聖剣の刀鍛冶15 (MF文庫J)

【聖剣の刀鍛冶 15.Sacred Knight】 三浦勇雄/屡那 MF文庫J

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王と、獣と、機械機構と、神とも呼ばれた“それ"――。過去、初代ハウスマンが実験台と呼び、いま、帝政列集国が魔王と呼ぶ、大陸の心臓“ヴァルバニル"が、遂に火山の頂に威容を表す。高濃度の霊体を吐く一撃で新たな“爪痕"を穿ち、触手で敵味方なく戦士たちを奈落に引きずり込む巨竜に為す術のないセシリーたち。一方シーグフリードは大量の魔剣を投じ、ある“作戦"をはじめようとしていた――。
焔がすさび灼熱の炉と化す戦場の真ん中で、聖剣の騎士が真正面から立ち向かう!!
壮大なファンタジー叙事最新巻、遂に決! 着!
終わったなあ……。なんともはや、ついに終わったなあと感慨深く思う他無い完結編でした。正直言うと、最後の三巻は一気に纏めて読みたかったように思う。一度区切られてしまったせいか、作中で既に天井付近まであがっちゃっているテンションになかなか追いつけなかったんですよね。ラストの三巻はまるごと最終決戦だったわけですし、一度決戦がはじまってしまったら一息つける展開が一切なかったですからねえ。まあ、この三冊をまとめて出せ、というのも酷な話なんですが。
ついに復活してしまったヴァルバニル。世界観からして、ドラゴンが跋扈しているような世界じゃないので、こんなどでかいドラゴンが現れたら、そりゃあ洒落にならんよなあ。もはや怪獣そのものである。おまけに、端末である触手まで網のように伸ばしてくる始末。触手に巻き取られ、次々に人間が捕食されていく様子は想像するだけでグロいなんてものじゃない。ビオランテか!!
でも、お約束というべきか、この脅威ですら先代聖剣に言わせると、かなり弱体化しているというのだから、前回封印した時はいったいどうやって事を成したのか。先代聖剣の豪壮さを見るに、当時彼女を携えた人もその仲間たちも今に勝るとも劣らずというとんでもない連中だったのだろうなあ。ただ、現代のセシリーたちも無茶苦茶さ加減では全く見劣りしない。心折れるとかへこたれるとかいう感情の動きは、もう遠い昔にかなぐり捨ててきたかのように、これほど強大な人間が太刀打ちできるとも思えない怪物に、不屈不撓に立ち向かうセシリーたち。この人らはこの人らでもう怪物じゃないかと思えてくるくらい。普通の人間でも一線を越えてしまうと果てをなしくてしまうのか。特に、ルークの身も心も惜しみなく削りに削って戦い尽くす鬼神ぶりは、身震いするほどの鬼気であり、嫁をもらった男の不退転の恐ろしさを痛感させられる。結婚してだらける男とちょっと落ち着けと言いたくなるほどやる気を漲らせる男の両パターンがあるとして、ルークは完全に後者だな、これ。
余りにも後先考えない身の削り方はさすがに目を覆わんばかりで、後の救済措置やフォローもなかったことから、恐らく戦後まず長らくは生きられなかったのではあるまいか。本気で、ただ死んでないだけ、みたいな有様だったもんなあ。ただ、嫁があの嫁だけに…止まることを知らず、ヴァルバニル戦が終わってもなお休まず突っ走り続けることを表明したセシリーの人生のパートナーとして、最期まで付かず離れず寄り添った事は想像に難くない。この二人って、やはりヒーローとヒロインが逆転している部分が目につくよなあ、面白い。
アリアの覚醒や、ヴァルバニルとの決着はここまで長く引っ張った割にはあっさり風味でやや肩透かしだったかも。特にアリアについては随分とやきもきさせられましたからね、彼女の聖剣としての覚醒にはもっとカタルシスが欲しかったところですし、結局のところ新生アリアに対しては親しみを感じさせるエピソードが少なかっただけに、喪われたかつてのアリアや銘無しを惜しむ気持ちが絶えなかった事も大きいのでしょう。新しいアリアが正しく二人の魔剣の魂を引き継ぐもの、として実感を得られるものがもっとあればよかったのですが。
特に旧アリアはなあ……罪作りにも程がありますよ。ユーインに酷な覚悟させちゃってまあ。二人には魔剣と人間としての境界を超えて結ばれ幸せになって欲しかっただけに、切ないですよ、あれは。

敵役だったシーグフリードは、最後の最後まで誰とも相いれぬまま己を貫き通した、という意味ではきちんとセシリーたちの対局を成し得たのではないでしょうか。境遇が境遇だけに、悪と断じるわけにも行かず、欲望や野望に殉じたわけでもなく、どちらかというと世界を巻き添えにした鬱憤ばらしではなかったのかと思わないでもないですが。その意味では、エヴァドニがダダ甘お姉ちゃんを自称したのもわからなくはない。お姉ちゃん、弟くんに好きにやらせすぎです、ちょっとは窘めてくれればよかったのに。まあ、当人まったく後悔もないどころか、弟くんが好き勝手出来たことを最期まで手伝えたことに満足しているようなので言っても詮なきことですが。

ラストエピローグは、アット驚く演出で、これはやられたなあ。あいやー、やられた、と柏手一つ。なるほど、ヒロインではなかったリサの存在とは、つまりこうした役割を担うためのものだったわけですね。

いずれにしても、完走お疲れ様でした。ほんとに、最後まで全力疾走だったなあ、と感嘆するばかりです。
このシリーズは、表紙絵でセシリーが毎回作中に準じたコスプレショーを見せてくれることで目を楽しませてくれたものですけど、最後はさすがにコスプレも無しかー、と思ってたら、このルークとのツーショット、ちゃんとこれもこれまでの続きにして締めとなる表紙絵であったらしい。あとがき見て吹きましたわ。担当さん、その発想は勝利も同然だわw

シリーズ感想