ヒーローから転職した俺の使い魔な生活 (一迅社文庫)

【ヒーローから転職した俺の使い魔な生活】 神尾 丈治/ねこにゃん 一迅社文庫

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新聞奨学生として生活する勤労少年・水野犬斗の前に突如現れた魔法少女カトリーナ。なし崩しの戦いに巻き込まれる犬斗だったが、あろうことかモンスター軍団の一体を倒してしまう。今でこそ変身できないが、かつては強化服をまとって戦うヒーローであり、彼こそが二年前に起きた大規模連続テロ事件に決着をつけた戦士だった!カトリーナから「使い魔の契約」を迫られ、戸惑う犬斗だったが―。魔法少女と元ヒーローの使い魔が織りなす学園バトルアクション登場。
パワードスーツに身を包む変身ヒーローと、異世界から現れた魔法少女というファンタジーとの夢のコラボレーション。このような異なるジャンルをクロスオーバーして描かれる作品には否応なくワクワクが募るばかりなのですが……ちょっ、犬斗の経歴が変身ヒーローにしても凄まじすぎるんですがっ。
昭和の仮面ライダーも真っ青な過酷すぎる戦いの記録は、さながらバッドエンドよりのノーマルエンド。既に一度主人公として自分の物語に決着をつけた登場人物が、全く新たな舞台と戦いに駆り出される、というシチュは珍しくはないけれど、これほど凄惨な結末を辿った主人公は早々いないんじゃないだろうか。
敵だった悪の組織も、詳細はわからないものの、起こした事件の悪辣さ、凶悪さ、非道さを見ても尋常ではなかった事がわかる。そんな相手と、お互いに全てを根絶やしにするまで戦い尽くした殲滅戦争。よくまあ、生き残った犬斗が社会復帰出来たものだと思わざるをえない。彼の後見役となった家族の親身な愛情ゆえなんだろうけれど、それでもまだ受験に頭を抱えて将来に思いを馳せるべき世代にすぎない若者が、夢も希望も抱く気力を失ってただ堅実に生を全うしようとしている姿には切なさしか浮かんでこない。
その意味では、カトリーナの出現と彼女の敵である魔族の国の軍勢との遭遇は彼にとっては生まれ変わる最大の機会だったのだろう。特に、敵の大将であるリザードマンのラプター将軍との出会いは、犬斗にとって大きな衝撃だったはず。既に過ぎ去ってしまった過去に囚われ自ら殻に閉じこもり動けなくなっていた犬斗の蒙を啓いたのは、敵であるはずのラプター将軍のお説教であったわけですから。
これまで、皆殺しにすべき憎むべきものしか敵として相対してこなかった犬斗にとって、初めて出会う尊敬できる良い敵。凄惨な殺し合いによって、友も家族も何もかも失ってしまった彼がようやく得た導き手が、敵であったというのは皮肉な話のように見えて、この場合はむしろ敵であったからこそ救いのようにも見えるんですよね。
そして、ヒロインであるカトリーナは、犬斗が全うできなかった純朴にして古き良き正義の守護者。守るべき倫理の担い手にして、素朴な善人。すなわち、誰もが思い描く正義の味方、そのものなんですよね。
ラプター将軍にしても、カトリーナにしても、元いた場所で邪魔者扱いされて異邦の地であるこの現代日本に事実上放逐されたはぐれモノ、ではあったんですけれど、そこで絶望ではなく自由を見出す両者は強い人達やでぇ。
特にラプター将軍たち魔物軍団は、見てくれからしてモンスターそのもので、現代日本に馴染めるはずもなく、隠れ潜みながら食料を略奪しつつ、アジトを確保しようと動いているんだけれど、文明レベルが中世のそれから来たにも関わらず、いち早くネット環境を理解して情報入手の手段を確保したり、社会構造を把握して人間と同じ外見の部下たちを、不法就労者に化けさせて一応まっとうなルートで金銭や住処を手に入れようとしたり、と適応力が半端ないんですよね。元々、ラプター将軍とその古参の部下は不正規戦をメインにしていたとは言え、ファンタジー世界から来て現代社会に浸透してしまえるその手腕はとんでもないです。ちゃんと、自分たちの戦力と、初めて訪れた現代社会の科学力の高さとの比較検討を行なって、まともに暴れれば即座に鎮圧されてしまう、と冷静に判断してますし。その上で、貪欲に状況を改善し、自分たちの利を確保する算段をつけようとしている。見識の高さといい冷静沈着さといい、ラプター将軍は名将と呼ぶに相応しいかと。だからこそ、その考え方の健全さも相まって、中央権力から危険視されてしまったのでしょうけれど。優秀すぎる上に清廉だと、だいたい不遇を託つんだよなあ。
思っていた変身ヒーローと魔法少女とのコラボとはなんか違いましたし、そもそも使い魔設定が上手いこと機能していない気もするのですが、シリアスな、特に主人公周りの設定が実に密度濃く掘り下げてあって、思わぬ面白さを噛み締められました。これはなかなかの佳作。というか、渋いよね。
続きも期待。