飛べない蝶と空の鯱 3 (ガガガ文庫)

【飛べない蝶と空の鯱 〜たゆたう島の郵便箱〜 3】 手島史詞/鵜飼沙樹 ガガガ文庫

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過去への配達依頼――裏切りと傷跡の物語

「墜ちろ――」
少女の羽を引き裂き、空から堕とした男。
なぜ、男は裏切り、そして世界を滅ぼそうとするのか――。
翼舟に跨り、空に浮かぶ島と島を行き交い、命を懸けて人の「記憶」を運ぶ武装郵便屋「渡り鳥」。郵便屋「蝶と鯱」を経営するウィルとジェシカに新たに舞い込んだ依頼は、かつての仲間であり――そして、ジェシカから空を奪った男への配達依頼だった。
空を失った少女・ジェシカと不器用で飛ぶことが下手な少年・ウィル。それでも「空の最果て」を目指す二人の、出会いの記憶。
約束と絆、裏切りと傷跡の物語。
「影執事マルク」シリーズの手島史詞の紡ぐ世界観を、鵜飼沙樹の美麗かつ繊細なイラストが彩る好評シリーズ。「霧鍵式」と呼ばれる魔法と空戦のファンタジー、好調第三弾!!
これって、ミスリードを誘っているつもりに見えるのが実はミスリードだったりしないでしょうね。もしそうだったら感心せざるを得ないんだろうけれど、さすがにそれはないだろうなあ。と、思わず裏の裏を疑ってしまうくらいに回想での視点もあの人の正体もあからさますぎて、これ隠してるんだろうか……。少なくとも、回想については完全にそのまんまだったので、あの人の正体についても今更疑う余地もないんだろうけれど、だったらもう読者向けには隠しておくのも無駄なじゃないのかな、と微苦笑混じりに思わずには居られない。まあ過去回想である封書については、読者に対してはあからさまであっても、それを覗いたレンがその封書の主が誰なのかしばらく気が付かない程度の錯誤が必要な展開だった、と考えればああいう書き方も納得は行くんですけどね。
しかし、第三者から見るジェシカとウィルの関係というのは最初っから他人が入る余地もないベッタリさんだったのか。意外と外から二人の様子を見るケースがなかっただけに、この視点はある意味新鮮だった。出会った、或いは再会した当初であれだけお互いに特別扱いし合ってるイチャイチャっぷりだとすれば、今現在はどれだけだっつー話だよなあ。ウィル視点であってすら、今のジェシカときたら完全にデレッデレなわけですし。ウィルに可愛いと言われて悶絶したり、こっそりウィルの封書をゲットして悦に浸ったり、はいはいごちそうさまってなもんである。
ちょっと勿体無かったのは、ジェシカとウィル、そしてビルギットが三人で行動していた頃のことをあんまりじっくり描けてなかったところでしょうか。ビルギットという人物が、ジェシカとウィルにとってどれだけ大きな存在だったか、どれだけ信頼していた仲間だったのか、三人で居た頃に培った絆とか友情とかそういうものがあんまり描かれていなかったので、肝心の彼の裏切りの衝撃や何やらがあんまり伝わって来なかったんですよね。彼があのような裏切りの決意を固めたのは、それだけジェシカとウィルに対して絆の深さを感じていた、あの二人を認め親しみ信頼し羨望していたからこその決断だっただけに、その苦渋にして吹っ切れたような決意の深さを描き切るに、その背景を担う三人の関係の深さが、やっぱり描ききれてなかったんじゃないかなあ、と思ったわけです。それはまわりまわって、ビルギットとジェシカとウィルが本当に初めて出会った時の真相が明らかになった時も、ウィルとジェシカの行動原理の起源に至り、因果は巡るというなかなか劇的な過去の真実だったにも関わらず、インパクトもあまりなくあーそうなんだー、という程度で流れてしまったんですよね。これは、良く練られた因果関係だっただけに、見せ方の弱さがちょっと勿体無かったなあ、と。
しかし、ビルギットはあれだよなあ。気づけよ!! しかたないのかもしれないけれど、ウィルたちを裏切ってまで探し求めているくせに、まるで気づいていないあたり、悲劇性よりもなんか額に押し上げたメガネを、メガネ何処行ったー!? と探しまわってるみたいな間抜けさを感じてしまった。これ、あの人が救われてくれないとちょっと悲惨すぎるよ?
ここに来て、ヒルダがまだ重要なキーキャラクターになってくるのか。てっきりジョーカーとして機能する切り札としてのキャラクターだと思っていたのだけれど。

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