フルメタル・パニック!  アナザー5 (角川ファンタジア文庫)

【フルメタル・パニック! アナザー 5】 大黒尚人/四季童子 富士見ファンタジア文庫

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社長のマオがテロで倒れ、民間軍事会社D.O.M.S.は激しく揺れ動く。姿を見せぬ新首脳陣、経営方針の大転換に残されたアデリーナたちは戸惑いと苛立ちを隠せない。会社を離れた市之瀬達哉もまた、陣代高校の卒業を間近に控え、自分自身の道に迷っていた。やっと戻ってきた日常にもかかわらず、彼の心を支配するのは拭いきれぬ違和感ばかり。周囲とズレていく思考、埋められない家族や友人との差異。そして、仲間から突きつけられた厳しい選択―。苦悩と逡巡の末、達哉が下した大きな決断とは!?―。
わりと劇的な展開が続くわりに、案外盛り上がってこないような気がするんだなあ、なんでだろう。何だかんだと事態が一民間軍事会社の興亡に過ぎずスケール感が広がって来ないからか、演出が地味だからなのか。危急の時だからこそ、切羽詰まって追い込まれたような切迫感があんまり感じられず、達哉の選択にもカタルシスを感じさせられないのがちょっと此処ぞという時にぽんとテンションが跳躍する幅が広がって来ないんですね、うむむ。
達哉の懊悩、戦場という非日常の方に馴染んでしまったが為に日常生活に現実感を喪失してしまい、自分の立ち位置に迷ってしまう、というものはよく分かるんですが、彼が戦場の方に惹かれてしまう要因となる強烈なアンカーが存在しないために、なんかしっかりと決断してのことではなく、フラフラと誘蛾灯に引かれるみたいにして平和な世界、他人を脅かすことも脅かされることもない世界に背を向けてしまったみたいで、えらく不安なんですよ。本来なら、彼の非日常側の唯一無二のアンカーにして理由となるはずのアデリーナなんですが、残念ながら達哉と精神的交感が結ばれるような、つまり仲良くなったり想いが深く繋がるという展開も殆どないために、キャラはいいのに存在感がどうしても薄くなってしまってる。もっと、達哉の中で重きをなす存在になってもいいと思うんだけれど。まあ、確かにこの展開で必要以上にリーナの存在が大きくなってしまうと、彼女の存在が拠り所となりすぎて依存という形で丸投げになりかねない危険な要素になってしまうんですけれどね。ただ、フルメタのカナメやテッサが強烈なアンカーとして機能しまくっていたのを思うと、リーナの存在感の薄さがやはりもどかしい。
結局、既に本格的な戦場に舞台を移しつつあり、対テロ戦に入りだしているさなかで未だに殺す殺さないで達哉のみならず、複数人のキャラが引っかかってしまっているのが、はっちゃけられてない理由なんじゃないかなあ。だからと言って、どんどん殺れ、というのは全然違うと思うんだけれど、そこに拘り焦点を当てている限り、カタルシスという点ではなかなか盛り上がって行かないだろうし、内面の内々に潜り込んで行くことになってしまうでしょう。そこから、どうやってエンタメ作品として面白く出来るかは、筆者の腕の見せどころではないかと。
それから、復讐の正当性もアレなんだよなあ。冒頭すぐの場面で、達哉が普通は警察に任せる云々と言っちゃってるのはこの場合、完全に正論なんですよね。法に基づかない、権力に則らない私的な殺人行為はどうやったって犯罪行為なわけですから。あそこで、達哉が戸惑ってしまうのも彼が普通に生きてきた一般人の常識・感性からすると当然の事なんですよね。となると、クルツの行動も相当ヤバいんですが、彼の場合は人脈からして「権力」に守られる可能性が高いので、その意味では相手の黒幕と対等であり、ボーダーとしては真っ黒でありながらセーフ判定貰えそうなんですが。
ってか、法規を鑑みるならばそもそも民間軍事会社の社員がどこまで戦争行為を下請け出来るのか、というところから触れると感電して黒焦げになりそうな領域なんですけどね。
クララについては、まだ11歳の子供をいったいどういうポディションに据え置くのか。今後荒っぽい展開が増えていくだろう中で、この子の存在は宙ぶらりんになって扱いにくそうだなあ、と思っていたので、あのアイデアはグッドジョブ。あれなら、見事にクララもD.O.M.S.の一員になれますからね。
ボーダーラインをついに踏み越え、戦場側の世界に身を投じる事になった達哉。とは言え、それが覚悟を持って選んだ選択とはとても思えず、かと言って中途半端に浮ついた気持ちで流されてしまった形でもなく、どっぷりと深みにハマるようにして来てしまった達哉はどうにも不安定で危なっかしい。迷いながらも彼を迎えに行き、自分たちの世界にもう一度達哉を誘ったリーナには、相応の責任をとってヒロインとしての活躍を期待したいところである。これ以上達哉一人に任せっぱなしというのも如何でしょう。そろそろ、二人一緒に向き合って、支えあって、進みはじめる頃合いなんじゃないかな。

シリーズ感想