異端児たちの放課後 (電撃文庫)

【異端児たちの放課後】 形代小祈/兎塚エイジ 電撃文庫

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新宿の地底深く──そこには、異世界へと続く<地下空間>があった。

 人間社会にまぎれて生きる〈魔物〉の少年・ヒナタは、〈魔を狩るもの〉と名乗る転校生の少女・ホノカと出会い、問答無用で殺されかける。しかし間一髪、黒髪のエルフに助けられ、〈新宿地下空港〉という謎の巨大施設に連れてこられる。そこでヒナタは、パラレルワールドの存在を知り、自分が何者であるかのヒントを──。
 ヒュドラー、人造人間、魔法使い、エルフ──新宿の地底で暮らす異界難民たちを描く、異色の学園ファンタジー登場!!
実のところ、本作は冒頭のホノカが転校してきたあたりのシーンをチラ読みしてしばらく放置したいました。この時点では展開もありきたりでしたし、何より主人公のヒナタの行動原理や独白が痛々しいばかりであんまり面白くなかったんですよ、ぶっちゃけ。なので、もう一度続きを読み始めた時もとりあえず一通り目を通しておくか、程度で期待もせず本当に流し読みくらいの気持ちだったんですよ。
それが一変させられたのが、謎の黒服集団を引き連れたエルフが今まさに学園異能もののテンプレ展開の真っ最中だったヒナタとホノカを強引に拉致って新宿の地下に作られた広大なジオフロントへと舞台を移してからでした。
なんちゅうか、ここから作品の雰囲気がガラリと変わってしまったんですよ。目の前に広がる地下空間はジオフロントというのもおこがましい、度肝を抜くような異空間。多次元宇宙が交錯するハブ空港。そこを行き来するのは、様々なパラレルワールドや違う宇宙から訪れた異邦人たち。中には、自分の星や宇宙を見失い迷い子となった者たちも居て、ヒナタもまたそんな自分の故郷を見失ってしまった異界難民だったのである。
ガチのSFじゃよ!!
いや、ガチンコというのとは少々ズレているのかもしれないですけれど、このややもごった煮の感じのする混沌とした、しかし随分懐かしい匂いのする無辺の宇宙観はむしろ正統派な海外SFの雰囲気なんですよね。
後半に行くほど加速していく物語は、同時にそのヘヴィさも加速していきます。黒幕というか、敵の正体は荒唐無稽でまったくもってぶっ飛んだアレなんですが、それだけに外道具合も極端なほど先鋭化してしまっているわけです。その絡みもあってか、ヒロインであるホノカの境遇たるや並の不遇や不幸さじゃありません。正直、ここまで筆舌しがたい過酷で救いのない人生を送ってきたヒロインも珍しいんじゃないでしょうか。虚構の中に夢を求めてそれだけを救いとして縋って生きてきた彼女にとって、現実の世界の中に虚構の世界と同じような夢の様な幸せな事があることを、知らずに生きてきた、存在することすら気づかずに生きてきた、その事実を目の当たりにした時のヒナタの絶句は、読んでいるこちらの絶句でもありました。また、彼女の口から語られる、彼女が正義と信じて行った、しかし心の奥では悲鳴を上げて泣き叫びながら行った数々の罪の行状に、背筋が震えました。
その悲惨さは、本来人間的な感性を持たず人間を模倣し擬態することで生きてきた怪物にであるヒナタをして、心震わすほどに。
この物語は、心身ともに人間とはかけ離れた怪物と少女が「愛」によって結びつくお話でもあります。でも、二人のどちらかが普通の怪物だったり、普通の人間だったなら、決して結びつくことのない二人だったんですよね。彼と彼女が手を取りお互いを求めてしまったのは、二人共一人では立っていられないほどの心の傷を負い、悲鳴を上げて泣き叫んでいたから。のたうちまわって嗚咽する声を聞きつけて、二人は這いずるように擦り寄って、その傷を確かめ合い、その痛みを分かち合い、ようやく安息を得るのです。それこそ、怪物と人という断絶を、罪人と狩られるものという立場を、乗り越えてしまうほどの切実さで。価値観も概念も認識も違うはずの存在が結ばれるほどの痛みの共感が二人にはあり、救いたい救われたいという願いがあり、愛という奇跡が芽生える物語。
ラストシーンの、二人が手を繋いで新たな宇宙の誕生を見守るシーンには、思わず感極まってしまいました。
気がつけば、最後まで夢中になって読んでいた、最初のともすればパラパラとページを流してしまいそうだった気の無さなんて嘘みたいに、息を呑んで読みふけっていました。
かなり癖のある作品でもあって、万人にオススメとは言えないのですけれど、私にとっては長く忘れることの出来ないだろう、心に残る物語でした。