甘城ブリリアントパーク1 (角川ファンタジア文庫)

【甘城ブリリアントパーク 1】 賀東招二/なかじまゆか 富士見ファンタジア文庫

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謎の美少女転校生・千斗いすずが、可児江西也を放課後の教室でデートに誘ってきた。転校初日から校内で噂になるほどの女の子に誘われるというのは、悪くない構図だ。ただし―、こめかみにマスケット銃を突きつけられてなければ、の話だが。しぶしぶ承知して向かった先は「甘城ブリリアントパーク」。ダメなデートスポットの代名詞として名高い遊園地だ。そこで西也はラティファという“本物の”お姫様に引き合わされる。彼女曰く「あなたにこの『甘城ブリリアントパーク』の支配人になって欲しいのです」…って、なんで俺が。
平日に2000人から3000人お客が入っているなら、多い方じゃないのか? と、ついつい悪名高い第三セクターのあれやこれやと比べてしまうのだけれど、遊園地としてはこれではやっていけないもんなのか。ただ、年間百万人という入園者数の最低ラインはこれ、かなり低めに抑えられていると思う。確か、うちの近所の私鉄沿線の遊園地は、閉園した前年でも百万人超えてたはずですし、五年連続まで百万人割れを許容しているこの経営権に関する契約はむしろ甘め、とも言えるんじゃないでしょうか。
それなのに、五年間まともに対策も立てられず、半年どころか一ヶ月どころか、僅か2週間前になってあと10万人入園者をかき集めなければならない、というどう考えても絶望的な状況になってから、なんとかしてください、と頼み込んでくるのですから、無茶ぶりもいいところだろう、これ(苦笑
実際、当初はカニエくんも当然のように断りますし、いざ引き受けてしまってからも形振り構わない手段に打って出ます。ぶっちゃけ、これはまっとうな再建計画ではありません。二週間先を生き延びるためにその他の全てに目を瞑るような作戦です。たとえ生き残っても、その先は砂漠に真っ裸で放りされたようなもので、本当に先を何も考えていない、とにかく今を生き残る事に固執したような肉も骨も断ち切るような特攻です。それでもなお足りないあたりは、何気に生々しく、こういう場合奇跡を信じず、キレイ事などに見向きもせず、ダーティーな手段に打って出るを良しとするあたり、賀東さんらしい質がにじみ出ている気がします。
影では涙をのんだり、責任を負わされてえらい目にあったり、後始末に奔走している人たちも居るわけで、誰もが幸せな形で終われないんだよ、というような話をこんな夢の国を復活させるお話で無言でビシっと突きつけてくるあたり、まったく意地の悪い人である。
それでも、この一件に人の命が掛かっているというのなら、少年としても苦渋の決断をしなければならないわけで。本来何の関係もない人間にも関わらず、これだけの責任と決断を負わされるというのは普通に考えればたまったもんじゃないのですが、果たしてカニエ少年にはそれを成すだけの内なる理由があったのか。
実のところ、彼の過去の経歴にしても何にしても、様々な情報は伏せられたままなんですよね。とにかく、この一冊は甘ブリに二週間で十万人の客を呼ぶことと、マスコットに中の人は居なくて、加齢臭のするおっさんばっかり、という点に集中的に焦点がアテられていて、かなり的を絞った作りになってます。あとあと、話を広げていく余地と、キャラクターの背景を作り込んでいる素振りは十分に見せているので、あくまで今回はプロローグとして見るのが正しいのかも。肝心のヒロインであるラティファといすずにしても、あんまりカニエくんと絡む形では掘り下げてませんでしたし。
まあ結局のところ、可愛らしいマスコットの実体がくさいおっさんだった、という「中の人は居ない」というのをとにかく書きたかったんだなあ、というのがぷんぷん臭ってくる(苦笑
なんで、そんな居酒屋の酒やけしたおっさんトークにばっかりそんな力入ってるんだよ、なんかこいつらのきぐるみって、臭そうで嫌だw
個人的には「ふもっふ」言わずにしゃべるボン太くんは、完全にファンタジーです。

ともあれ、なんとか最初の関門は突破したものの、明らかに犠牲にしたものは大きすぎて、具体的には採算度外視しすぎてて、この段階で貸借対照表がどえらいことになってる予感。次は赤字経営の転換、ということになってくるんだろうけれど……無理ゲーでしょ、これw