翼の帰る処 4 ―時の階梯― 上

【翼の帰る処 4.時の階梯(上)】 妹尾ゆふ子/ことき 幻冬舎

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青鉄の鉱床発見の成果により、論功行賞を授与されることになったヤエトは皇都に赴き、皇帝から『隠居』を告げられる。かねてより、強い隠居願望を持っていたヤエトは静かに暮らせるかと思いきや、政務の引き継ぎや皇女との関係で慌ただしい日々を送っていた。そんな中、エイギルとミアーシャの息子のキーナンと養子縁素をし“黒狼公”家を継がせることに。政務を離れ「魔界の壺」がある場所の探索に本腰を入れるため砂漠へ旅立つが、「復縁」を迫られた皇妹殿下とヤエトは過ごすことを余儀なくされ…。
なっ、なっ、なっ、なんばしよっとかーーー!! こ、こ、この男、一体何を考えてんだ、いったいいったい!
あかん、これまでは皇帝陛下や皇妹殿下に無理難題を言われて困り果てるヤエトを同情の目で見ていたんだが……いや、考えてみると別にこの男を同情の目で見たことはそういえばなかったな。吹けば死にそうな病弱さにハラハラすることはあっても、その性格ときたら全くもってイイ性格としか言いようの無い慇懃無礼さで、むしろヤエトの為に七転八倒するはめになってる皇女様の方に同情していたんだっけ。だがそれでも、虚弱体質の中無理をおして皇女の為にあれこれ苦労を背負っているヤエトに対して、よくやってるとは思ってたんですよ。いくら当人にやる気がなくても、ちゃんと辣腕の公爵として振る舞い実績をあげてるんだなあ、と。そんな彼に、愛娘を愛するがあまりちょっかいをかけてくる皇帝陛下に、あんたもいい加減にしなさいよー、とか思ってたんですよね……。
だがしかし、この期に及んではむしろ皇帝陛下に同調するぞ!! 今となっては、皇帝陛下にこそ共感するぞ!! この男は、もうちょっと苛めてやらないと気が済まん!! お父さん許しませんよ!!
わはは、もっと苦労してひーひー言いなさいな、こいつめっ、こいつめっ(笑

とまあ、思わずというか我慢ならずというか、皇帝陛下の応援団へと転身してしまったのですが、決して二人の仲を引き裂こうとか、反対だとか思っているわけじゃありません。むしろ、よりお似合いだ、という想いを新たにさせられたくらい。これまで不安定だった二人がくっつくという形に対しても具体的にイメージも湧いてきて、しっくり来るようになったわけですが……ただ、こう、認めるにしてもこのままじゃ済まさん、ただじゃこの娘はやらんからな、絶対! という気分にさせられてしまっただけなのです。こう、意地悪してやるたくなっただけなのです。苛めて、いびって、あの娘はそんなに安くはないんだからな、と思い知らせてやりたくなっただけなのです。
まあ、あの男の性格からして、愚痴まみれになりつつも、実際は何にも堪えてなどいないのでしょうけれど。ええ、そりゃあもう、うんざりしながらも全然堪えてないに決まっているのです。そんなんもう、さらにイビってやるしかないやないかぃ!!
皇妹殿下はあの通り、面白がってるばかりなので役に立ちません。誰か、このヤエトさんに訥々とお説教出来る年配のお姉さんを所望します! ジェイサルドはあきません、あれは単なる過保護な爺さんです。こう、ヤエトが反省してくれるような痛烈なお説教は、この人には無理です。無理というか、そういうタイプじゃないしなあ。

というわけで、ヤエトさん、今回物凄いことをしでかしやがってくれやがりました。それ以前に、姫様からしてもう物凄い行動に打って出てきなさるのですが。この人がここまで具体的に想い入れているとは思わなかったなあ。もうちょっと自覚のないあやふやな気持ちだと思っていたので、はっきり答えとして自分の気持を持っている、しかもそれをぶつけてくるとはかなりの奇襲攻撃でした。かわいいなあ、もう。
それに対するヤエトの反撃が、そりゃあもう……何を考えてるんですかっ、とお説教したくなるような行動でして。ああもう、たちが悪いなあ(笑
この人、口ではあんなこと言いながら、絶対に姫様のこと誰にもやる気ないじゃないですか。悪魔か、こいつ。皇帝陛下がある意味目の敵にしているのも、納得ですよ。目の敵にしますよ。いやあ、実際はかなりのお気に入りなんでしょうけれど、それとこれとは話が別。せめて玩具にしないと気がすまないですよ。わかります、凄くわかりますよ、お父さん! 私も、むしろヤエト先生については見直した、と言っていいくらい尊敬の念を深くしたのですが、それとこれとはまた別だw

一方で微笑ましいのが、黒狼公から隠居する事になったヤエトが、後継者として養子にした先代黒狼公の血族の少年であるキーナンくん。意外とお父さん役が様になってるヤエトですけれど、この素直で利発そうな少年と、かつてヤエトに救われた少女スーリヤとが、またいい雰囲気なんですよね。身分とか立場とか、スーリヤがまた色々と難しい事情を抱えているのもあって簡単にはいかないでしょうけれど、この幼い二人には良い仲になってほしいなあ。そして、少年は恋愛についてはこんなお父さんは見習わなくていいですよ。

ようやく夢だった隠居を許してもらい、楽して怠けられると思ったら更に忙しくなって愚痴るヤエト……ザマア。と、多分皇帝陛下と同じ顔でせせら笑う私が居る。さあさあ、可愛い姫様のためにもっと馬車馬のように働きなさいな。死なない程度にね。

シリーズ感想