東京レイヴンズ9  to The DarkSky (富士見ファンタジア文庫)

【東京レイヴンズ 9.to The DarkSky】 あざの耕平/すみ兵 富士見ファンタジア文庫

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「オーダー!」
信じない。死んでなどいない。まだ取り戻せるはずだ。枯渇しかけた力をひたすらに治癒符に込め、春虎は呪を注ぎ続ける。主を―大切な幼なじみを呼び戻すために。
遂に夜光としての力を覚醒させた春虎。だがその代償は大きく、暴走する『鴉羽』から春虎を庇った夏目はその命を落とす。
「泰山府君祭だ。泰山府君祭なら夏目を生き返らせられる…!」
一方、千年にわたりこの国を統べてきた陰陽術、その真なる復権を掲げる双角会が姿を露わにしたことで、大友や木暮ら『十二神将』たちもまた、それぞれの信念のもと呪術界を巻き込んだ戦いへと身を投じていく―。
うおおおおっ!!
第一部完結編に相応しい、壮絶怒涛の盛り上がり。盤面返しの連続に、燃える燃える燃え上がる。読んでて何度も何度も雄叫びを上げそうになる。琴線をかき鳴らす言葉が舞い踊る。魂を魅了する表現がほとばしる。凄い、まったくもってすごすぎる。
これぞ、あざの作品の真骨頂というべき大活劇!!

夏目、死す。

衝撃の展開から幕をあけたこの第九巻。そんな絶望からはじまる長い長い濃密なまでの一昼夜。そう、この一冊はほんの一日半にも満たない時間で起こった出来事を詰め込んでいるのだ。暴風のような、深淵のような、あの激しくも時の流れが止まったかのような圧縮された時間が、この一冊に詰め込まれている。それを思い返すと、一瞬言葉を失ってしまう。この日を境に、これまで思い描いていた未来がすべて一変してしまった少年少女たちの事を思うと、絶句してしまう。何もかもが変わってしまったのだ。もはや後戻りできない場所に、唐突に突き進んでしまったのだ。もう何も背負わずに済んだ子供の時代を追えなければならなかったのだ。大人たちに守ってもらう立場から、皆が独り立たなければならなくなった。そうして放り出された場所は、それぞれの戦場。これほど激しい戦いの一夜をくぐり抜けた先もまた、終わりもなく先も見えない道であり戦場なのだ。それを思うと、彼らの想いと覚悟を想像すると、ただただ言葉を失ってしまう。
一夜にして全てが変わってしまったのは、彼ら子供たちだけではない。大人たちもまた、それぞれ抱え信じていた世界を、この夜を境に失って、未知なる闇へと漕ぎだすこととなった。先のない闇夜をゆくは、もはや子供も大人も、敵も味方も変わりない。未曾有の変革が訪れてしまったのだ。
その一部始終が此処にある。
此処に、余さず描かれている。
喪ったものを取り戻す夜闇の戦いが、ここに全部描かれている。

凄かった、繰り返すが凄かった。あざのさんはほんと、DクラでもBBBでも、それまでの状況を全部ひっくり返す決戦を描いた時、他の追随を許さない天井知らずのテンションに達することを、このレイブンズでもはっきりと示してくれた。この人が総力戦を描き出すと、比喩でなく全員に見せ場あるんですよね。今回に至っては、京子の覚醒と天馬の活躍にはぐうの音も出ないほど唸らされた。特に天馬である。彼の果たした役割というのは、今回の一連の出来事において、もっとも重要にして大仕事だったといえるんだけれど、演出や表現の仕方によっては全く目立たない地味な仕事に終わってしまってもおかしくはないんですよね。でも、それをあざのさんは見事に盛り上げ、緊迫感をはりつめさせ、価値を爆上げするのである。天馬がやってることがどれだけ物凄いことか、とんでもないことなのか、敵味方を問わず、どれほど狡猾だろうと深慮遠謀の持ち主だろうと関係なく、全員を出し抜いてみせたのだと知らしめるような、描き方なのである。この人ほど「魅せ方」というものを心得た作家は数少ない。文章というものの強みを本当に掌握しきって、天元の武器として自在に操りきっている。毎度ながら、その事実には感嘆させられてばかりだ。
そして、コンによる天啓ともいうべきあの言葉。目から鱗が落ちる、というべきなのか。あの場面は春虎と同じように「あっ!!」と声を漏らしてしまいましたよ。どうして、その発想がなかったのか。それ以上に、コンの言葉でそれまでの雰囲気、逆らいがたい激流のような流れがピタリと静止し、全部ひっくり返ってしまうのである。揺ぎないと思われていた認識が、根底から全部ひっくり返ってしまう、パラダイムシフトとすら言えてしまいそうなほどの大転換。劇的なまでのそれを、ここでもまた見せられてしまった。だから、この人のファンはやめられない。まったく、たまらない。
そして、ついに姿を表した夜光の懐刀、飛車丸。いやほんと、どうして彼女がそうだという発想がなかったんだろう。正体が明らかになってしまうと、どう考えたって彼女が飛車丸以外ないじゃないですか。夏目があからさまに女性にも関わらずバレなかったのと同じ、これは乙種そのものだと言わざるをえないよなあ。まさに、術中に陥っていたのでしょう。角行鬼、夜叉丸、蜘蛛丸が事実上人間そのものだったから、無意識に除外してたんだろうなあ。
クライマックス、角行鬼と飛車丸を従えた春虎の姿は、挿絵もないにもかかわらずありありと色鮮やかに脳裏に浮かび上がって、正直震えました。あのシーンは、鳥肌モノ。

でも、となると夏目は何者なんだろう。私は、てっきり春虎と取り替えっこした形で、春虎の両親の実の娘なのだと思ってたんですが、鷹寛・千鶴夫婦の反応を見ているとちょっと微妙なんですよね。夏目に何かあったと知った時の反応が、実の娘に対するそれとは微妙に違っていた気がする。北斗を使役出来て、夜光の生まれ変わりと噂されるに相応しい力量を示すに足る根拠が夏目にはあって然るべきなんだが、泰純が春虎の影武者となれるだけの才能を夏目に見出していないと身代わりにはなかなか成り得ないだろうし。鷹寛・千鶴夫婦の娘なら、血統的な根拠もあるので順当だとは思うのだけれど、もしそうではなかった場合、まだ夏目には秘密が残ってるということになるんだろうか。

いずれにしても、学生編、雛鳥編ともいうべき第一部が幕を閉じ、これがようやくの折り返し地点。これで、まだ折り返し!! そりゃあ、第二部に期待するなという方が無理でしょう。さあさあ、まだ鈴鹿たちのように本領を発揮する機会を逸している娘たちもいるのです。なんて楽しみなことでしょう。あんまり待たせると、首が長くなりすぎて折れてしまいそうなので、続き、頼みますよ〜〜♪

あざの耕平作品感想