はたらく魔王さま!  7 (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 7】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

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魔王と勇者の庶民派ファンタジー、
第7弾は庶民派成分4倍増しの特別編!


『訪問販売』──漆原が悪徳訪問販売業者に騙された! 代金を取り返すため事務所に乗り込んだ真奥の運命は!? 『捨て猫』──帰宅した真奥が懐に抱えていたのは、銀色の捨て猫だった。飼い主を捜す真奥達だが、銀色の猫に異変が起こり……。『お布団』──アラス・ラムス用の布団を買いに行くことになった真奥達。仲良し家族といった雰囲気に恵美は頭を抱えることに。『はたらく女子高生』──マグロナルドでバイトを始めた千穂は、新人時代の真奥と出会う。まだ普通の女子高生だった頃の千穂のお話。「電撃文庫MAGAZINE」掲載の短編3本に、書き下ろし中編1本を加えた特別編!
ヤバイヤバイ。そもそもからして、日常シーンの生活感の半端無さが際立っている作品だった本作が、それこそ日常編を主題にしてしまったらその掘り下げ方たるやとんでもない深みにはまってしまうこと請け合い。いかな短編とはいえ、ひとつの事柄をとことん突き詰めて描いていくことになるので、本編での普段のリアルすぎる生活感がこれまで以上に凄まじいことになってます。それこそ、凄みを感じるレベルで。いや、それ以上に感心させられたのがそういった日常の中の出来事に向き合う登場人物たちの内面の動きの方なんですよ。もう既に、魔王軍の三人にしても、恵美や鈴乃たちも異世界人故に現代社会に戸惑う、ということもなく、現代日本に馴染んでいるのですけれど、だからこそ彼らが感じ、思い悩んでいる事もまた私達日本人と変わらない等身大の考えだったりするんですよね。そういうのを、非常に丁寧に、そして練り込み掘り下げて言語化して描き出しているのです。この内面描写がほんとに凄い。特に戦慄させられたのが、書き下ろしである千穂がアルバイトを始めようと思いたち、実際にマグロナルドで働き始めた時のお話。ここには、社会に出て働き始めるという事に対しての平易にして根源的、そしてとても誠実な一つの回答が示されてるんですよね。高校生くらいの年齢の子が抱く、将来の進路、というものに対する漠然とした不安や、こう言っちゃ何だけれど恐らく周囲や社会が好き勝手述べている「将来の進路というこのは、こう考えるべきなんだ」という指針に対する不信。そう、どれもこれもが白々しく、当事者の身からすると御為ごかしや他人ごと、自分たちの事など理解してなくて所詮今の自分の立場からものを言っているようにしか聞こえない、様々な進路に対する提言に対して、子供たちは信頼も信用もしていなくて、恐ろしく冷めた目で、白けきった気持ちでこういう言葉を聞き流している、と思うんですよ。
これらの提言や言葉も、決して親身になってなかったり他人事で放言しているわけじゃないのも確かなんですけれど、やっぱり子供たちからするととても遠くて、自分たちの感じている切実さに対して、全く理解が及んでいない、不安な気持ちを汲んでくれていない、飾っただけの届いてこない言葉に聞こえてしまうんですよね。
『はたらく女子高生』というお話は、そんな子供たちの不安や迷い、切実でありながらあやふやな心もとない気持ちを優しく丁寧に描ききった上で、こんな考え方もあるんだよ、という風な千穂やその友人たちの目を通して啓かれた社会との繋がり方、将来への展望の持ち方、急かさず甘やかさずそっと支えるような示唆を、物語という形を通して表現しているのです。その誠実さ、実直さ、理解の深さと平易にして伝わりやすい言語化の仕方には感心するばかり。この年頃の子供達にとっては、金言の宝庫というようなお話だったんじゃないでしょうか。何より、今社会人として実際に働き生計を立てている身としても、こうしたお話を目の当たりにすると思わず襟を正すような気持ちを得てしまうのです。心洗われるというかなんというか、凄く頑張ろう、という気にさせてくれるお話でした。正直、この書き下ろしだけでも傑作と呼ぶに相応しいかと。
いやまったく、ちーちゃんは凄いなー。この娘については、シリーズが巻を重ねれば重ねるほど尊敬の念が募っていくばかりです。

さて、他の短編もまたこれ傑作揃いなんですが、中でも素晴らしいのがやはり、魔王と勇者が二人の娘であるアラス・ラムスのお布団を買いに、一緒に買物に出かけるお話でしょう。
はい、もう完全に子供連れの夫婦ですw
いや、ね。もう夫婦同然の新婚ラブラブカップル、みたいな関係は珍しくはないんですよ。他のラノベでも見かけるっちゃあ見かける。中には、事情があって小さな子供みたいのを連れて本当に擬似家族的な関係になっているのも存在します。
でも、ここまで本気で夫婦っぽいのは見たこと無いし、きっと今後も見ることないんだろうなあ、うん。逆に、変にラブラブじゃないのがリアルなんですよ。しかも、その関係たるや既に別居して、親権について係争中の元夫婦、といった感じなのが異様に生々しい。娘のために仕方なく会っている、でも何だかんだと娘のことについては呼吸が合っていてパートナーらしい、というのが凄まじく生々しい元夫婦像なんですよね。
とまあ、この真奥と恵美の二人については普段こんな感じなんですが、この買物に出かけるお話ではそこからもう一歩踏み込んで、離婚協議中とか別居中ではなく、普通に娘のためにお布団を買いに来た若夫婦、みたいになってしまってるんです。二人きりの新婚生活の熱々さもやや時間が経って静まってきて、さらに子供が生まれて忙しくなってそれどころではなくなって、やや赤ん坊が大きくなってだいぶ手がかからなくなり落ち着いてきた頃の、子供が中心となって生活が回るようになった若夫婦、といった感じがにじみ出てるんですよね、この短編での二人って。アラス・ラムスの為に、買い物帰りにちょっと寄り道してピクニックまがいの事をしてみたり、と。真奥と恵美が全くイチャイチャしていないくせに、わりと息のあった様子でまだ赤ん坊で手のかかるアラス・ラムスの世話をしているあたりがもうリアルでリアルで(笑
凄いですよね、ここまで夫婦然としているのに、まったくフラグ立ってないんですからw
や、本編の方では微妙に恵美の方に心境の変化が訪れているようなので、ここから何かしらの進展か何かがあるかはわからないんですけれど、正直ここまで関係が到達してしまっているというか恋愛だのから完全に行き過ぎてしまっていると、今更どうなったらどうなるんだ!? と思わずには居られないよなあ、これ。ラブコメとか本気で想像つかない!!

シリーズ感想