B.A.D. 10 繭墨は夢と現の境にたたずむ (ファミ通文庫)

【B.A.D.  10.繭墨は夢と現の境にたたずむ】 綾里けいし/ kona
ファミ通文庫


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陰惨な痛みを味わわされれば、時に、人は鬼になる。

「胡蝶の夢」それが繭墨からのメールだった。繭墨霊能探偵事務所にはまたも退屈が満ちている。
そして繭墨の限界を見計らうように依頼人は訪れた。
『友人宅の水槽に人間の手が沈んでいた』『夜に土を掘る音がして眠れない』。
しごく退屈な依頼を繭墨はひき受け、僕も事件が少しでも真っ当な結末になるよう走り回る。
それはいつもの日常だったはずなのに――残酷で切なく、醜悪に美しいミステリアス・ファンタジー、繭墨あざかの運命に迫る最終編、開幕!
やばかった、今回はいつにもましてヤバかった。顔色を青くしながら読んでたんじゃないだろうか。兎角、読中の不安定感が半端無かった。本気で現実と夢の境目があやふやになってわからなくなってくるような、足元がぐらぐらと柔らかくなって立っていられなくなるような、体温が体の芯から抜け落ちていくような、薄ら寒さと気持ちの悪さ。参った、シャリシャリと精神がゆっくりと摩り下ろされていくような感覚だった。
まだ、あからさまに非現実的な情景や展開が広がっていたなら、まだきちんと構えることができて大丈夫だったのでしょうけれど、ぼんやりと読んでいたらそのままスルーして読み過ごしてしまいかねない自然な書き方で異常な事態がさらっと描かれているものだから、もう何がなんだか。何がおかしいのか、何がおかしくないのかの判断が段々とつかなくなってくるんですよね。認識がゲシュタルト崩壊を起こしたように変になってくる。明らかに、同じ場面が繰り返し起こっていたり、繭さんが変な行動をとっていたり、現実として起こってはいけないような事が起こっているのに、描写や文章構成がまったくそれを意識させないように普段と変わらない冷淡でそっけない描き方をしているものだから、立ち止まってあれ? と思うだけの取っ掛かりがないんですよ。ホラーや怪奇モノとして常套の、違和感や異質性を強調して突きつけて意識させて読み手の精神を揺さぶってくるのとは全く異なるやり方で、しかしだからこそコチラの感覚が麻痺してきて、どんどん精神的に不安定になってくるというやり口なんですよね。参った。
思えば今回は、最初の方から繭さんってこんなキャラだったっけ、という居心地の悪さがあって、しきりと身動ぎしてたんですよね。繭さんって悪趣味だし冷淡だけれど、あそこまであからさまに惨劇を欲して喜ぶような邪さは持ち合わせていない、と今まで見てきて感じていただけに、幾ら退屈しているとはいえちょっと嫌な感じだなあ、という感覚があったのですが……なるほど、その感じた違いこそが「あちら」と「こちら」の明瞭な差だったのかもしれません。
にしても、まさかあそこから食い違っていたとはさすがに予想していなくて、思わず部屋の魔窟を掘り返して前作9巻を読み返してしまいましたよ。場合によっては、全部が全部嘘っぱちだったかもしれない、なんて事実が突きつけられてしまいましたからね。本気で血の気が引きました。9巻で得た安堵感が、全部否定されたら立ち直れませんよ。
幸いにして、食い違いが生じていたのは、ラストもラストで取り返しの付かない場面からではなかったので、心底安堵の吐息を漏らしてしまいましたが、あそこまで読んでて青ざめたこともちょっと記憶にないなあ。それまでの段階で相当に精神的に疲弊してフラフラになってましたから、余計にきつかったです。
なるほど、これが繭墨あざか編か。最終編に相応しい、恐ろしい話でした。ある意味今まで以上に、繭さん頼みというか、その足にすがりつきたくなるような話でした。ラストで繭さんの姿を見た時には本気で安心しましたし。
サブタイトルにある通り、境目を見失うと同時に、そこに繭墨あざかの姿を二重の意味で見出すお話でした。いやはや、今回はホンマに読んでて疲れた……。

シリーズ感想