき、彼女を取り巻く不運と悪意と干戈を交えることになるのである。

いやあ、話のテンポといい、スケールのでっかさといい、ホントに面白かった。本作が「キタコレ!!」となったのは、第一章「有害のアリス」の最終ページですね。アリスの素顔が明らかになり、秀明とアリスの距離が近づいて、重苦しかった話がパーッと明るくなって、ああこれは素敵なお話になりそうだ、とほんわかしながらフイッと目を向けた最後の一行。
あれは、比喩ではなくあんぐりと口があいてしまいましたよ。
「え゛!?」
てな感じで。もう愕然というか、何が書いてあるのか一瞬理解できなかったというか。
もう、この一文の挿入のタイミングが絶妙すぎて、背筋が痺れましたよ。あれで、うわっこれなんかすげえぞ!? となりましたからね。文章の効果的な使い方というものを見せつけられた気分でした。いやあもう、なんか笑うしかなかったしw
ラブコメとしても綺麗なほど素敵なお話でした。オススメ。

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