灰燼のカーディナル・レッド (電撃文庫)

【灰燼のカーディナル・レッド】 西村西/暗猫 電撃文庫

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時は戦国、争乱の世。ウォールトル大陸では、北部軍事国家アーミラルと南部魔導国家リヒターが熾烈な争いを繰り広げていた。強力無比な一振りの魔剣により帝国を築き上げた剣神皇帝―その強大な力を秘められた「皇帝の遺産」を巡るこの戦争に終止符を打つ者が現れる。魔王クラスの魔人「ベリアル」を左手に宿し、爆炎を操る最強の炎使い―その男の名は、ケイレヴ・レッド。アーミラルが誇る一騎当千のイカレた戦闘部隊「デッドマンズ」の一人である。そして、連綿と続く戦争は英雄の活躍によりついに終わりを迎えることとなる。だが、新たな争いの火種が生まれることをこの時誰も知る由もなかった…。
兄貴と呼ばせてください!
最近、精神的に成熟した大人な主人公が微妙に増えてきた気がするなあ。本作の主人公も、一兵卒からの叩き上げとして生き残ってきた歴戦のソルジャー。激戦のさなかに致命傷を負い、改造手術を受けて経歴を抹消され、半ば兵器として血煙る戦場で戦い続けた男である。そんな訳だから、青臭いところなど欠片も残っていない男臭いタフガイなのである、これが。兄貴と呼ばせてください、なんて書いたけれど、実際は兄貴よりもおっさん臭い。年齢はまだ二十代前半なのだが、やっぱりおっさん臭い。ヒロインの女の子が士官学校を出たばかりだという少女なだけに、対比として余計にオッサン臭さが目立つのである。冗談ではあるけれど、ナナからはおじさん呼ばわりされてましたしね。
しかし、おっさん臭い分実に頼もしい男なのだ。あんた、主人公と言うよりも物語の序盤に右も左も分からない小僧の主人公を導く兄貴分の役割を担うようなキャラじゃないのか、と言いたくなるほど頼もしい。頼もしすぎて、そのうち主人公をかばって死んでしまいそうな勢いである。幸いにして、彼自身が主人公なので死亡フラグは無効化されたようだ。メンタル的にも非常に大人で、戦場育ちの割に意外と粗野な部分が目立たず面倒見がいい。何気に見識も広く気も回る性格で、立場的には隊長なのだけれどむしろ先任下士官が似合いそうだ。この印象はあながち間違ってはいないと思う。現状では立場は上なものの、部下であるナナは任官したばかりとはいえ士官学校出で将来出世しそうなコースに乗ってるエリートだ。実質的には新米少尉を教え導く叩き上げの軍曹、という形で見るとしっくりくる関係である。
まあしかし、こういう実際に戦場をくぐってきた人間が仲間が何よりも大事、というのはその辺の若造の主人公がのたまう青臭さと比べて重さが違う。戦友のために命をかける、という言葉には経験と実感が篭っている。それだけに、初めて戦場を経験する若者たちにもその響きはダイレクトに伝わるし、その大きな背中に感動に近い痺れを感じ、感化されるのだろう。裏表のない真っ直ぐな性格で理想家のナナが、現実主義者でありながらナナの理想を否定も貶しもせず、むしろ大事に育てられるように様々な知識や経験を丁寧に教え伝えようとしてくれるケイレヴに素直に懐いていく様子には微笑ましさを感じてしまう。と、同時に大人の男性である上官に無防備なほど懐いていく少女という関係にいけないものを感じてしまって、ちょっとドキドキ。この背徳感はたまらないですね、うんうん。
肝心のバトルの方は軍隊ものの原則を踏まえながら、機械兵器や魔法をごちゃまぜに放り込んでシンプルに料理した、なかなか特色を出しながらスッキリとわかりやすいものになっていて、見応え歯ごたえ十分でした。
正直、敗戦で併合された側がお前もこの国の人間だ、と言われてあんなにすんなりと受け入れられるものではないとは思うのですけれど、偏見を乗り越えた先に手を携えられる未来がある、という考え方は素敵なものだと思いますよ、とても理想的で。現実としてあり得ないだけに、余計になおさら、素敵だと思いますよ、うん。