正義の味方の味方の味方 (電撃文庫)

【正義の味方の味方の味方】 哀川譲/さくやついたち 電撃文庫

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悪の秘密結社が正義の味方を目指す!?

『善悪戦争』により、正義が悪を葬りさった現代。そんなスケールのある世界観とは裏腹に、マンションの一室 にこっそりと棲息する秘密結社があった。ゼロウ・ファミリー──総帥一名、怪人一名、つまり弱小だった。かわいらしい少女でありながら総帥を務める凛奈。炊事、洗濯が目下の任務となっている怪人、橙也。
 そんなささやかなファミリーが今日解体する。その後、学校に通うことになるらしい......正義の味方養成機関、 白陽花学園に。なぜに、正義の味方の学校に!?
ぼやく橙也であった。こうして、正義の味方を目指す(?)総帥と怪人というおかしなスクールライフが始まるのだが!?
まさかもう一度お目にかかるとは思ってなかったなあ。電撃も勇断したものである。それだけ、切るには勿体無いと思うものがあったのか。何れにしても、こちらとしては面白いものを提供して貰えばそれでいい。
「セイギのミカタのミカタのミカタ」。最初見た時はまた胡乱なタイトルだな、と思ったものの、これが音に出して読んでみると思いの外語呂が良い。口に馴染むというか、韻が踏まれているというか。パチンと一発でタイトルが記憶に馴染むあたりは、前作もそうだったけれどタイトルの名付け方には上手いものがあるなあ、と感じさせる。
本編を読むと、このタイトルの意味もよく解せますしね。
更に言うと、正義の味方の味方であるヒロインの凜奈の生き方がまた興味深い。悪の組織の総帥として、一つの確固とした思想を、悪の組織は正義の味方の味方であるべし、という考え方を持っている彼女。彼女が一旦、組織を解体して白陽花学園に通い出したのも、悪の組織の総帥としての生き方を全うするためであるのだけれど、その一方で凜奈個人に目を向けると彼女の在り方というのは、実のところ橙也一人のためのものとして極限されてるんですよね。橙也という怪人が、凜奈という少女のためだけに彼女に味方して生きているように、凛奈もまた橙也に味方されるために特化したような生き方をしてるんですよね。橙也が自分の味方をしてくれるように、ではなくて橙也が自分の味方をしていられるように。徹頭徹尾自分のためではなく橙也のために。
どうも彼女の回想を見ていると、彼女の生き方が確固としたものとして固まったのは、橙也と出会った瞬間のようなんですよね。勿論、それまでに祖父の生き方を見て、それを踏襲しようという無意識の形成が準備段階として存在していたのは間違いないんだけれど、それが明確な形をなしたのは橙也を生かすためだったように見えるわけです。つまり、彼女の本当の基準は自分の思想ではなく、自分に味方してくれる橙也にこそあるようなのです。
ついつい、この物語は主人公である橙也の善悪を超えたところにある凛奈という少女を絶対基準とした一本芯の通った無頼な生き様に目を奪われがちですけれど、そんな彼が自分の中の絶対と位置づけている彼女もまた、主人公を絶対としている、それも彼が自分を絶対として居続けられるように突き詰め特化してあり続けている、という絆で結ばれた、と表現するのもいささか不可思議な感じのする往還関係が、一見タイトルからの印象だと一方通行に見えるのと違った輪っかになってて、なかなか興味深かったのでした。
また、善悪戦争によって実質的に「悪」が滅びた結果、完全な平和が訪れるのではなく、今度は同じ正義の中から悪を見出そうというという動きが生まれ、また結果として正義の中から悪行を為す存在が出てきて、結局は構図として正義と悪の相克という形がどうしても生まれてきてしまう、というのは随分皮肉なお話じゃないですか。
あと、凛奈が橙也の立派な「男の子」をしきりと改造で小さくしようとするのは、自分サイズに合わせたいからですね、わかります(下品