ラストセイバーII 恋殺の剣誓 (電撃文庫)

【ラストセイバー 2.恋殺の剣誓】 兎月山羊/荻pote 電撃文庫

Amazon

名薙の前に立ちはだかる敵は……。
新次元異能バトルが急展開を見せる!!

 西暦2140年。そこは、史上最悪の敵「天使」の容赦ない猛威によって、人類が絶滅寸前になっている世界だった。
 2015年からタイムスリップした少年・名薙綾月は、過去へ戻るための方法を探りながらも、しばらくは過酷な世界で暮らしていくことを決意する。そして騎士候補生となった彼がまず命じられたのが、調査活動。目的地は「黒の森」と呼ばれる、謎の多い怪しげなエリア。アニカや真無とともに現地へと向かう名薙だったが、目の前に意外な人物が現れ、壮大な事件に巻き込まれることになる──。
 新次元異能バトル、驚きの急展開を見せる第2巻が登場!!
その男の偉大さを知るからこそ、その名と、名に伴う英雄としての責任と期待に怖気づく。
一巻でも感じていたことだけれど、この名薙綾月という主人公の有り様は凄くいい意味で等身大なんですよね。英雄願望のある危なっかしい見栄っ張りでもなければ、見苦しいまでの臆病なヘタレでもない。最近流行りの普通であることに異常な拘りや必要以上の執着を見せる奇態な普通人でもない。いちいち自分が普通であると強調するまでもなく、普通であることを自覚しているからこそ自分が普通の少年であることを当たり前の事として意識もしていない、ほんとうの意味で普通だった少年、それがこの名薙綾月でした。そう、普通の高校生でいられたのはもう過去のこと。この荒廃した未来に流れ着いた時点で、また剣聖の機体を受け継ぎ、人類の希望という重責を引き継いだ時点で、もう今までの自分では居られない。その事実を誰よりも重く受け止め、自覚していたからこそ、名薙はその担うべき責任と期待のあまりの重たさに怖気づいてしまうんですね。
この心境は、至極当然のことだと思う。誰よりも名薙こそが、剣聖の人となりとその英雄としての在り方に感服し、敬意を抱いていたのですから。その男の大きさに、心打たれていたのですから。それを、自分が彼の代わりにやらなきゃいけない、となった時に果たして冷静に受け入れることが出来るのか。名薙は肥大化した自己顕示欲の持ち主ではありません。逆に、自分を過小評価して縮こまるタイプでもないのです。けれど、冷静かつ客観的に自分を顧みれば、自分が剣聖に比べてどれだけ未熟か自然と理解出来てしまう。そこに、恐ろしさを感じてしまうのもまた自然な事でしょう。
個人的に感心させられたのは、彼がこの時に感じている担うべき覚悟、機体を裏切る事への恐れと、それに向き合う勇気とのバランスの描写が実に絶妙なところなんですね。名薙は確かに怯えて英雄として立つ事に背を向けるのですけれど、決して現実逃避して現状から、この天使と戦わなくては滅びてしまう世界から逃げ出しているわけじゃないのです。生活が掛かっているとはいえ、騎士候補生のテストを受けて一兵卒として剣を取る事は厭うていない。結局、戦わなければならないという状況から逃げられないことはしっかりと承知していますし、自分が剣聖からすべてを託されたということも自覚している。いつかは、折り合いをつけなければならないことは心の何処かで承知していたわけです。最後のよすがが、平和な過去へと戻る事でしたけれど、その自分たちの時代もまた、やがて天使による戦禍によって滅びることが決まってしまっている。たとえ戻ることが出来ても、そこにはもう滅びしか待っていない。
つまるところ、この二巻は英雄となることを託された少年が、英雄として生きる覚悟を受け入れる話なのです。それは輝かしい話でも、栄誉ある話でも、幸福な話でもありません。今までの平穏で幸せだった過去という時代に別れを告げる別離の話。血塗られた修羅の道を行くことを決めた哀しいお話。二度と戻れぬ道へと踏み入る痛みと苦しみにまみれたお話。
それは、名薙や真無と同じく過去から未来に送り込まれた同級生たちの末路。外道に落ち、悪として歩むしか救われる道が残されていなかった少年と、過去の象徴として刻まれることになった幼馴染の少女との再会と別離によって、決定づけられることになるのです。
名薙のこれからの生き方を決定づけるシーンとして、この二人との決着の付け方は心震えるものがありました。
幼年期の終わり。一皮剥けた、という言葉で片付けるにはあまりにも辛く哀しい名薙の覚悟は、主人公の成長というテーマで見るならば、これ以上ない最良のものなのではないでしょうか。
正直、導き役でもあった剣聖が一巻で早々に退場してしまったことは先々の展開的にも不安満載だったのですけれど、ほぼ独力で立ってみせた名薙を見損なっていたのかもしれません。一巻でも結構褒めてたと思うのですけれど、想像以上にこの子は心の強いひたむきな子でした。イイ主人公です。この二巻を経て、もっとイイ主人公になったと思います。これまでピクリともフラグを立てる様子のなかった冷めた真無が、思わず心奪われてしまったのも無理ないかと。あそこで、グラっとくるのは卑怯だよなあw
クリスに相対した時の無双っぷりといい、実はこの娘がラスボスじゃないのか、と思いたくなる強キャラなので、ちゃんとヒロインらしく名薙に心傾けてくれるシーンがあって、ちょっと安心しました。
一方で、アニカについてはほぼ全編に渡って、懊悩する名薙をさり気なく支え続けたわけで、かなりの良妻でしたよ、うん。
改めて振り返っても、二巻でのキャラの掘り下げとストーリーの充実振りは見事の一言。作品として、一巻から確実にステップアップしてます。面白かった。

1巻感想