棺姫のチャイカVI (富士見ファンタジア文庫)

【棺姫のチャイカ 6】 榊一郎/なまにくATK 富士見ファンタジア文庫

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「―トール!トールッ!!」天翔る城砦での戦いの果てに、大空へと投げ出されたトール。チャイカの叫びも虚しく、彼の生命は散った―かに見えたが、窮地を救ったのはジレット隊のヴィヴィとズィータだった。ズィータは「あなたに『お願い』があります」と告げる―。そして捕らわれたチャイカは、銀の髪と紫の瞳を持つレイラと邂逅する。彼女は「棺担ぐ姫君。貴女に『チャイカ』の真実を教えてあげる。貴女が本当に絶望できる―真実を」と言って、意味ありげに微笑むのだが…!?航天要塞“ソアラ”を巡る死闘、宿業のクライマックスへ。
表紙はチャイカ……? にしてはやたらと色っぽいなあと首を傾げていたら、案の定違うチャイカでした。チャイカシリーズは案外みんな似たようなキャラ付けなのかと思ったら、片言なのは白チャイカと赤チャイカだけなのかもしらんね。というわけで、ここで正体を表した青チャイカは相当に性質が違う厭世家のチャイカでした。彼女の場合は白や赤のように優秀な同行者に恵まれること無く、惨たらしい境遇に置かれてしまった上に「チャイカ」という存在の真実に近づいてしまったために、絶望に絶望を塗り重ねてしまった結果、死んだ魚の眼をしたチャイカに。しかし、白、赤、青とまで出たんだから、そりゃあ黒チャイカは期待しますよ。そして黄チャイカ、緑チャイカに紫チャイカ、もちろん銀チャイカに金チャイカという上位チャイカに、桃色チャイカという紅一点……あれ?
ともあれ、ようやく状況を裏で謀っている黒幕、或いはその組織がその一端を垣間見せたか、と思ったんだけれど、この航天要塞事件って結局のところ後ろで糸を引く者が別にいない単独叛乱だったの? 主犯となる二人の異常性と動機、そしてそれに協力していたレイラの話を聞いている限り、確かに単独犯なんだがそれにしては起こした事件が大きすぎていささか信じがたい側面がある。逆に言うなら、もしこれが本当に誰にも囁かれること無く彼ら独自の思惑で始めたことだというのなら、この大戦後の平和というものは相当に軋んできてしまっているのではないだろうか。思えば、皇帝ガスを打ち倒したという勇者たちの末路も今のところろくでもないものばかり。平和になったという割に、世情は明るさよりもどこか暗いものをはらんでいる。航天要塞“ソアラ”の起動に対する上層部の反応も、平和ボケしているどころか敏感を通り越して過剰な攻撃性を示していた。
泰平の世が訪れるどころか、むしろ乱を望むかのような気運がどこからともなく立ち上っているかのようではないか。
チャイカの存在は、まさに世界の方向を決めてしまう鍵そのものなのかもしれない。
しかし、なぜチャイカなのか。なぜ、彼女たちはある目的を達成するために自動的な装置でありながら、あれほど少女然とした人格と人間性を持って生まれたのか。生み出されたのか。
今のところ、彼女たちに逆らえない強制的な命令がくだされている様子は見えない。皇帝の亡骸を集めることへの拘りは、暗示を受けたようにも思えるが半ば以上自由意志のもとに行われているようにみえる。少なくとも、白チャイカについては。
つまるところ、最終決定は彼女たち自身に委ねられているのではないだろうか、と伺わせるほどにはチャイカたちは束縛されているようには見えない。白チャイカが、青チャイカに聞いた真実をトールたちにちゃんと話したのも安心材料。正直であることは疑心暗鬼を生むのを避けられるし、チャイカの拠り所が亡骸を集めることのみではなく、ちゃんとトールとアカリの存在にも寄っていることがわかったから。少なくとも、今の様子のチャイカなら、最後で優先するのはトールたちだと確信できたから。フレドリカも、何だかんだと今までよりも身近な仲間になってくれたようだし、今のところトールたちのパーティーはあんまり不安を抱えていない状態だといっていい。
むしろ、逆に危ういことになってしまったのは、あちらの方だろう。ジレット隊。
状況の変化はあちらとの協同を可能にするか、と思われたものの……いやいやいや、それはあまりにも予想外で、そんなあっさりと……嘘でしょ? これがもし本当だとすると、トールの対とも言えた存在をああもあっさりとああいう形にしてしまった決断には驚きを抑えきれない。事態が衝撃的すぎて、これが一体今後にどう影響していくのか、想像がつかないんだが。

榊一郎作品感想