ドラゴンチーズ・グラタン (このライトノベルがすごい! 文庫)

【ドラゴンチーズ・グラタン 竜のレシピと風環の王】 英アタル/児玉 酉 このライトノベルがすごい! 文庫

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いつかこの手で命を救う料理を創り出してみせる!骨太ファンタジー、ここに始動!!

「なにか食べると気持ち悪くなっちゃうの……」病気の少女クレアを助けるため、マンドラゴラを求めて旅立つシェフ見習いの少年レミオ。彼は、食で病気を治療する医学――食療学を極める夢を抱いていた。しかし、旅先でアイソティアの美少女アトラと、聖獣殺しバレロンの争いに巻き込まれ、封印していった過去を解き放たざるを得なくなり……「風環、形成――ヴェルキア器官、起動!」。

Marvelous!! 

新人作品としては出色の出来。いや、出来という観点からすると新人らしい荒削りというか、調律ができてなくてとっちらかっていて、もうちょっと突き詰めたり整理したり練り込んだりしないといけないだろう、という傍目に見ても砥ぎが甘いところが散見している、まあ新人さんらしい熟成の行き届いていない作品ではあるんですが、そういう不出来な部分を気にしないで済むほどに、この作品には魅力が詰まっていました。
もうね、なんか冒頭から一発で魅了されてしまいましたから。読み始めてすぐに、「あ、これはヤベえ」と食いつかされるモノがありましたから。
どうしても同じようなパターン、類型からのスタートを余儀なくされる昨今、これだけ「掴み」から鷲掴みにしてくる作品は稀有と言ってもいいですよ。それだけ、最初の方は試行錯誤を重ねて何度も塗りなおしたんだろうなあ。

料理人見習いにして食療学の研究者を志す少年が主人公、ということでまず厨房からお話はスタートするのですが、日常生活に根ざしたこの世界独特の風環と呼ばれる技術がまた設定として丁寧に練積まれてて、世界観の厚みにつながってるんですよね。その上で、最初の段階で主人公の性格や目的、行動原理の由来なんかも大まかに紹介することでまず身近に主人公を感じさせることに成功してるんですね。さらに、感心させられたのが、彼が働く料理店の同僚たちのポディション。年の離れた親や師匠格という、近いけれども年齢や人間の格としてやや距離感を感じさせるキャラにせず、本当に兄や姉と呼んでおかしくない近しい関係にしてあるんですよね。精神年齢的にもそれほど離れておらず、気のおけない関係でありながら、きちんと上司であり師匠でもある。その上で恩人であり人生の指針であり、私生活では家族でありやや頼りないところのある兄ちゃんだったり、頭の上がらない姉ちゃんだったり。
実に豊潤といっていいくらい、脇を固めるキャラクターとしては要素が詰まっている。実際、レミオを抜いても彼ら三人だけでまた別の物語を作れるんじゃないか、というくらいに良いキャラクターなんですよね。これだけキャラ立ったキャラクターが周りを固めていてくれたら、そりゃあお話自体がどっしりと落ち着いて歯ごたえのあるものになりますよ。そして、物語のテーマが料理を通じて病気を治療していくという食療学。患者の病状を診療し、病の原因を推理し、そこから食材を吟味し、治療に通じる料理や調理法を吟味し導き出していく。そして実際に調理してみて、美味しそうな料理が描写される。これをしっかり出来れば、そりゃあ面白くなりますよ。
実際、兄貴分たちとの日常シーンや、病気の少女との出会いから食療学の研究者として病気や治療法に関する考察を深めていくシーンや調理、実食のシーンに終始している前半は文句なしに面白いんですよ。
ただ、食材集めのために旅立ち、バトル展開へと転がっていく後半からちょっとアレアレ?となってくる。まあ単刀直入に言ってしまうと、あんまり戦闘シーンは上手くないんじゃないかな。描写がとっちらかってて、状況がわからないというわけじゃないんだけれど、無茶苦茶読みにくかったし把握に非常に苦労した。それに、レミオの秘密や過去からの因縁についても、アトラが抱えている絶望と絡めて見せるにしても、バレロンのそれと絡めてみせるにしても、どうも上手く連動していない。というのも、レミオが同じような絶望を抱えながら今は異なり、未来に対して明確な指針を持っている先駆者として、アトラやバレロンに影響を与えるための要素とは、レミオがかつて一杯のスープで人生を一変させたように、彼が今志している食療学であるのが必定のはずなんですよね。断じて、バトル展開の途上で行われるべきものじゃないんですよ。そのせいか、後半はえらくチグハグな印象を受けてしまったんですよね。食療学を志す少年の物語であるはずなのに、比重として料理や医療以外の要素が大きすぎる気がしました。もっと、バトルシーンなんかはエッセンス程度でいいんじゃないかと。
個人的に好き勝手言わせてもらえば、バトル展開無しですらイイんじゃないかと思うくらいですから。それだけ、料理と治療考察、日常パートでの登場人物たちの人間関係の温かい描写が素敵で面白かったんです。まあそれだけだと、どうしても作品として地味になってしまうので仕方ないのかもしれませんが、もっとバランスやポイントを見極めれば、それだけで際限なく面白さも増々そうな、大きな可能性を感じさせてくれる良作でした。
何よりまず、料理が読んでてお腹空くほど美味しそう、というのはそれだけで料理モノとしては大きな武器なので、どんどん生かして欲しいなあ。