バロックナイト2 (MF文庫J)

【バロックナイト 2.Fallen Angel:歪曲天使】 葉村哲/ほんたにかなえ MF文庫J

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魂を接続する幻想空間『レガシーオブタナトス』におけるバトルゲームに参戦を決めた京耶は、自らの秘密を徐々に知っていく。
そんな中、ゲーム管理者側の一味であり京耶の前妻――元恋人と主張する瑠璃子から協力要請があった。ゲーム内で頻発する“大量殺人"。人型レガシー『切り裂きジャック』に乗っ取られたプレイヤーに肉薄せよ!! 世界を侵食するレガシーとはいったい何か、セフィロト社の真の目的は? 京耶とバロックは深遠に踏み込んでいく。
因果と天命が交差する、アンノウンバトルアクション疾走する第二弾!
うわぁ、これはまたダークサイドに思いっきり舵を切ってきたものです。一巻はわりと多くコメディタッチの要素を残していたのですが、今回に至っては京耶が面白むっつりスケベな一面を封殺して、記憶の狭間で正気と狂気の淵をフラフラと歩く極めて危険な主人公として動くことになる。特筆すべきところは、バロックにまったくストッパーとなる意志がないところでしょう。殺人に対する忌避感を持たず、しかし殺人を忌避する倫理観を備え持つがゆえに辛うじて一線を越えずに居る現状の京耶を、バロックは肯定も否定もしていません。彼女にとって執着スべきは京耶の存在そのものであって、彼の精神性や正気度というのは言っちゃあなんだがどうでもいいと思っている節がある。彼が狂った殺人鬼であろうとなんだろうと、自分を嫁として大事にしてくれるなら彼が一線を越えようが何をしようが関係ない、と。それどころか、自分に都合が良いと考えれば京耶に一線を越えさせようという謀略に嬉々として手を貸した、と捉えられても仕方ない行動にすら出ている。そこに、罪悪感というものは露ほども感じられない。彼女の真意が、表に見える言動に終始しているのなら、彼女は文字通り堕天使と呼ばれるに相応しい存在だ。世界よりも秩序よりも正義よりも倫理よりもただ一人の男を愛するために、欲望のまま本能のまま想うがままに弄ぶ邪悪にして一途な天使と呼ぶべきなのだろう。
記憶の途切れた少年のまどろみにも似た温くも穏やかな日常は、気がつけばすでに遠く果ての果て。ふと見渡せば、悪意と殺意はゲームという枠組みを超えて軽々と現実世界への侵食を開始している。いや、すでに失われた記憶の向こうで、京耶はすでに血塗られた道を歩んでいたのだ。罪も業も記憶とともに喪われたわけではない。ただ、消し飛んだ記憶によって見えなくなっていただけで、常に彼の傍らに寄り添い続けていた。ただ、それが見え始めただけなのだ。えずくようなむせ返るような濃密な血の匂い、一度思い出してしまえば自分の身体から漂うその腐臭をもう無視できない。
どれだけ京耶が善意を持って行動しようとも、人を殺すことはイケないことなのだという倫理にしがみつこうとも、これは最初から手遅れの、終わりを迎えた向こう側からはじまった物語である以上、取り戻せる因果は自分の犯した罪の報いだけなのだ。だから、どれだけ早香さんとフラグが立ったように見えても、立った瞬間からフラグは折れたも同然だったのである。捨てられた前妻である瑠璃子の悲壮も、現妻であるバロックの余裕も、そのように視点を置けば必然なのだろう。特に瑠璃子の、京耶に記憶を取り戻させて関係を取り戻そうという意欲も、関係を刷新して新しくはじめようという意志もなく、宙ぶらりんな状況のままですがるように撓垂れ掛かるような京耶への接し方は、京耶がどうやっても終わり切ってしまっている事を誰よりも身に沁みて解っているからなのだろう、と思えてくる。この間で描かれた京耶の喪失に伴う彼女が抱いていた絶望感を思うなら、この奇跡のような猶予を壊せるわけもなく、恐る恐る堪能してしまうのも無理からぬことだと納得させられる。思いの外、彼女は臆病で繊細な女性なのだ。なるほど、瑠璃子がバロックから彼を強奪にかかれないはずである。
今のところ、京耶当人がいったいどうしたいのか、という目標や目的意識もなく、淡々と状況に流されているだけなので、しばらくはこれバロックの想うとおりに進んでいくんだろうなあ。容易にポコポコと人死も出ている状況でもあり、このまま話はどっぷりと作者の趣味に準じていくと思われる。
とりあえず、無意識に脳内で女性を全裸に剥いて分析を始める京耶さんは、シリアスなのか単にむっつりスケベを抉らせているのか判断しづらくて、とりあえず笑うしかなかった。こいつ、色んな意味で手遅れだw

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